ちっくしょう、ホントに誰もいねえぞ。

旧地獄街道その大通りを走りながら○○は驚く。
普段なら魑魅魍魎が酒を飲んで大声で笑って将棋を指したりなんだりで実に恐ろしい(付き合わされる身にしたら)場所なのだが、今日に限っては姿どころか酒の匂いさえしない。
地底に来てからそこそこの日が経ったが今までこんなことは一度もなかっただけに○○はビビりまくっていた。
それに加えて今現在彼は逃亡の真っ最中なのである、地霊殿からここまで来れば顔見知りの妖怪にでも助けて貰えるだろうと考えていたのが、肝心の助けを乞う相手がいないのだ。
もうビビるしかない。




そもそもなぜ彼が逃げまわっているのかと言うと、彼が先程逃げ出してきた地霊殿がらみのことだ。
地底に来てから地霊殿に住み込みで働いていたのだが、そこの主、古明地さとりに偉く気に入られてしまったのだ。
最初はキャッキャウフフと仲睦まじい恋人同士だったのだが、日を重ねるにつれて彼女の独占欲は強くなっていった。
彼女は心が読めるなので彼の行動などお見通しだったし、自分を本心から好いてくれているのも分かっていた。
しかしそれでも彼女は不安でたまらなかった。
それに加えて自分以外の人妖含めて誰とも関わって欲しくはなかった。

なので彼女は行動した。さとりと○○愛のラヴラヴ計画発動である。
計画のコンセプトは二人が二人だけを見つめ合い愛しあっていけること、である。手っ取り早い話○○を地霊殿の一室に監禁しちゃおうというもの。
彼女は、完璧な計画ね、と満足し朝食を二人でとった後○○を二人の愛の巣に連れて行き、ここでずっと二人っきりで暮らしましょう?と言った。
この時の彼女の迫力は凄かった、三つの目を爛々と光らせ息も荒くコードを○○に巻きつけ、普段の彼女からは信じられないような握力で○○の手を握って部屋に引き釣り込もうとしたのだ。
さすがにここまで迫力が増すと○○も、ハイそうですか、などと同意など出来ない。
思いつく限りの言葉で説得をしても、さあさあこっちですよ、などと全く○○の言葉が耳に届いていなかったので○○はあらん限りの力を振り絞って
自分でもどう逃げ出したのか分からないが、なんとか逃げ出して来たのである。






「お~い勇儀さ~ん?いる~?」

大通りから少し外れた一軒家、彼は普段なら酒瓶を持っているか杯を傾けているか樽を抱えているかしている勇儀宅の戸を開いた。
外と同じく誰もいない。

「誰かいますか~?」
隣の家の戸を開けて聞いてみるが誰もいない。

「おらおら人間がのこのこやって来たぞ!」
今度は少し戸を荒く開けてみる、誰もいない。

「おらあ!電気料金の徴収じゃあ!」
ヤクザキックで戸を蹴破って入ってみるが、誰もいない。

一戸一戸尋ねるのも時間が惜しくなり窓に石を投げつけて誰かいるか確かめる。
ガシャーンガシャーンガシャーン
やったぜ!全弾命中!さあ誰か怒鳴ってこい!

そう身構えるがガラスが割れる音以外には何も聞こえてこない。

こりゃあ本格的にヤバい、本当に自分以外他に誰一人いないのである。すなわち誰にも助けは乞えない。
こんな状況でさとりやそのペット達が追ってきたら人ごみの紛れて姿を隠すことすら出来ずに捕まってしまうだろう。
地霊殿からここまでSTGに例えるなら一面分ほどを突っ走ってきたことに加え、捕まった時のことを考えて○○は思わず胃の中身を戻してしまった。
吐しゃ物の中に消化しきれていない朝食の欠片があった、飯に変なものを混ぜたりしてたのかな、そう考えてまた嗚咽をする、今度は何も出なかった。





なんとか気分を落ち着けた後、○○は地上へ通じる洞穴へ向かった。
どっちにしたって地底から出るにはあそこを通るしかないし、
手前の橋には年がら年中橋姫がいるから事情を説明し地上まで連れていってくれるかもしれない。そんなに愛されて妬ましいと言われる確率の方が大きいだろうけど。
街道を隠れながら進み橋。またしても誰もいない。くそうと思いながら洞穴に向かう、看板がある。


地上まで666階


「なんだと!だけどダイジョビ!上下さかさまにして見れば…」

999階

「くそう!階数が増えたぞ!」

そんなボケをかましながら下(上下さかさまなのでつまり上)を見ると紅白のふわふわした物が浮かんでいた。
もしやと体を起こし見上げると、間違いない霊夢がいた。

おーい、と手を振る。霊夢も○○に気がついて手を振り返す。
ふう、これで一安心だ、と思ったのもつかの間、霊夢はそのまま洞穴を昇って行った。

「え!?お~い!待ってくれ!バイバイじゃない!戻ってきてくれ~!」

その声も虚しく霊夢とグングン昇っていき見えなくなった。


「…仕方ねえ、登るか」

そうつぶやき階段に足をかけ








ふふふ―――地霊殿の一室、彼女と○○の愛の巣に笑い声が響く。
彼女の膝の上には汗を流しウンウンとうなされているような○○がいた。
いや、彼女によってよりうならされているのだ。
○○を愛の巣に連れていこうとした彼女は抵抗する〇〇に催眠術をかけた。その内容は○○がここから逃げ出せたらというもの。
催眠術が使えるなら最初から自分に惚れさせてしまえばいいじゃないかと思えるかもしれないが、そこは彼女の(ちょっと歪んだ)愛情である。

ともかく催眠術にかかった〇〇は彼女の見せる世界から抜け出せずにいた。

様々な状況を作り出せる彼女はまさにこの世界の神であった。
ちょっと心理的負荷を大きくしたり逆にお気楽にと○○の心理を操りその反応を見るのも楽しかった。
しかしそれもそろそろ終わりだ、たとえ催眠術の中でも他の女が出てきたのは彼女にも予想外だった。○○は私だけを見てればいいの、そう思いながら〇〇を揺り起こす。

○○がうっすらと目を開ける徐々に大きくなり彼女を見つめる。先程よりかいていた汗がさらに多くなる。


「さ、〇〇、これからは生の時間よ」

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最終更新:2011年03月04日 01:37