博麗騒動の続き

博麗騒動2




博麗騒動2

彼は中途半端に優しかったのだろう。
もし彼が博麗霊夢に辛くに当たれる程度のメンタルがあれば。
帰還以外の全てを犠牲に出来る思い切りのよさがあれば、もう少し違った展開になっていただろう。
△△が博麗神社への帰宅後、初めて行われた宴会の写真を眺める。
この写真に写っている彼の表情はどう形容すればいいのか。本当に嫌っていれば手なんて繋がないとは思うが。

結局私達は△△の捜索に手を貸す事にした。無論取れる物はきっちり八雲家から取ったが。
ちなみに文は博麗霊夢への取材をしに行ったので今日は私1人で調査する事になった。
「記事を出す際は私か紫様を通してください」と八雲藍から釘を刺されていたが。

私は今里にいる、もちろん彼が里に戻ったなどとはつゆほども考えていない。
だが得られる情報はある。里の特に帰還派が集中して住む場所はあれから文がカラスを使って集中的に監視している。
幸い不穏な行動もないが彼の目撃情報も無い・・・だが彼等が何処で物資を買い付けているかは分かっている。
まずはそこから当たろう。


「えー・・・では霊夢さん取材を始めさせていただきます」
髪もボサボサ、目には泣きはらした跡、グチャグチャの室内。
グチャグチャなのは霊夢のいる部屋だけではなかった、神社全体が荒れていた。
ここはもう誰もいない無人の神社ですと言われても何も知らない者なら間違いなく信じるだろう。
この惨状を目にして文は少し後悔している。
始めはこれ以上のネタがあるかと思い、いきり立って博麗神社へと取材道具と共に乗り込んだが。
目の前にいる今の博麗霊夢はおおよそ自分の知っている博麗霊夢とは程遠かった。
いつもの調子は今の彼女からは全く感じられない。
ただ元気が無い所の問題ではない、生気が感じられない。
「ほら霊夢、起きて。目を開けなさいな」
今も八雲紫に抱きかかえられてやっと座っている状態である。
そして八雲紫はチラチラとこちらを目で威圧してくる。「余計な事を聞くなよ」そう聞こえた気がするが気のせいではないだろう。

「えーっと・・・霊夢さんちゃんとお食事は取ってますか?」
本当はまくし立てるように話してくれるであろうのろ気話から面白そうな部分を切り貼りした記事を出すつもりでいたが。
この状況で、八雲紫から威圧されているこの状態で。とてもじゃないが踏み出せる勇気は無い。
「紫が・・・作ってくれる・・・・・・」
「そ・・・そうですかぁー」
恐らく彼が。△△が逃げ出してからは寝床から殆ど動いていないのだろう。
昼もいい加減すぎた頃合だと言うのに霊夢はいまだに枕を抱きしめ寝巻きとおぼしき物を着ていた。
不意に霊夢が立ち上がる。枕を抱きしめたまま。
だがほぼ床に伏せっぱなしの為か、あるいは別の理由も加味されるのか。足取りは明らかにふらついている。
「あやや・・・霊夢さん何処へ行かれるんですか」
「トイレ・・・」
「えっと・・・霊夢さん肩貸しましょうか?」
「いらない・・・」
「霊夢。枕は置いていきなさい」
紫がトイレに向かおうとする霊夢に言葉をかける。その言葉に霊夢は明らかに顔を歪ませた。
その歪んだ顔には既に涙がかなり溢れ出している。もう一押しで霊夢の涙腺は完全に決壊するだろう。
「・・・大丈夫よ、洗ったりはしないから」
霊夢はその言葉をあまり信じていないのだろう。露骨にイヤイヤと言うよく年端も行かない子供がやりそうな動きを見せている。
恐らくこの枕は△△が使っていた物だろう。
そう言えば霊夢の寝ている布団は少し大きい上に今抱いているのとあわせて枕が二つある。
△△とはこの布団で一緒に寝ていたのだろう。
「分かったわ・・・私も付いていくから。それなら洗えないでしょ?記者さん貴女も一緒に来て」
「え・・・ええ勿論ですよ」
帰りたい。切にそう思う。



