結婚式を挙げたのは、慧音と付き合いだして半年

○○「甲斐性なしの俺だけど、これからよろしくな」
慧音「安心しろ。お前に足りないものは、私が補ってやる」

似合いのおしどり夫婦だといわれてた。俺たちは幸せだった


子供が出来たのは、慧音と付き合いだして一年とちょっと

○○「男の子か? 女の子か? ああ~どっちなのかなぁ~~~」
慧音「いくら慌ててるからって、草鞋くらいは脱げ。もっと落ち着きを持たなければ駄目だぞ、お父さん」

翌日には、山のように子供用品を買いあさってきた。俺たちは幸せだった


子供が生まれたのは、慧音と付き合いだして二年目

○○「でかした慧音! 女の子だぞ、目元なんか慧音にそっくりだ!」
慧音「ありがとう。でも、口元は○○そっくりだ」

それからずっと川の字で眠った。俺たちは幸せだった


娘が嫁に行ったのは、慧音と付き合いだして19年目

○○「…………くっ」
慧音「めでたい門出だ。涙はちゃんとふいておけよ」

相手の男も誠実そうな好青年だった。ちょっぴりほろ苦かったが、俺たちは幸せだった


俺が還暦を迎えたのは、慧音と付き合いだして38年目

○○「わしはすっかり爺さんなのに、慧音は相変わらず綺麗だな」
慧音「大丈夫だ。○○はどんなになったって、私が愛した○○のままだからな」

年甲斐も無く、俺は大いに照れた。俺たちは幸せだった


俺が生を終えたのは、慧音と付き合いだして44年目

○○「……いままで……ありがとう、慧音」
慧音「そんなこと言うな! 元気を出せ! 私を置いていかないでくれ!!」

妻を泣かせてしまったが、楽しい、満足する生涯だったと思う。俺は幸せだった



小町「幸せな生涯だったんだろ? しかも手持ちの銭の量から見て、爺さんはいろんな人に愛された善人だ
   何か気になることや後悔があるのかい?」
○○「そうさね。たった一つだけ、気になることがある」
小町「?」
○○「あのな、わしは子供のころの思い出も、ここに来たころのこともよく覚えておる。決してボケてはおらん」
小町「それがどうしたんだい?」
○○「しかしな 慧音と付き合うまでの経緯があるはずの半年間の記憶、それだけが抜け落ちてるんじゃ」
小町「………爺さん、それはたぶん歴史を」
○○「いやいや、言わんでもよい。実はなぜなのか、ほとんど察しが着いておる」
小町「じゃあ何であたいに話したんだい?」
○○「誰にも言わなかったことを、三途を渡る前に一度だけでも言いたかった。それだけじゃよ。聞いてくれてありがとう、死神さん」
小町「爺さんは、それでいいのかい?」
○○「ああ。始まりがどうであれ、わしは生涯慧音を妻として愛していた。それだけは胸を張って言える。だから、いいんじゃよ」
小町「そうかい。それじゃ行こうか」
○○「わしは船酔いしやすいのでな、安全運転で頼むよ」

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最終更新:2011年03月24日 01:40