○○は今日もまた、お揚げを用意してくれているだろうか。
最近はずっと○○のところに入り浸っている。
もちろん、式として必要な仕事は全て済ませているのだが……

私は彼のことが好きだ。
だが、他の者に少しどころではなく優しいところがあるのは玉に瑕である。
もう少し、私の気持ちを知ってほしい。

そう考えている間に人里に着いたようだ。
○○のことを想像すると、時間がいつの間にか過ぎている。
そのことが頭を過ぎると、少し顔が赤くなったような気がする。


「……っ!」


雑貨屋の前に○○が居た。
居たのだが、○○の隣に居てはいけない者がいる。
どう見てもアレは女だ……隣に居るべきなのは私のはずなのに。

嫉妬が湧き上がるが、何とか抑える。
あの女は普段見ることがない、その上見たところ、ただの人間だ。
何か事情があって一緒に居るはずだ、そう信じたい。

○○の方を注目して見ると、勾玉をあしらったアクセサリーを手にとっているのがわかる。
これから買うのだろうか。
もしもあのアクセサリーを私に手渡してくれるのだとしたら、どれほど幸せな気持ちになれるだろうか。
考えるや否や、○○はそれを女の手に乗せた。


「……さんにプレゼント……
 これ……こんで……るかな……」
「……がとう……うれしい……れるよ……」


嘘だ。
言葉の端々から聞こえるものを繋げると、○○はあの女にプレゼントをあげようとしている。
嫌だ。
あんな普段は見ないような女に、○○が盗られてしまう。

信じたくない。
しかし目の先で笑い合っている二人を見ると、どうしようもなく現実なのだと思い知らされる。

盗られたくない。
嫌だ、あんな女に○○を盗られたくない。
そう考えた後の行動は、凄まじく速かった。

「うわぁ!?」


○○が悲鳴を上げるが、そんなことを気にしてはいられない。
早く、一刻も早くあの女から遠ざけなければならない。
そうしないと私の○○が、あの女に誑かされてしまう。

転移する前にチラッと女の方を見たが、あの驚き様は間抜けと言う他にはない。
○○のことを誑かしたのだから、このぐらいの報復はあっても良いだろう。
本当は消したかったが、○○の悲しむ顔は見たくないし
その後のことを考えれば消すわけにもいかない。


「あ、あなたは……藍さん?」
「いきなりですまない、○○」

困惑する○○を目の前にして、少し目を伏せてしまった。
多少なりとも、○○の幸せな時間を奪った罪悪感はあるのだ。

少しの時間が経つが、互いに未だ沈黙を保っている。
私はその中でぽつりと、考えていたことを喋った。


「盗られたく、なかったんだ……」


○○が不可思議な顔をする。
これだけではまずわからないだろうと、次の言葉が自然と出てくる。


「○○のこと、あの女に盗られたくなかった……
 だから……」


涙が零れてくる。
呂律も全くまわっていない。
出てくる言葉はよく聞こえない物と、自身の嗚咽のみだった。

状態を察したのか○○が背中に腕を回してきて、子供をあやすようにぽんぽんと叩かれている。
そのことに少し安心した私は、なんとか次の言葉を紡ぎ出した。


「捨てないで……私のこと、見捨てないでっ……!」


哀願の言葉しか出てこなかった。
あの女から引き離すためにこんな手段を取ったと知られたら、どれだけ失望されるだろうか。
そう思うとこんな言葉を出すしかなかった。


「大丈夫です、藍さん。
 俺はあなたのこと、見捨てたりしませんから」
「本当……? 私のこと、捨てたりしない?」
「しませんよ」


その言葉に私は、みっともなく泣き出してしまう。
○○は私のことを見捨てたりしない。
暖かい気持ちでいっぱいになって、○○に抱き付きながら目一杯泣いた。

落ち着いた私が○○と向き直ると、○○から説教が飛んできた。
どうしてあんなことをしたのかと言われ、見ていたことを話すと苦笑しながら話してくれた。


「あれは藍さんへのプレゼントだったんですよ」


恥ずかしいなんてものじゃない。
私が空回りをしていただけなのだ。
あの女性は曰く、女の子へプレゼントを贈るならどれが良いかと聞くために
アドバイザーとして着いてきていただけらしい。

後で謝りに行きましょうと○○に言われ、私は何をしていたのだろうと思う。
もしかしたら、○○に少し嫌われてしまったかもしれない。
でもプレゼントを贈ってくれる予定だったからと、その可能性を否定……は出来なかった。

そう考えているうちに涙が出ていた。
○○に涙を拭かれ、それじゃあ謝りに行きましょうと、手を引っ張り上げてくれた。

願わくば○○と一生一緒に居られますように……

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最終更新:2011年01月15日 19:42