南ことり&アーチャー ◆devil5UFgA



嬉しい事と、楽しい事が同時に訪れた。
まるで寝坊したサンタクロースがお年玉を持ってきたようだった。
なんで、もっと早く来てくれなかったのだろうか。
なんで、もっと寝坊してくれなかったのだろうか。

なんで、なんで、なんで。

そんな言葉ばかりが、私の脳裏を占領する。
頭ばかりが動いて、身体が動かない。
心を決めても、言葉が出ない。

もっと、もっと、もっと。

そんな言葉ばかりが、私の身体を急かす。
もっと、自分の好きなことを活かしたい。
もっと、自分の好きな友達と過ごしたい。

右に手を伸ばすと、左の煌めきが増した。
左に眼を向けると、右の温もりが増した。

言葉が出なかった。
ずっと、ここに居たかった。
もっと、先に行きたかった。

服飾の勉強のための、たった一人の海外留学。
母校を廃校から救うための、大事な友人とのスクールアイドル活動。

どっちも、やりたい。

それを伝えたかった。
どちらを選ぶにしても、そんな悩みがあることを、大事な友達に伝えたかった。
本当に大事な友達だから、かけがえの無い人だから。
だからこそ、隠し事なんてしたくなかった。

でも、言ってしまえば――――どちらかを決めなければいけなかった。

ここに居たまま、どこかに行きたい。
そんな、願いとも呼べない、馬鹿げた願いを抱いた時だった。

月のない夜、紅いお月様が嘲笑っていたのは。




   ◆   ◆   ◆


私は眠っていた。
星を巡る生命の本流。
ライフストリーム。
この世界に満ちる生命は、私達人類の表面的な感覚の上で終わりを迎えても、実質的には終わりを迎えていない。
生命の流れに紛れ込み、ありとあらゆる情報として、この星を駆け巡る。
それが生命というものだった。

私は眠っていた。
未だに、悪夢を見る。
それこそが私の罪に与えられた罰。
例え、多くの罪があの男に集められようとも、私の中にある罪は消えはしない。
与えられた永遠という罰は、罪を見せつけ、私を苦しめていく。
その苦しみこそを求めていた。

私は眠っていた。
呆けたままに、眺めていた。
何時だってそうだった。
私は傍観者だった。
その手も、その脚も。
私は、動かさなかった。
己の中の激情を悪しきものとし、あの人の言葉の前に押さえ込んだ。
私が行った罪は、何も行わなかったこと。

星の守護者を身の内に宿し、星の流れに身を浸らせる。
あらゆる記憶が、感覚的に流れこむ。
その記憶の詳細は理解できないが、心の内が居たんだ。

私の罪は、消えはしない。
永遠に、消してはいけない。

――――だが、罪を犯す者を、救いたい。

しかし、それは私のエゴだ。
その者にとって、本当に大事な選択だとすれば、それは己が決めるべきだ。
私が選んだからこそ、私が罪を抱いたように。
己自身で、己を決めるべきだ。
その結果を己のものとするために。


決断を、人に委ねるなど――――




   ◆   ◆   ◆


「お帰りなさいませ、御主人様~!」

にこやかな笑顔と、穏やかだが声量の大きい声が小さな店内に響き渡る。
華美な装飾はないが、乾燥的な寂しさはなかった。
煩くはないが、寂しさを与えないおとなしいBGMが流れる。
その中に動きまわる黒のワンピース調の野暮な服と白いエプロンをまとった少女たちはにこやかな表情を維持していた。
少女たちメイドに出迎えられた、野暮ったい服装の男はその雰囲気に満足したように目を細めた。
先導されるがままに、席へとつく。

「本日のご注文はお決まりでしょうか~」

間延びした、しかし、リズムを崩さない語調。
店員の醸しだす雰囲気を楽しんでいるのか、男はすでに決まっている注文を、どこか勿体ぶるような態度で口にしなかった。
そんな男の店員に不快感を示さず、店員はニコニコと柔らかな笑みを浮かべ続ける。
店員のその優しい態度に、男は何度目かになる『癒やし』というものを感じた。
そして、注文を口にした。

落ち着かない様子で、しかし、静かに食事を待つ。
どこか不摂生に太った男には、あまりにも『可愛らしすぎる』、そんな軽食を待ち続ける。。
とは言え、男も不摂生ではあったが、清潔でないわけではなかった。
小奇麗な店内で浮くようなことはなかった。
店員と同時に客もまた、この喫茶店の空気を作っていった。

そんな光景を、誰からも観測されずに眺めていたアーチャーにも、この店内に込められた想いが理解できた。

アーチャーは長く黒い髪をした、長身の男だ。
黒い服の上に紅い外套をまとっているためにわかりづらいが、皮膚の下には隆々とした筋肉が眠っている。
鋭さと暗さを持った瞳とその肉体から、特殊な訓練を受けた経験のあるものだとわかる。
英霊。
何らかの偉業をあげた者。
アーチャーのサーヴァントとして、南ことりに召喚された男――――ヴィンセント・ヴァレンタインもそんな存在だった。
ヴィンセントは星を死滅させる存在との戦いに身を費やした一員であり、そして、星を救った男だった。

