僕は今、監禁されている。
監禁されているといっても、この屋敷を自由に歩きまわれるし、場合によっては外にも出られる。
しかし、僕は今ある女性によって『心』も『体』も監禁されている。
いや、今。という表現はふさわしくないだろう。
今、そして未来。はたまた永遠に
僕はこのままなのかもしれない。

ことの始まりは、僕がこの幻想郷というところに迷い込んだことに始まる。
確か大学に行くため通勤電車に乗っていて、その電車が猛スピードでカーブを曲がりきれずに脱線・・・したところまでは覚えていた。
しかし、この風景の説明がつかない。そしてこの妙な感じ。
この幻想郷というのは、どうやら自分が今まですんでいた世界とはまったく異質のものであると感じた。
そして、それは僕の目の前に妖怪とも化け物ともいえる存在に出くわした時に確信に変わった。

『fwphfjpわhfqenpgrwahgpr!』
なんともつかないような鳴き声を上げ、僕におそいかかる。
相手は鋭い爪、僕はリュックサックを持った状態の徒手空拳。勝てるわけがない。
僕は一瞬、自分の死を覚悟した。
その時に、弓矢を持って助けてくれたのが、彼女との最初の出会いだった。

彼女の名前は八意永琳(やごころえいりん)
その時彼女は、風邪を引いてしまった弟子の代わりに、里に薬を届けに行く途中だったようだ。
僕が事情を話すと、彼女は、『なら私のところに来る?ちょうどお手伝いがほしかったの』ということで、帰る手段が見つかるまで
彼女の住処である屋敷で働くことになったんだっけ。

彼女からこの幻想郷のことを聞いた。そして彼女やその周囲の人物の生い立ちも。
彼女達は月の追っ手から逃れてこの幻想郷にやってきたということだった。
その話の全てに僕は驚きはしたが、それを受け入れることにした。
この世界と、彼女の目を見る限り、彼女の言うことは嘘ではないと思うから。

そして彼女の仕事は薬師・・・平たく言えば薬を調合する薬剤師のようなものだ。
そして彼女は天才的な頭脳を持っており、僕は彼女の知識の多さ・すごさに尊敬させられた。
実は元々僕は医学部で勉強していた身だし、在学中だったといえども知識はあるので、多少彼女の診療の手伝いもさせてもらっていた。
時にりりしく弟子を指導し、時に優しく弟子やみんなに接する。僕はそんな彼女に惹かれて行った。

ある時を過ぎたころから、彼女が僕に薬の調合を教えてくれるようになった。
『あなたは手先が器用で、頭もよさそうだから、薬の方のお手伝いをしてもらうわ』とは彼女の言。
昔とった杵柄とはいえ一応医学部。実際習って見ると、不思議なことは多かったけど、楽しくめきめきと上達していった。
気がつけば、彼女の仕事量の2割くらいを僕が手伝えるようになっていた。

そして、この幻想郷の人々とも触れ合うようになっていた。
僕の帰る方法を見つけてくれるために頑張っている霊夢という巫女さん。そしていつも空を飛ぶ魔理沙という魔法使い。
この永遠亭のウサギや鈴仙やてゐ。そして永琳が護っているという輝夜という少女(彼女はあのかぐや姫だというから驚きだ)
そして里のみんな。彼らと触れ合うのは、正直とても心が和み、楽しかった。


日々の生活は、充実していた。

そして、あれはいつものように診察を終えたころだったか。僕が薬品の整理をしていると、彼女・・・永琳がやってきた。
彼女は僕の元に来ると、こう言った。

『あなたがこの幻想郷について、長い時間がたつけど・・・ちょっと聞いていい?」

僕に聞きたいこと?いったいなんですか?

『・・・私のこと、どう思ってる?』

どう思ってる?そりゃ師匠というか、尊敬できる先輩というか・・・

『そうじゃなくって・・・』



『私のこと、好き・・・だったりする?』

・・・・・・・・・・えっ?
僕はこのとき、一瞬思考が固まった

えーっと・・・好きとは?

