無様な




 無様な

 「うわーん!!」
地底の奥底に位置する地霊殿のそのまた最奥に作られている執務室。普段ならば静かに地霊殿の主が執務を執っている
のであるが、その日に限っては少々-いや大分と騒々しさが増していた。人目も憚らずに部屋に飛び込む男。そのまま
目に付いたさとりに向かって飛び込んでいく。机の前に座っている筈の彼女が部屋の中央まで動いていたのは当然ながら
彼女が能力を使って男の声を読んでいたためである。もっとも、誰が聞いても読み間違える筈など無いものであるのだが。
「どうしましたか、○○さん。」
「さとりぃ…。」
情けない声を出す男を宥めるさとり。ソファーに埋もれるように座るさとりが男の頭を抱える。涙が流れる顔がそのまま
服に押しつけられていくが、さとりは気にも留めずに男の頭を撫でる。
「さとり。」
「はい。」
「さとり…。」
「はい、○○さん。」
「ううう…。」
「大丈夫ですよ。」
声も出せなくなった○○をソファーに横たえ、膝枕に乗せてさとりがあやす。赤子に子守歌を歌うかのように彼女の言葉
が空気に乗せられて、男の中に染み渡っていく。
「悔しかったんでしょう。」
さとりの膝の上で男が頷く。
「恐かったんでしょう。あんな事があったんですから当然ですよ。」
男の顔がさとりに一層押しつけられる。涙が更に溢れ出す。
「でも大丈夫。私が居ますからね。私以外の人ならこんな男の人、きっと嫌いになりますよ。みっともなく泣いている
だけの人なんて。」
傷を抉るように現実を指摘するさとり。男の体が強ばるのを彼女の手が撫でていく。ゆっくりと緊張を解していくかの
ように。
「でも私は○○さんの味方ですからね。どんな○○さんでも私は受け入れますよ。どんなあなたでも好きですからね。」
「さ…さとり……。」
男の顔を上げるさとり。恐怖と戸惑いに揺れる瞳に甘い毒を囁いていく。
「愛していますよ○○さん。ずっとずっと…………私以外の人に行ったら駄目ですよ。」
「うん…。」
今の彼女にとって、男の心を操るのは赤子の手を捻るよりも易しいものであった。






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最終更新:2020年11月29日 21:55