ヴィンセントは自身を彩る華やかな伝説に似合わない、暗い瞳を動かせる。

そこは、落ち着いた場所だった。
まるで、時が止まっているかのような。
様々な雑念から離れ出られるような、そんな場所だった。

ここはヴィンセントのマスターである少女、『南ことり』が望んだ世界だ。
魂に刻まれた願望が、色濃く浮き出た場所だ。
ヴィンセントは、目を逸らした。
傲慢なまでに罪を許された空間。
それが、この場所に対してヴィンセントが抱いた想いだった。

「お疲れ様です~」

その空間での業務も、終わりを告げた。
マスターであることりの顔には充足感に満ちていた。
ヴィンセントは、その顔に対して、疑問が尽きなかった。
本当に、それでいいのだろうか。
老婆心のような、要らぬ世話であるとはわかっているが、思わずにはいられなかった。

「マスター」

結局、ヴィンセントは耐え切れずに言葉を投げかけた。
ヴィンセントは、この空間をことりが何よりも求めていることを理解していた。
その空間に、自身の居場所などありはしないことも。
本来、存在しないはずの超自然者の言葉に、ことりはいら立ちの表情を見せるだろうか。

「なぁに、アーチャーさん?」

しかし、予想に反して、ことりはにこやかな顔をヴィンセントへと向けた。
あっけに取られたように、ヴィンセントは続く言葉が出てこなかった。
かろうじて、言葉を絞り出す。

「…………いや」
「? 変なの」
「……機嫌がいいようだな、それは、何よりだ。
 本当に、皮肉でもなくな」

ヴィンセントの戸惑った言葉に、ことりはニッコリと微笑んでみせる。
その笑い顔に濁りはなく、だからこそ、ヴィンセントをより困惑させた。

「穂乃果ちゃんにはμ'sがなくて、私には海外留学がなくて。
 でも、私達には音ノ木坂学院がある」

つまりは、そういうことだった。
この場所に、スクールアイドル『μ's』は存在しない。
この時間に、南ことりに与えられた海外留学の機会はない。
しかし、音ノ木坂学院は存在する。
決して、廃校になどなりはしない。

残念ではあるが、延々と続く今がある。
ことりは、それが嬉しかった。
自らを苦しめていたものから解き放たれたのだ。

「凄く残念だけど、凄く嬉しい。
 なんだか、身体が軽くなったみたい」

果たして、心を苦しめていた重荷と同時に大事なものも消えてしまったことに気づいているだろうか。
今は気づいていなくとも、やがて、気づくだろう。
ことりは決してμ'sを嫌ってなどなかった、むしろ、その逆。
ならば、それが消えたことに対して――――ことりは、どのような感情を抱くだろうか。
決まっている。
不安と、罪悪感だ。



「マスター、貴方は――――……!」
「……なに、今の?」

その瞬間。
ヴィンセントの言葉を遮るように、ことりの身体に刻まれたものへと震えが走った。
それは、ヴィンセントにも感じ取られた。
巨大で異質な力の震えだった。

サーヴァントの、あまりにも大きな魔力を知らせるものだ。
ヴィンセントはもちろん、ことりにもその意味をきちんと理解が出来た。
だが、ことりは、認めなかった。

『違う、私は願いが叶った』


『これから、服飾の勉強を頑張って、高坂穂乃果とともに生活する』


『やがて、海外ではなくとも、遠くへ離れることになっても』


『高坂穂乃果との穏やかな生活と温かい青春を、ことりは手に入れたのだ』


――――紅い満月は、その伝承の通り、ことりの願いを叶えてみせたはずなのだ。


だから、戦いなどあるはずがない。
他者を傷つけなければいけない道理などない。
異能の理が、血を撒き散らす現実などありはしないのだ。

ことりの心で膨らみすぎた充足は、その影に眠る不穏な血を隠していた。
小さな血痕が放つ、あまりにも大きな違和感を、ことりは無視した。
悪寒を放ち続ける、紅い満月だけが照らす闇から視線をそらす。
下着を嫌な汗が濡らしていた。

一度、目を瞑り、開いた後、裏路地を見る。

何もない、普通の風景。
慣れ親しんだ、自らが好んだ世界。
なんてことのない、日常。


そのはずなのに――――世界は、こんなにも血でべっとりとしている。


ことりは、目を逸らし、日の当たる表通りへと逃げていった。
霊体化していたヴィンセントは、ただ、何も言うことはなかった。
心の弱さを暴力的に否定できるほど、ヴィンセントは強い人間ではなかった。



【クラス】
アーチャー

【真名】
ヴィンセント・ヴァレンタイン@FINAL FANTASY Ⅶ

【パラメーター】
筋力C+ 耐久D+ 敏捷A 魔力B 幸運E 宝具EX

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:C(A+)
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
宝具を解放し、カオスとなることでA+以下の魔術全てをキャンセルする。
事実上、魔術ではカオス・ウェポンに傷をつけられない。