『その・・・・私のことを・・・・・・異性として好きかっていうことよ』
彼女は顔を赤らめながら言う。

それって、もしかして・・・僕のことが好きとか・・・・・・?
そういうと、彼女は真っ赤な顔をして

『そ・・・そういうことよ・・・あなたはどう?』
彼女は言った。その顔に緊張を成して。

僕ですか・・・・そりゃ・・・・・・・




もちろん。あなたが好きならお受けします。僕もあなたのことが好きです。



僕は答えた。それは嘘偽りない気持ちだった。
彼女は・・・・・・・・・・・・・・・・

『・・・・・・・・ありがとう。嬉しいわ・・・・・・・・・・・』
彼女は言葉を搾り出すようにそういった。


僕も嬉しいです。あなたのような美しい人に告白されるなんて。


そういうと、彼女は聞いた。

『・・・・ねぇ。なら約束してくれる。私と永遠に一緒にいてくれる。どんなことがあっても私のそばにいるって。離れないって』

彼女は僕に顔を近づけてそう言う。

もちろん、約束します。僕はどんなことがあっても、貴方のことを嫌いになりません。ずっと一緒に居ます。

僕は言った。すると、彼女は僕になにやら液体の入ったビンを渡してきた。

えっと・・・これは?

『嘘のつけなくなる薬、あなたと私のエンゲージリングのようなものよ。私も飲んだから、あなたも飲んでね』

彼女がそういう、『嘘をつけなくなる薬』なんか少女幻想みたいな名前だけど、好きな人から渡されたものだ。まさか悪いものでもあるまい。
そう思って僕はそのビンのふたを開け、飲んだ。すると・・・

猛烈な眠気に襲われ、僕の意識が遠のいた。
眠気に襲われる寸前、彼女を見た。すると・・・

『ずーっと一緒に居ましょうね。そう【永遠】に・・・・・』
そう言って、僕に抱きつく彼女の姿だった。






まさかあれが竹取物語で有名な不死の薬『蓬莱の薬』だったとは。後で彼女に聞いて驚いたもんだ。
意識を取り戻すと、僕は病室のベッドにいた。
そして薬のネタばらし。

聞いたときは暴れた。そして嘘だとさえ思った。
しかし彼女も相当昔にその薬を飲んだこと、そして・・・・

ためしにメスで腕に傷をつけた時、一瞬血がにじんだがすぐに元の綺麗な皮膚に戻った時。どうやら彼女の言うことは本当なんだと感じた。
彼女に聞いた。どうしてこんなことをしたのか・・・
すると彼女はこう言った。

『私が好きになった人間は永く生きているから、何人も居たわ。でもみんな儚い命・・・すぐ死んでしまう』

『だから・・・こうすれば一緒に居られると思ったの・・・もう寂しいのはいや。ずっと一緒にいてほしかったから・・・・』
そういって彼女は肩を震わせた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

僕は黙って彼女を抱きしめ、深いキスをした。
薬のエンゲージとは違う、僕と彼女との永遠のエンゲージ【契約】。

そう、僕はこの運命を受け入れた。何もかも・・・彼女と永遠を生きることも
そして今にいたる。



日常は何も変わっていない。
彼女の診察の手伝いをして、薬の調合を行い、たまに里に往診に行く。
なにも変わっていない。
ただひとつ変わったことといえば、






博麗の巫女である霊夢に、外の世界に戻らなくてもすんだ。と伝えたこと。
そして、僕自身も外の世界に未練がなくなったということ。
そして・・・




何をするときにもいつも傍らには彼女が一緒にいてくれること。




最初にも言ったように、僕は監禁されている。
永琳という糸に絡め取られ
今も、そしてこれからも永遠に。
でも・・・・・



愛している彼女は居る限り、互いに愛し合っている限り・・・これも悪くないんじゃないかな?


とも思っている。

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最終更新:2011年05月06日 03:46