幻想郷に新しい新聞が創刊された。名前は「天狗新聞」。単純な名前だが、それがその新聞の全てをあらわしている。
これまでの新聞といえば、天狗達がそれぞれ独自に取材を行った結果の産物だった。だが、取材方法や新聞の内容などに
関するトラブルは少なくなく、天狗の上役はその後始末に手を焼いていた。
新聞の作成については各々の自主性を尊重するため、基本的に干渉することはなかったが、積み重なるトラブルによって
天狗の上役の鬱積がついに爆発したらしく、トラブルを逓減する目的で天狗新聞を創ったらしい。
 天狗新聞の作成には、妖怪の山に住む全ての天狗が関わっている。
内容としては、それぞれ取材してきたネタ(検閲済)を詰め込むという形のため、実に混沌としていた。
しかしボリュームとバラエティには富んでいたため、賛否両論はあったものの、全体的な評判は悪くなかった。
 この新聞は天狗達の内輪だけでなく、幻想郷全体に向けて出版することを前提として作成されていた。
射命丸文の「文々。新聞」のように、外部のネタも取り入れたほうが受けがいい傾向があること。
天狗の威信を広く知らしめるのに有効であるということで、そのような方針を採っているらしい。
 そのような方針を採っている以上は、天狗以外とのやり取りが多くなる。もともと閉鎖的な社会を築いてきた天狗には
不向きである。そのため、天狗新聞の組織の長には外部の者を迎え入れた。厳密な選考の末に○○が選ばれ、
○○は天狗新聞の長となった。
 補佐役には○○と知り合いであった姫海棠はたてが任命された。○○ははたてのサポートのもと天狗新聞を盛り上げ、
季節が一巡する頃になると、天狗新聞の購読数は史上最大規模のものとなったのだった。

 天狗新聞が隆盛を極めた頃、事件が発生した。補佐役のはたてが業務中に○○に対してわいせつ行為を働いたのだ。
はたては組織の風紀を乱す者として処分を下され、一般記者に成り下がった。
 その事件が起きた翌日、○○は突如姿を消した。また、はたても姿を消していた。
天狗組織総出の捜索の末、二人はその日の暮れに発見された。二人は山間を流れる川のほとりにある小屋に居た。
 ○○は死んでいた。首が折れており、口元から一筋の血が流れていた。はたてはそんな○○の亡骸に寄り添い、
泣きながら笑っていた。何が起きたのかとの問いに、はたては「私が殺しました」と答えた。

「私は、○○さんのことがずっと好きだったんです。○○さんの側近に抜てきされたとき、本当に嬉しかったです。
誰よりも近い立場になることができて嬉しかったです。落ち目だった私にもついに春が来たんだな…と思っていました。
でも、そんなことはなかった…○○さんは私を受け入れなかった。そして捨てた!私を捨てたんです!
だから殺したんです、報復のために!私が!この手を首にかけてっ!
…わかっています。非は私にあるって。でも…耐えられなかったんです。教えて、私どうすれば良かったの。
どうすれば○○さんと…。○○さん、○○さん、○○さん…」

 捕らえられたはたては大天狗のもとへと連行され、厳罰を下された。その後は長期の謹慎を命じられたのだが、
ある日突然姿を消し、それから消息を絶っている。
 一方、天狗新聞は長を失ったため、一時的に代役を立ててしのいでいた。しかしそれ以降の成果はふるわず、
程なくしてその短い歴史に幕を下ろすことになった。

 ―――その後の天狗の調べによると、はたては以前から○○の私物の窃取や盗撮などの行為を繰り返していたことがわかった。
はたての家から数万点にも及ぶ○○の衣服や盗撮写真等が発見されていることから、はたてが○○に対して
並々ならぬ感情を抱いていたと推察される。
 はたてはなぜそのような行為に至るようになったのか?当の本人が所在不明の今、真相は闇の中であるが、
関係者は口を揃えてこう言っている。
「あの子は病んでいた」

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最終更新:2011年03月04日 01:45