最近気がついたことがある……まぁ些細なものだが、僕にとっては重大な発見だ。

心というものはとても壊れやすいらしい。

「あぁぁああぁぁぁぁ”ぁあぁ”あぁあ”!!」
いけない、鈴仙が叫んでいる。 急がないと。 自室を飛び出て、鈴仙の部屋へと走った。

「あぁぁ゛ぁぁあぁあ゛ぁっぁあああ゛ああぁああ゛!!」

部屋に入ると鈴仙はがりがりと頭を掻き毟っていた。 そしてその手はやがて目や首を削りとるように掻きはじめた。
僕は焦って鈴仙に正面から抱きつく。 自傷に走る人間を手っ取り早く止めるには、これが一番早くて確実な方法だと気が付いたのは少し前。

「あぁぁぁあ”ああ”あぁあああ”Aあああぁあぁああ”あっぁぁぁ”ぁあ”!!」
でもコレはあまりお勧めしない。 抱きしめると、当人に引っかかれて背中や腕に引っかき傷が出来る。
何、彼女ぐらいの力じゃ痛くはない。
そう、痛くない、痛くない、痛くない、痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くないいたくないイタクないいたくナイいたくないたいkじちがでてるけど痛くないいたくないいたくないがいりぎりいたくないごりrごりdkfれいたkないいtくない いなくないんgひあ皮フがはげたいtくない いたったあt くななななn

「あ、あ? ……あぁぁああぁぁ!?」
あぁ、良かったとまttった。 
「あああ、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんn なnnさsいggごめnnmえnさい」
ポンポン、と鈴仙の背中を叩く。
「大丈夫だよ、僕は平気だから。」
「ごごごごっご、めめめmmっめ」
まずい、このままでは鈴仙が舌を噛んでしまう。 僕は急いで唇を重ねて彼女の震える歯の間に舌を割り込ませた。
舌に鋭い痛みが走って、鉄臭い味が広がる。 顎の痙攣が治まったのを確認してから、指を添えて鈴仙の口を開かせた。
「落ち着いて、舌噛んだら痛いよー?」
「ごごごご、ごめ、ごめっ、んなさい」
ぼろぼろと彼女の赤い瞳から涙がこぼれる。 狂気の瞳の効果なんてとっくの昔に僕には利かなくなっていた。
「薬とって来るから、待っててね?」
「う、うん。 ま、まま、待って、る」
たぶん鈴仙の部屋のどこかに薬はあるんだろうけど、見当が僕には付かない。
鈴仙の部屋を出た僕は居間に在る薬箱から薬を見繕って、洗面所からコップに水を汲んできた。
「はい、薬だよ。 飲める?」
「うう、うん。の、飲め、る」
僕はコップを一度近くの棚において、錠剤を鈴仙の手に握らせた。 鈴仙が錠剤を口に入れたのを確認して、コップを握らせる。
震える手の甲にそっと手を添えて水を飲む手助けをする。 白い喉が薬を嚥下したのを見届けると、コップを受け取って近くの棚に置いた。
「よく頑張った、偉いよ鈴仙」
鈴仙を支えるように抱きしめて、そっと頭をなでつつ布団のほうへ移動する。 鈴仙を寝かせ、布団を掛ける。

そして僕は、彼女が眠るまで、頭をなで続けた。



朝日が昇る頃に、自室の布団に倒れこむ。

「……僕の支えで彼女が、少しでも楽になれますように」

そう願ってから、僕は意識を手放した。

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最終更新:2010年11月29日 21:36