単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
体内にあるエンシェントマテリアのおかげで、マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

【保有スキル】
獣の因子:A
星が生み出した規格外の宝玉、エンシェントマテリアを体内に埋め込まれている。
エンシェントマテリアが持つ、複数の人外の因子に応じて、その姿を変化させることが出来る。
宝具であるカオス・ウェポン以外の因子を用いた変身では、自らの意思を失う。

心眼(真):C
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す"戦闘論理"
逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

自己改造:E
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。
かつて外科的に行われた実験によって、ヴィンセントは限定的に自らの肉体を改造することが出来る。

【宝具】
『罪と罰(デス・ペナルティ)』
ランク:E~A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:1人
ヴィンセントの体内の『カオス』の因子を目覚めさせる『何か』とともに残されたリボルバー式のライフル銃。
生命を刈り取るたびに神秘は増していき、釣られるように銃口から放たれる弾丸の威力が増していく。
その罪が完全に溜まった時には、星が生み出した守護兵器である『ウェポン』ですら一撃で破壊する。
現在は生命が宿っていない状態であり、通常の銃器にすら劣る兵装である。

『星の海への送り手(カオス・ウェポン)』
ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
星が終焉を迎える時、星は内部に宿した多くの生命を一つに集め、その一つとなった生命を『オメガ・ウェポン』に宿して旅立っていく。
その際、全ての生命を一つにまとめるために、現存する生命を刈り取る存在こそが『カオス・ウェポン』である。
無差別に刈り取られた生命は、清浄な生命はオメガが一つにし、淀んだ生命はカオスが引き受ける。

ヴィンセントはこの宝具を開放すると、禍々しい羽を生やし、肌を青白く染めた悪魔の如き怪物となる。

【weapon】
宝具であるデス・ペナルティ。
生命を刈り取っていない状態の顕現であるために、宝具としての力は不十分。
だが、ヴィンセントは自身の高い技能と優れた身体能力でカバーしている。

【人物背景】
長い黒髪をした長身の男性で、物静かな性格。
何事にも関心がないように見えるが、決して冷徹な人間ではない。
内には熱い感情を秘め、また数十年の時を経ても一途にルクレツィア・クレシェントを想い続けている。
彼女や宝条との間に起こったある事件がきっかけで罪の意識を背負っている。

黒の服と赤いマントを羽織り、銃を武器にする。

外見年齢は27歳だが、人体実験を受けた結果、身体の老化が止まっており、実年齢は50代半ばとなる。なお、この人体実験によってヴィンセントは様々な怪物に変身できる身体になってしまい、そのために人間時でも驚異的な回復力と身体能力を持つ。

ヴィンセントの父、グリモア・ヴァレンタインは世界的グループ、神羅カンパニーの資金援助によって研究を進めるフリーランスの学者。
ジェノバ・プロジェクトが発足する以前の神羅屋敷でルクレツィアと共にオメガとカオスについて研究していた。
しかし、カオスの泉から持ち帰ったカオス因子の暴走により、グリモアはルクレツィアを庇い死亡する。
この事件は後のヴィンセントとルクレツィアの運命を左右する大きな要因となる。

機械の扱いが苦手である。


【マスター】
南ことり@ラブライブ!(アニメ)

【マスターとしての願い】
自らすらもわからない、自らの願いを叶える。

【weapon】
【能力・技能】
服飾の才能に秀でており、

【人物背景】
幼馴染である穂乃果の始めたスクールアイドルグループに、2人目のメンバーとして最初に加わった。
衣装製作やダンスステップの考案などを担当。
母親は音ノ木坂学院理事長。
合宿等にはいつも黄色い枕を持参しており、また、学院で飼育されているアルパカが大のお気に入りらしく度々恍惚している。
スクールアイドルを始めた頃に秋葉原のメイド喫茶で「ミナリンスキー」という名前でアルバイトを始め、わずか数か月で『伝説』と呼ばれる存在になるが、周囲にはそのことを隠していた。
メンバーの中では副リーダータイプで、それも先頭に立つよりフォローに回るタイプであったが、秋葉原での路上ライブでは中心的な役割を果たす。

穂乃果とは自身の人生で初めての友達であり、それ以後は無二の親友となった。
このため穂乃果に対しては並々ならぬ想いがあり、時に穂乃果のことで頭がいっぱいになることもある。
穂乃果に対しては常に甘い態度で接するため、海未からそのことをたしなめられることも多い。

現在、ある悩みを抱えてしまい、その悩みと周囲を気遣うあまりジレンマに陥っている。

【方針】
自らが求める安息である甘受する。



-021:神の摂理に挑む者達 投下順 -019:羽藤桂&アーチャー
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登場キャラ NEXT
南ことり&セイバー(ヴィンセント・ヴァレンタイン 000:DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命

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最終更新:2015年02月05日 02:03