「チルノちゃーん!」
「あっ、大ちゃーん!」
紅魔館の近くにある湖。そこは妖精の遊び場として有名な場所である。
声をかけられた青髪の妖精、名前はチルノ。声をかけたのは、彼女の友達である。同じく妖精の大妖精。チルノは大ちゃんと呼んで親しんでいる。
「今日もレティさんの所に行くの?」
「うん!暑い季節にレティの所に氷を作るのはアタイの役目だからな!」
「じゃあ私たちここにいるからー!」
大妖精の言葉にチルノは「分かったー!作ったらすぐに行くー!」と元気に返事をした。

レティとは、レティ・ホワイトロックの事である。彼女は冬の妖怪で、チルノとは仲が良い。
レティは冬の妖怪であると言う特性上、冬以外の季節。特に夏場は命にも関わりかねない天敵ともいえる季節だ。
その為冬以外の季節は。比較的涼しい、洞窟の奥深くにこもると言う生活をしている。
それでも、真夏の暑さは洞窟の奥でも辛い。
その為このチルノという。冷気を操る事のできる妖精が頻繁にレティの住処を訪ね、気温を低く抑える為の氷を作っている。

「そーっと・・・そーっと。レティを起こしちゃ悪いからな」
忍び足を立てながらチルノは洞窟の奥深くへともぐる。
本当なら挨拶はもちろんの事。可能ならば大妖精達を連れて、一緒に皆で遊びたい。
でもチルノは、レティの体の事を考え。出来るだけ彼女を起こさないように氷を作り、立ち去る事にしている。

いつもならば。一番奥の場所ではレティはぐっすりと眠っている。
たまにうすく目が覚めている事もあるが。そういう時もチルノは小声で一言声をかけて早々に立ち去る事にしている。
少なくとも、今までのチルノの経験では。この時期に、チルノの氷で温度がかなり低く抑えられているとは言え。
レティが起き上がるような事は一度も無かった。

「レティ!寝てなきゃ駄目じゃないか!」
その姿にチルノは大変驚いている。そもそも、うす起き事態が珍しい事なのに。
今のレティは、前来た時に作った氷柱を背もたれ代わりにしているとは言え。完全に起き上がっていた。
「大丈夫よチルノ、無駄に動いたりしなければそれほど苦しくは無いわ」
「だからって起きてて良いわけないじゃないか!
「心配しないで、そう長い間起きているつもりは無いから・・・ねぇチルノ一つ頼まれてくれないかしら?」

とにかくレティを早く寝かさないと。まさかの事態に直面したチルノはその事ばかりを考えていた。
「アタイにできる事なら何でも言ってくれ。レティは安心して寝てていいからさ!」
「ありがとう、チルノ」

「で、頼みごとって何なんだ?レティ」
「○○の家がある場所は知ってるでしょう?」
チルノの頭によく一緒に遊んでくれる、○○と言う男の姿が思い浮かんだ。
冬になったらレティも一緒になって更によく遊んでくれる。
たまに大ちゃんが「二人きりにしてあげよう」と言って、レティと○○を置いて行くが。チルノはその事がよく分からなかった。

「○○がどうかしたのか?」
「そろそろ限界だと思うの、だから迎えに行ってあげて」
「ここまで連れてくるときは、ちゃんと冷やしてあげてね。相当辛いと思うから」
限界?チルノはレティの言っている言葉の意味がよく分からなかった。
○○は人間だ。人間でもこの暑さは大変らしくよく「限界だ」と里の人間が言っているのは何度か聞いた事がある。
でもそれは、レティの口から出る「限界」とは全く重みが違う事は理解していた。

レティの言う暑さの限界は、自分自身の命に関わる問題だ。
だから人間である○○が、レティほどの限界に達しているとは少し考えにくかった。
「○○を連れてきてくれたら。心配の種が無くなって、また眠れるようになるわ」
「わ、分かった!アタイが○○を連れてくるから、レティは寝てろ!」
それでも今はレティをゆっくりと寝かせる事が今は一番大事だ。
そう思い。チルノは大急ぎで洞窟を飛び出し、里に向かった。







