「好きです、付き合ってください」
朝。さあ、今日もがんばろうと家から出た矢先にこれである。
目の前には白い兎耳を揺らす少女が一人。里では幸せを運ぶと専ら噂の妖怪兎だ。
「他を当たれ」
じっとこちらを見つめる真っ直ぐな視線を軽やかにかわし、これまた軽やかに拒否を示して歩みを進める。
すれ違う瞬間、目尻に光りが見えたが、なんのことはない間違いなく嘘泣きだ。
「諦めろよ、嘘吐き兎」
里の衆と違い、自分はこの妖怪に好感などない。こいつが虚偽をなし人を陥れるのを嘲笑う性質だと知っている。
可愛い悪戯だと笑えるのも始めのうちだけだ。何度も騙されれば辟易もするし、警戒もする。
そうして嘘に引っかからないように冷たい対応をしていたら、やがて姿を見せなくなり安堵していた。
しかしそれも束の間、また現れて今度は何かと思ったらこれである。見え透いているにもほどがある。
何度も拒否するうちに言葉も丁寧かつ直球になってきているが、そんなことで騙されるはずもない。
「なんでよ、なんで……」
後ろから嗚咽混じりの声が聞こえるが、大した役者だとしか思わず、己の足が止まることはなかった。
続かない
最終更新:2011年05月06日 02:52