――チャリ、チャリ

 さして面白味のない、金属質の音が響く。
 俺は手の内でひとしきりソレを弄んだ後――

 ――キンッ

 格子の外へ思い切り投げ付けた。
 "この部屋の鍵"は壁に硬い音を立ててあたり、
 そのまま地に落ちた。

 そう、鍵はあっても、この部屋からは出られない。
 そもそもついさっき俺が投げた鍵は、
 この部屋――つまり、俺の家そのものの鍵であり。
 家の三分の二、土間と座敷を区切るように囲われた格子には
 ……そもそも戸も鍵穴もないのだ。

 畜生、と毒づいたところで何も変わらない。
 格子の先の鍵が、自由への切符を捨てたかのように、ひどく眩しく見えた。

 俺と落ちた鍵の間に割って入るように空間が裂け、
 幾らかの食べ物を乗せた台車と、
 正体さえ知らなければ可愛らしい少女が姿をあらわす。

 キッと出来得るかぎりの険を込めた視線をぶつけるが、
 ヤツはそれこそどこ吹く風だ。

 俺に聞いてもいない料理の説明と、
 望んでもいない愛の言葉を一方的に垂れ流していく。

 ――お前が愛を騙るなよ。

 精一杯の皮肉もヤツには努力不足と受け取られた。

 ――ごめんなさい。もっと貴方様に愛される女になりますから。

 そう悲しげに微笑むと、ヤツはまた空間を裂いて何処かへと消えた。

 くそ。なんであんな顔ができる。
 全ては奴の独り善がりで起きた事なのに。

 なんで。

 なんで俺が怯まなければならないんだ。

 畜生。畜生――!

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最終更新:2011年05月15日 02:20