蛮奇/25スレ/430





はたして私は○○の妻となったわけだが、私の業はそんな程度で収まってくれるほど浅くはなかったらしい。
 朝はいつも彼よりも早く起きては寝顔を眺め、夜は彼と共に眠りにつく。彼から視線を一寸たりとも離したくないという思いが強かった。
 ○○が仕事へと向かうときも頭を一つ尾行させ、彼の帰りが遅い日はその頭の力を借りて彼を監視しつつ家で彼を待った。
「遅くなって悪かったね。先に寝ていてくれても良かったのに」
「気にしないで。あなたのことを想っていればこんな時間などあっという間よ。
 どこに行ってたの?」
「△△の奴が一緒に呑もうって言うからさ──」
 彼は嘘偽りなく今日のことを話す。他の女の絡むような、話せば私が不機嫌になると分かっていることですら。
「蛮奇は耳聡いからな。どうせどこかから知られるんなら、素直にゲロっちまった方が良いだろ? やましいことは何一つしてないんだから」
 ○○は誠実だ。そんな彼だからこそ私は惚れ込んだのだし、それでもなお彼のことを信用しきれない私に嫌気がさす。

 ある日、朝食を食べていると彼が唐突に切り出した。
「俺達、別れた方が良いんじゃないか」
 青天の霹靂に、私は持っていた箸を取り落とした。
「ど、どうして? 私が嫌いになったの?
 それとも、私以上に好きな人ができたの?」
 うまく回らない舌で必死に彼を問い質す。彼の返答は、思いもかけないものだった。
「俺と話してるときの蛮奇ちゃん、苦しそうじゃないか」
 自覚はある。どうやら彼の目は誤魔化せなかったらしい。彼も私のことを見てくれていて、心配してくれていて、それがたまらなく嬉しくて、でもそれが彼を苦しめていて、そもそも私が悪いのに、どうして私は彼を信じきれていないのか、私は彼をどうしたいのか。
 色んな感情が綯い交ぜになって、考えがまとまってくれない。でも黙っていることは出来なくて、もごもごと言葉にならない声だけが漏れる。
 そんな私の様子を見て、○○はただ表情を硬くするばかりだ。
「俺はね、蛮奇ちゃんのそういう一人で抱え込んじゃうところだけは嫌いだよ」
 ○○に嫌われた。私はいよいよ言葉すら出なくなって、水面に浮かぶ魚のように口をパクつかせるだけとなった。
「正直、俺は蛮奇ちゃんがどこまで俺のことを好いてくれているのかを計りかねているんだ。蛮奇ちゃん、告ってくれた日以外で俺に本音を言ってくれたことって無いだろ?
 俺は地底に住んでいるっていうサトリ妖怪じゃないんだ。言葉にしてくれなきゃ何も伝わらない」
「……それはそうだけど、私は怖くて仕方ないの。
 もはや私は○○無しではいられないのに、私みたいな女の本性を知ったら○○は私の傍から離れていってしまうかもしれない」
「まさか、俺は蛮奇ちゃん一筋だよ」
「それなら」
 私は全て打ち明けてしまおうと決めた。
「私が『他の女と一言も話さないで』って言ったら従ってくれる?
 私があなたをこの部屋に閉じ込めたら逃げ出そうとしない?
 私が何をしても私を嫌わないでいてくれる?」
 ○○の顔が引きつった。
「確かに、そこまで行くとさすがに難しいかもしれない」
「だから私は、そういうことを考えてしまう私が大っ嫌い。
 ○○と話していると、そんな私のことを嫌でも意識しないといけないから胸が苦しくなる」
 言葉に出すと肩の荷が少し下りたが、私が下ろした分は○○に背負わせてしまったようだった。
「これは、想像以上にゾッコンだな」
「私が我慢すれば全て丸く収まるなら、いくらでも我慢するから」
「しかしだなぁ、俺は苦しんでる蛮奇ちゃんなんて見たくはないんだ。少しぐらいなら我が儘を言ってくれたって良いんだぞ」
 ああ、○○は優しい。
「それなら、私のことをただギュッと抱き締めて」
「そんなことで良いのか? いつも、もっと凄いことしてるってのに」
「ええ、それだけでいいの」
 同衾とは違い快楽を介さない、ただ愛を確かめ合うためだけの行為。それが私にとってこの上ない贅沢なのだ。






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最終更新:2020年09月20日 18:42