文族には魔法がある。
それは言の、葉により蓄え、舌にて開く、言い換えという名の、
古い、古い、魔法だった。
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一輪の薔薇を摘み持つ。
刺は柔肉にぷちゅりと皮の弾けた感触を伝えている。
ある者は馬鹿馬鹿しそうに言った。
そんなものを見せびらかして、どうしようというのだね。
また、ある者は慌てて言った。
大丈夫ですか、痛くはありませんか。
いずれも二の句はそのまま同じ。
そんな花など、持たなければいいのに。
けれど、諸君、と、
その文族は楽しげに言った。
薔薇は蕾か、真紅か、白か、
見せぬ限りは誰にも解らぬ。
これが未来というものだよ。
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T15と私。:或いは私と……
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幾つものポートレイトが並んだ、棚の上、
眺めれば何ともつかない微笑みが生まれるのは、
掛かった労苦を思ったからだろうか。
これは編成の時。ああ、まったく、何度やってもキリがない。
みんなで書類を広げて、やいのやいのと、検算をしている時の光景だ。
いつも一人で始めるけれど、最後は絶対一人じゃない。
振り返ると、それが妙に印象に残ってて、嬉しかった。
これは外交か。
終わった後に、駆け足で仕事場に戻ることもあるが、
大抵は、下らない世間話でちょっと一杯引っ掛ける。
人見知りをして気が重くなることもあったが、
ひょんなことから知遇が増える、あの突飛感には、
面白みがなくもない。
もっとも、懐かしんでいるからこその感慨で、現在進行形の時には、
たはー、と、困り笑いが口から漏れるのだが。
会議は、色々やったな。見ればすぐ、そうとわかる。
一番、人の数が多くて、一番、楽しそうにしている。
細かいところを詰めるのは面倒だったけど、うん、
立派なものが、その分だけ出来た。
どれも、変わらない日常だ。
その中に一枚、目新しい、青い髪の立ち姿が紛れ込んでいた。
思うに、「それ」を意識し始めたのは、この時だ。
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過ぎ去った日のことを思うと、
同時に、どうしても浮かんでくる事柄がある。
それは、決して訪れないという意味で過去に等しい時間で、
それは、自分がいなくなった日々のことだ。
考えれば、ほんの少し、寂しさが胸を刺す。
春の日の戯れにふと見た、うたた寝の夢の、
一人、巨大な玉座で愛の永遠を謡い立っていた彼女を思う。
結局のところ、私にとって、ターン15とは、
或いは私と世界の終わりの彼方で詠う彼女の、
未来についての始まりと、薔薇の蕾を眺めながらに、思うのだ。
この薔薇は、どんな花を咲かせるだろうか。
最終更新:2010年05月18日 22:29