狂気に駆られた妖怪が
人間を皆殺し
人外は皆
幸せに暮らす世界

人間はもう居ないはずなのに
命蓮寺の地下深くには
結界と
それに縛られた人間が一人

「あなたも早く人の身を捨てましょう?」

白蓮は毎日それに
優しく
優しく
語りかける

人間はぴくりとも反応せず
言葉も返さず
顔を上げようともしなかった

好きだった彼女は
もう居ないから


妖怪も神も平等
けれどそれは人間をモノサシとして 言ったわけじゃなかった

自分を大切な存在だと
彼女は言っていた

自分も彼女が大切だと
そう言って照れながら答えていた

大好き
大好き
愛してる

何度も繰り返しながら


時折来る
暇そうな金髪の妖怪は
何時もあの子の惚気話

「あの子の綺麗な黒髪をすいてあげるとね……少しだけ反応するの」

ただ幸せそうに
ただ嬉しそうに
まるで何も考えていない
無垢で
純真な
乙女みたいに

自分の所に来ると
何時もそんな顔になる
彼女の表情とそっくりだった


今も
変わらない


……
……
……
愛おしそうに呼ばれる名前は
確かに自分のモノのはずなのに

聞きたくないから
聴こえない


彼女は凄く幸せそうな顔をしているから


もう何も聴こえなくて

いい


愛しているから

今も

愛されているから


ずっと。

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最終更新:2011年03月04日 01:41