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 月の中央に位置する大講堂では、今まさに指導部による議論が交わされていた。国内の重大事案を
話し合う場であるこの講堂には、年一回主だった首脳部が集まり色々な物事が決まっていく。
議事通りに進んで行く筈の場において、唐突に依姫の声が響き渡った。
「私の○○が相応しくないと?」
「穢れた地上の人間など、果たして月に相応しいかと申しただけだ…。随分とただの人間に入れ込んでいるようだが、
貴殿は何か身に覚えでもあるのかね?」
依姫に向けて嫌らしく言う男。依姫とは遠い派閥である者にとっては、どのような事であっても攻撃を加える材料になるのであろう。
「成程…、つまりそういう事だな。」
立ち上がる依姫。腰に差した刀が抜かれることを予期してか、男を守るようにガード役が二人の間に立ちふさがっていく。
「あなたは○○が穢れているという。それは即ち、○○の側に居る私も穢れているということだ。ならば、
神に決めて貰おうではありませんか。公平、正大に。」
中央の広間に進む依姫。相手との間に存在している、議論の相手に剣が届かないようにとの信念を持って作られていた空間は、
この瞬間にその歴史的な意味を発揮していた。
「盟神探湯を行いましょうか。大神(オオミカミ)のお力によって。」

 依姫が腕を上げると議事堂が真っ赤になった。突然大きな炎が講堂の真ん中に現れていた。燃えさかる炎が依姫と男と赤く包む。
周囲にいた人は慌てて後ろへと逃げていくが、不思議と彼らは熱は感じず、服も焦げていなかった。
「さて、如何ですか?」
依姫が男の方へゆっくりと歩いていく。炎に全身を包まれている筈なのに、依姫の足取りは確かであった。
護衛と共々すっかり運命を共にしていた男の下へ依姫が辿り着くと、炎は急に消え去った。
火傷一つ無い腕で、男の一部だった物を持ち上げる依姫。黒い塊が崩れ、炭が僅かに零れ落ちた。
この場にいる者に審判の結果を見せつけるように掲げる依姫。
「さて、私と彼、どちらが正しかったか…お分かり頂けましたでしょうか?」
誰一人として、彼女の質問に答えようとする者はいなかった。

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最終更新:2020年02月25日 11:46