【メコン左岸にて-ラオス中南部の旅】
第2話)公用パスポート
《ラオス旅行記|ビエンチャン|ヴァンビエン|ターケーク|サワナケート》
さて、協力隊員として赴任しているU君のパスポートは、一般人のそれとは別物である。公用パスポートと呼ばれるカースト的には外交官と同じカテゴリーの生意気なシロモノだ。
しかしこのパスポート、あまり使い勝手の良いものではない。我々下々のパスポートが実は世界中どこにでも行ける優れモノであるのに対し、公用パスポートは渡航先が限られれている。例えばU君のは東南アジア数カ国にしか行くことができない。
これは見方を変えれば、赴任先国周辺にU君を監禁する留置所的性格を持っているとも言える。いわばU君は国家に囚われた前科者みたいな身なのである。
そんな不便な公用パスポート所持者たちの密やかな自慢が一つある。彼らは空港の出入国ゲートで、外交官用レーンが利用できるのだ。
バンコクで一晩を過ごした僕らは、翌朝タクシーでスワナプーム空港に向かった。道中U君は公用パスポート唯一の特権である「外交官レーンの利用」を僕らに見せつけたがっていた。
ラオス航空のチェックインを済ませ、僕らは出国ゲートに向かった。さすがに観光大国タイでる。一般レーンでは大勢の観光客が列を成して順番を待っていた。これを尻目に涼しい顔をして「外交官レーン」をサクッと通過し、一般レーンの我々に自慢する、それがU君のささやかな夢であった。
しかし、世の中そう甘くはできていなかった。
スワンナプーム空港にも当然外交官レーンは存在するが、あいにくその日外交官レーンには係員がいなかった。
「ああ、唯一の特権が、、、」
仕方なくU君は僕らとともに一般レーンに並んで出国手続きを待つ。そしてようやくU君の番となったそのときである。左隣にある「外交官レーン」に係員が到着した。
「どうして、このタイミングなんだ、、、」と、悔しがるU君。
彼の公用パスポート唯一の特権を小バカにしたように現れたタイの職員。その出現するタイミングの絶妙さに、僕は心から拍手を送った。
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最終更新:2016年08月27日 18:57