会う人間会う人間。やたらと敵対心を持たれるか、やたらと平身低頭で応対されるか。
文と一緒なら別に構わないのだが。自分1人の時だとあまり里に長居したくないと言う思いが大きくなる。
監視役のカラスを指で撫でながら気を紛らわせる。
覗き見られてるより大っぴらに監視されてると分かった方がまだ気分が良い。
そんな事を文に言ったら、二人で行動できない日の朝には。「今日はこのカラスが○○さんを追いかけます」
と言うのが普通の光景になってしまっている。
ただ・・・そんなに悪い気はしないのはもう私の感覚が変わってしまったからなのだろう。
彼等がよく利用する商店の出納長を見せてもらいながら考える。
速く終わらせて文の所に帰りたい。

出納長の閲覧自体は意外なほどにすんなり受け入れてもらえた。
八雲家から調査費としていただいた金の一部を握らせたのが良かったのだろう。
ただここで、この一転だけは店主達に念を押しておいた。
「今後も彼等との商いは今まで通り行ってください。それだけはお願いします」
今更彼等と和解する気は無いが、間に流れる空気がこれ以上悪くなるのは心の健康によくない。

カラスの報告と八雲藍からの情報、それに出納長から見える彼等が何を買ったか。
これらをあわせて考えるとやはり腑に落ちない点はいくつかあった。
燃料や食料、石鹸と言った日用品が住んでいる人数に比べて明らかに多い。
しかし、彼等が居を移すようなそぶりは見当たらない。どこかに届けていると考えるのが妥当だろう。
一番不味いのは・・・△△が元々いたコミュニティ伝いにどこか別のコミュニティに移動してしまっている事だ。
そうなるかなり厄介な仕事になってしまう。
無いとも限らない、急いで損は無いだろう。






夕飯に使うご飯を炊く飯ごうの火の番。飯ごうからは水蒸気が上って行く。
今日のご飯の炊き上がりを気にしつつ。ジレンマとは何なのか、今はっきりとかみ締めている。
幻想郷から帰りたい。これは本心だ。
だが、霊夢には泣いてほしくない、彼女には笑っていてほしい。これも間違いなく本心だ。
だが私が帰ってしまえば、霊夢は今以上に泣くだろうし。彼女の笑顔を見せる為には私は帰る事を諦めてしまわなければならない。
前から気づいていた事だが、私は妖怪やそれに匹敵する力を持つ彼女達を憎んではいない。
ただ帰りたい、そう思っているだけのようだ。こんな事は他の仲間達には言えないが。
両立は・・・多分出来ないんだろうな。
日に日に、会いたいと言う思いが帰りたいと言う思いと同じくらいに強くなっていく。
「そもそも。ハナッから何でも見てやろうなんて野次馬根性。起こさなきゃ良かったのか」
そうすれば・・・霊夢とも必要以上に仲良くならずにすんだのに

「まったくその通りだよ本当に・・・なまじ自然環境が良いだけにちょっと見学したくなるんだよな」
後ろからの声に慌てる。一番大事な部分はバレてはいないよな?
「なまじ見た目は牧歌的だからなぁ・・・」
「ノスタルジックさも相まって。ちょっとなら良いかなと俺も含め大体の人間は思って当然さ」
表情と喋り方から察するにバレてはいないようだ。良かった呟いた言葉次第では大変な事になっていたはずだ。
「ある意味このノスタルジックさは罠なのかもな・・・獲物を引き寄せる」
罠?それは違うような気がする。
罠ならば・・・私と一緒にいるときの霊夢はあんなまぶしい笑顔ではないもっとしたり顔を見せるはず。
そして私が逃げるとき。あんなに心の底から響くような悲しい泣き方はしないはず。
参ったな・・・霊夢のことを考えていたら。自分で自分の考えが分からなくなってきた。
      • 果たして本当に帰りたいのかな、外の世界に。






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最終更新:2019年01月26日 22:53