運に見放されたら、どうすればいい?
神にすがる? どこまでも逃げる? それとも諦める?
どれが正解なのだろう?

「○○、何を考えてたの?」
「いんや、昔のことだよ。雛と山に住むようになって、自暴自棄になってた頃の」
「………」
「あ、ごめん。でも気にしないでよ。あのときの雛は、冷静じゃなかったんだから」
「それでもっ」
「だーから、気にしちゃダメ。嫌なことはなんだって、笑ってごまかすさぁ!」


もう二……いや、二年半くらい前かな
僕は彼女――鍵山 雛にさらわれて、無理矢理眷族にされちゃったんだ
理由を聞いたら、なんと僕に惚れたからだって
いやあ、びっくりしたよ
こんな可愛い神様に惚れられるなんて夢じゃないかって思ったね
……なんて笑って話せるのは、ホント今だからだね
以前は本当に大変で、何度か本気で死のうかとも思ったよ
なんせ雛の眷属になるってことは、神様になる代わりにどこにいても雛の厄を浴び続けるってコトなんだから
厄を吸い取ってくれる雛が近くにいなきゃ、何をやっても大失敗ばっかり
後で知ったけど、雛はそれを狙って僕を眷属にしたらしいんだけどね
わけも分からずケンカに巻き込まれる。荷車に轢かれる。物取りに刺される
普通の人間なら5.6回は死んでるね
眷属といっても、正確に言えば彼女の付き人のようなもの
特殊能力がつくわけでもなく、ただ人間離れした生命力を持ってるだけの神様さぁ
敬わなくてもいいよ
こんなに重い愛はいらない
そう雛に言いたくても、僕に必死でかけてくれる笑顔を見るとどうしても言えない
……ええ、チキンですよ僕は
もう何もかも諦めて、彼女と片時も離れず生きていくしかないのかなぁ
そんな風に考え出したとき、ふと昔読んだ本の主人公のやりとりを思い出したんだ

「まてよ。その運ってヤツに負けた時はどうするんだ」
「笑ってごまかすさぁ!」

ヒューッ、カッコいいねぇ
どんなにひどい状況に置かれても、笑ってごまかしてしまえばどうにかなる
それを思い出したとき、僕はそうやって生きていこうと誓ったんだ


「……そう、突然あなたは変わったのよね。前日までびくびくして私から離れるのを怖がってたのに」
「あはは、カラ元気だよ。何度もくじけそうになったし、やっぱり諦めたほうがいいとも思ったさ」
「でも、そうしなかった」
「うん。一人で買い物にも散歩にも行けない神様なんて情けないからね。
 必死で頑張ったよ。つらいことも痛いことも、死んでないって理由で笑い飛ばしてさ」

本当は、くじけそうになったどころの話じゃないよ
笑おうとしたって痛みで涙が出てくるし、無理矢理笑うと心まで痛くなってくる
でもそこでくじけたらまたもとの木阿弥だからね、それだけは嫌だったんだ
そんな生き方にもほんのちょっぴり慣れた頃、僕の気持ちにも大きな変化があった
それまで恐れと少しの同情の気持ちしか持ってなかった雛が、急に愛おしく思えてきたんだ
僕と離れたくないから。それだけの理由で僕を眷属にした雛
はた迷惑としか思ってなかった行為だけど、迷惑を笑い飛ばしてしまえば、残るのは純粋な恋心
でも、無理矢理眷族にされたのは変わらない事実。だから僕は、その仕返しをすることにしたんだ

「本当にビックリしたわ。突然私を抱えて守屋神社に走りだすんだもの」
「仕返しだからね。無理矢理 それでいてビックリさせなきゃ仕返しにならないよ」
「……本当のことを言うと、あなたは私に復讐しようとしてると思ったわ
 守屋神社についた時、そこの神様と巫女の力を借りようとしてるんだって」
「まあ、ちょっと違うけど復讐は復讐だね。とつぜんだったし、雛を泣かせちゃったし」
「泣くわよ……当然でしょ。いきなり『僕ら結婚しますので、婚姻の儀の準備をお願いします』なんて言うんだもの」
「ドッキリビックリ大成功、だね」

ちょっと性急に過ぎるかなとも思ったけど、たまにはこんなのもいいよね
それから、僕がずっと囚われているだけの一方的な生活は終わりを告げたんだ
でも結婚生活が続くにつれて、今では雛のほうが小さくなっちゃったんだよね
一時の激情にかられて、僕に大変なことをしてしまったって
まあたしか最初はなんてことしてくれたんだって思ってたけど、今じゃむしろ感謝してるんだけどなぁ
だって厄の塊は、可愛い妻と、折れない心を僕にくれたんだから



その神が来ると、その神にだけ不幸が巻き起こる
今日も村で道に迷い、財布を落とし、犬に噛みつかれ、おもいっきり地面にこけた
それでもその神は陽気に笑い、見るもの全てに笑いを与えた
たまに、妻である厄神様と一緒に仲睦まじくいるところを見ることができる
その姿は、以前の陰気な厄神様にはとうてい見えないそうな

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最終更新:2011年03月04日 01:29