何で食べ物をくれたのか最初はわからなかった。
何度か餌付けされる内に彼を好きになっていた。
「何でご飯をくれるの?」
「笑った顔が、可愛いからさ」

食べ物を貰うのが十回目の時に告白して同居する事になった。
人間より美味しい物を初めて食べた。
愛ってこんなに美味しいんだ。


朝ベッドの上で目が覚めて、
朝ご飯が用意されている。
○○に言われて顔を洗って、
タオルで拭いた後○○に抱き着いて太陽の香りを堪能する。
一人では嗅げなかった暖かい香り。
人間は食べ物だけじゃなかったんだ。

「これはなあに?」
「お魚だよ、知らない?」
「うん、初めて見たよ?」
「湖の底とかに住んでるんだよ、ルーミアは飛んでるから中々見れる事が無いのかな」
水の中で生きる生き物なんているのか。
「そーなのかー」
「そーなのさ」



○○が大好き、でもなんで?
ご飯を作ってくれるから?
一緒にいてくれるから?
わからない……

ご飯を作ってくれる○○が好きなんじゃなくて、
一緒にご飯を食べるのが好きなの?
朝、暖かい香りで目が覚めて、
昼、日向に座って二人でおにぎりを頬張って、
夜、一日の出来事を語る。
○○が大好き、だから、
○○と出会ってから、毎日が大好きになったよ。



○○が倒れた時、
私はおろおろするばかりで何も出来なかった。
しばらくして彼が落ちつくと、
「心配しないで、
 多分、体に合わない食べ物があったんだよ」
顔を青くしながら、
私に心配かけないように微笑んだ。


翌日、
薬師を喚んで診て貰った所、○○は食中毒に掛かったらしい。
酷い様子では無いらしいが、
暫く外出は控える様に言われた。
「ごめんね、ご飯が質素になっちゃって……」
「ううん、いいの」首を大きく横に振る。
私の為に色んな物を作ってくれて……
悪いのは私だよ……
「でも、○○も栄養あるもの食べないといけないからね。
 私、明日から食材用意するよ」
「……大丈夫?」
「大丈夫!
 野菜は畑のを取れば良いよね?
 お肉は宛てがあるから大丈夫だよ」
「うーん……」
○○は頭を抱え込む。
「ま……人肉とかは止めてくれよ」
「そーなのかー?」
「冗談言うな」
「あはは、大丈夫だよ」
わざわざ外に出なくても、
家の中で取れるくらいなんだから。



でも、○○に心配をかけたくないから。
湖の端、人間どころ妖精も来ない、
紅魔館に隠れた所。
家から包丁を持って来た。
邪魔になるので上着を脱ぎ、
「ん……」
腹部に刃を立てる。
「……っ」
膨らんでは無いけど、
脂肪が付きやすいって言ってたし、
ちょっと位削っても大丈夫だろう。
○○が私と同じ物になって驚く姿を考えると、
なんだか刃を立てるのも楽しくなって来た。
栄養はたんとあるのだ、
再生も早い。
ただ血が流れ続けた。

「あら……珍しい妖怪がいるわね」
青い髪の女の子が立っていた。
チルノちゃんに似ている。
「あなたが何をしたいのかは分からないけど、
 湖に血が濃く流れるとお魚が生きていけないのよ、止めなさい」
ああ、この子は、
紅魔館の主か、白いメイドが居ないから思い出せなかった。
「そっか……魚が生きていけないのか……」
「そうよ、じゃあさっさと帰って……」
「じゃあ今日は、あなたを食べようかな」
怖がらないように、優しく笑ったつもりだったが、
彼女の笑顔は引き攣っていた。







--紅魔館周辺、人外の数が激減--
久しぶりの来訪者は烏天狗だった。
号外と書かれた新聞を突き出しニヤニヤと笑っていた。
「人間は襲わないそうですが、物騒な世の中になりましたねー?」
「……」
「最初に襲われたのが紅魔館の当主ですから、
 博霊の巫女とは違うようですがね?犯人は誰なのやら……」
ニヤニヤと笑う。
ああ、ダメだよそれじゃあ。
笑顔ってのは、こうやるんだよ?

「え……?」
新聞屋がたじろぐ。
もう遅いよ。
本気で襲わなくても、
ちょっと目隠ししたら鳥目で逃げられない癖に。
「鳥肉は久しぶり……」
「や、やっぱりあなたが……!」
「いいでしょ」
○○が喜ぶんだから。


あれから、
○○が回復した後も食材の調達は私の仕事になった。
○○は私を一つも疑う事なく、
私や妖怪の肉を食べ続けて、
私と一緒。
何だかわからない物になっていた。
闇と一緒、何でも飲み込み、何でも取り込む。
○○を騙してるようでちょっと悪い気もしたけど、
「○○、だっこしてー?」
「はいはい……ルーミアは暖かいなあ」
それでも良いよね?
闇はこんなにも、暖かいんだよ。

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最終更新:2010年08月26日 22:56