「変だな・・・・」
里にいる○○は自身の体の不調が信じられずにいた。
朝起きたときから、体が思うように動いてくれない。
いや、それより以前から。ちょうど気温が上がるのと平行して、段々と体の自由が利かなくなることには気づいていた。
最初は早い夏バテと思ったが、これは明らかに違う。医者にかかろうとはほんの少し思った。
だが行かなかった。何故か?思い当たる節があったのだ、自身の体の変化を起こした原因に。
恐らくこの手の話は博麗の巫女の方が適役だ。だが巫女にも相談には行かなかった。
そうして、この日の朝。○○の体は限界を迎えた。

朝起きてすぐに水分を取った。しかしそれも殆ど効果が無かった。
どんなに水を飲んでも、一向に立ち上がる元気すら沸いてこない。
そして体温は上昇していくばかりだった。体温計などを使わなくても分かるくらいに彼の体は熱くなっていった。

汗と一緒に体の塩分なども抜ける。その事を思い出し、這いずりながら塩を保管してある場所へ向かい。塩をなめたりもした。
――熱中症の方がまだマシだな。塩を舐めながら思う
○○の中ではもう予測が付いていたが。塩を舐めるのも効果が無い。とうに瓶の中の水は底をつき。指も動かない為、塩すら舐めれない。
意識が遠のくのを感じた。



「○○!?」
いよいよ意識が完全に途絶えようかと言うとき。自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
視界もおぼろげだが、その声の主の姿形はすぐに思い出せた。
しかし、その者がチルノという名前である事は中々思い出せなかった。それくらいに疲弊していた。
「○○!アタイのことが分かるか!?チルノだ!」
「チルノ・・・・・・熱い・・・熱いんだ・・・・・・」

「え、熱い?うわっ!」
○○の体に触れたチルノは飛び上がった。自分の知っている人間はこんなに熱くない。
○○の身に何か起こっている。すぐに何とかしなければ。
「とにかく冷やさないと!」
チルノは自身の能力を使い、○○の体を冷やしていった。しかし。

「熱い・・・・チルノ、お願いだ。もっと冷やしてくれ」
自分が考える、人間が耐えれるような。人間にとって心地いいと思えるような冷気では○○の体を冷ます事ができなかった。

結局、レティのいる場所で使うような勢いの冷気で。ようやく○○の体を冷ます事ができた。
「チルノ・・・ありがとう。チルノが来てくれなかったら・・・危なかった」
「レティに言われてきたんだ、○○が限界だからとか連れてきてほしいとか」

「あぁ・・・やっぱり」レティに言われてきた事を伝えると、○○は小さくそう呟いた。
「何がやっぱりなんだ○○?」
チルノは○○の言っている意味がよく分からなかった。
「何でもないよ・・・それよりチルノ。レティの所に案内してくれない」
「・・・?うん、それも頼まれてるから連れて行ってやるけど」
分からない事だらけだった。
ただ、「これから俺、レティと一緒に暮らす事になりそうだ」
その言葉を言った時の○○の顔は、アタイ達と遊んでくれるときの顔と同じで。とても優しかった。


チルノは一つ分かった事があった。○○の体に何かが起こったんだと言う事が。
レティのいる洞窟に連れて行くまで。○○は何度も倒れそうになった。
○○は常時チルノの作る冷気に当たりながらでなければ、外を歩けなかった。
木の陰などの少しだけ涼しい場所なら、日陰よりはマシとは言っていたが。それでも苦しそうだった。

レティのいる洞窟に付いた頃には○○は焦燥しきった雰囲気をかもし出していた。
「○○!」洞窟の奥で姿を見たレティはすぐに彼を抱き寄せた。
「ごめんなさい・・・こんなやり方で」そして開口一番謝罪の言葉を口にした事がチルノの頭を混乱させた。

「大丈夫だよ。分かってて俺は、レティと一緒に居たんだから」
「里の人達にも言われたよ。寝床を共にして・・・同族にしてしまう方法もあるんだって」
「それを分かってて誘いに応じたんだ。悔いは無い」
「でも・・・ほんとに死に掛けたんだからね」

「チルノ、ありがとうね。○○を連れてきてくれて」
「ごめんなチルノ。次に一緒に遊ぶのは冬になりそうだ」
そう言って2人は洞窟の一番奥に引っ込んでいった。
そのときの2人の様子を、チルノは大妖精に話した。
そうすると「絶対に天狗の新聞屋には言っちゃ駄目だよ」と念を押された。

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最終更新:2015年05月06日 20:52