非現実的な人形劇

「やめておけよ。所詮あいつは**だ。」
どこか呆れたように彼女が言う。道で顔見知りの顔見知りに会って暫く話す内に、気が付かない間に話しが
長くなっていたようだ。おそらく意識が勝手に音を飛ばしていたのだろう。初夏の幻想郷は快適な気温を
ここに住む住民に提供していた。彼女が目線をこちらに向けながら、トレードマークの帽子をクルリと回すと
フリルが風に乗って揺れていた。もう一つのトレードマークである霧雨印の箒はさっきから近くの木に立て
かけている。やれやれと、まるでどこかの小説の主人公のような溜息をつきながら彼女は僕に言った。
大仰に手を広げてクルリと回転する姿に金色の髪が木漏れ日と共に零れる。

-そういえば彼女も金髪だった-

「お前は只の外来人で、あいつは人外でmjndkl……。」
夏にはまだ少々早いが日差しに当てられたのだろうか。僕の耳に聞こえてくる言葉が意識の上を滑り、意味を
成さなくなっていた。自分の存在している空間がガラスで他の空間と区切られ、向こうの世界と自分の世界
との間で何も音を通さなくなる。高熱に似た不安定な感触を抑える為に自分の腕を爪を立てて掴むと、
薄らと血がにじんでいるのが揺れる視界に映し出されていた。
「-----そうか、手遅れか。」
帽子を被った魔理沙が漏らした最後の言葉が、浮かされた僕の耳に聞こえた。諦めを帯びた目を隠すかのように
帽子を深く被る彼女。まるで僕を見たくないかのように、あるいは僕に見られたくないかのように。視界が
ぼやけ彼女が去って行く。光を反射する銀色の糸が視界に舞い、僕の体は崩れ落ちた。

 ふっと意識が生じ僕は体を起こした。外にいた筈なのに落ち着いた色合いの部屋のベットに、僕は寝かさ
れていた。白色の服は無地ながら、僕が幻想郷で着ていた服よりもずっと柔らかく、ここに来る前にいた
外の世界の服よりも軽かった。昼前だった空の色はすっかり夜の色を窓ガラスに映し出していた。
「大丈夫?」
横から声がした。まさか…僕の予想が脳にあの女性の姿を映し出す。以前に一目見て、心を奪われて、
ずっと虜になっていた彼女。押さえがきかないように首を声の方に向かせる。もしも違う人だったらという
恐怖心を胸に感じながら。

 果たしてそこに彼女はいた。人形を操る彼女は人形のような美しさをたたえていた。
「あっあ、あり、ありが……。」
喉が渇き声が詰まる。白い手が差し出されて僕の手を柔らかく握る。彼女のこちらを見る優しい顔に
胸がつっかえて何も言えなくなった。憧れていた彼女がそこにいて僕が彼女に触れている。心臓が鼓動を打ち
頭に衝撃が走る。全身の刺激が目の涙腺を抓り頬がいつの間にか濡れていた。慌てて不格好に涙を何かで拭おうと
する僕を見た彼女は、いつの間にか持っていたハンカチで丁寧に僕の顔を拭いた。
「…………。」
声が出ない。感動で脳が麻痺してしまったかのように。まるで悪い魔女に魔法を掛けられてしまったかのように。
「○○」
彼女の声が耳に染みる。綺麗な声が僕の体を駆け巡り全身の力が抜けていく。そういえばどうして彼女は僕の
名前を知っているのだろうか。ただ、僕が一方的に彼女を街角の人形劇で見ていただけなのに。
「**へ行ってくれるよね。私と一緒に。」
僕が元いた世界とは別の世界である幻想郷ですらない、人間には聞こえず理解できないどこか別の、
彼女が生まれた場所の名前を聞きながら、僕はただ彼女の声に頷いていた。







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最終更新:2021年06月06日 16:17