project nemo_15

ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL Project nemo



第15話 憎しみの中で飛べ


――つい先ほど、何か大きな爆発が起きた模様で……

――現在、管理局の現地部隊が被害状況の確認を……

――二三管理世界は人口が少なく、死者はいないと思われており……

――各次元世界の管理局部隊には非常呼集が行われ……

――報道班が現場に到着しました。これより映像の中継を……



果たしてそれは、ミッドチルダの人々にどう映ったであろうか。
管理外世界において、何度となく繰り返された過ち。全てを飲み込んだ、焔と衝撃。青空は消え、緑の大地は焼かれ、どす黒く染まった大気が世界を支配している光景。
ディスプレイに映るそれは、夢でもなければ幻でもない。紛れもない、現実。決して、テレビの向こうのおとぎ話などではないのだ。
だけども、多くの次元世界の住人は無関心で。大変だなぁ、怖いなぁ、と言ったありふれた感情を抱くのみ。近くの管理局の駐屯地や基地が騒がしくなってもなお、それらが変わることはなかったのである。
だからこそ、彼らはそこに眼をつけた。世界を変えるのは何も、力だけではない。言葉一つで、大衆は動くのだと。
間もなく、それらは立証されようとしていた。



ヘリから降りると、真っ先にどす黒く禍々しいきのこ雲が目についた。青空を塗り替える邪悪な大気は、同時に異臭を周囲に振りまいていた。
風に揺れる金髪を抑えながら振り返ると、自分を乗せてきた管理局のヘリに着陸するなり、整備員が機材を抱えて駆け足でやって来た。いずれも必死の形相――緑豊かなこの次元世界と同じように穏やかだったはずの彼らさえ、変えてしまったと言うのか。あの禍々しいきのこ雲は。
否、彼らだけではない。降り立った第二三管理世界の航空基地は、普段の静けさが嘘のように喧騒とジェットのエンジン音、ヘリのローター音によって姿を変えていた。消火弾を満載した戦闘機、輸送機、ヘリが行ったり来たりを繰り返し、それでは足りず、応援に駆けつけた他の次元世界や本局の魔導師部隊も後を追っていく。航空管制は今頃、忙殺されているだろう。
もっとも、今の彼女、フェイトには半分がどうでもいいことのように。行き交う整備員や魔導師たちの間を縫って、駆け足で目的の場所、基地の医務室へ向かう。
基地の施設内はやはり慌しく人が行ったり来たりを繰り返していたが、彼女が降り立った駐機場や滑走路に比べればはるかにマシだった。司令部要員らしい制服の局員が時折廊下を走るだけで、それすら足を進めると見当たらなくなった。
それが何を意味しているのか、普段の彼女なら気付くことが出来ただろう。医務室に用事のある人間は、あまりいない。すなわち、あの爆発があった割りに、死傷者がほとんど出ていないのだ。

「フェイトちゃん、こっち」

不意に声をかけられ、はっとフェイトは焦りと不安で染まる思考から解放された。医務室前で、見覚えのある白衣の女性が手招きしている。シャマル
だ。本局で医務官をやっているはずだが、彼女も増援として借り出されたのか。しかし、医務室の方は外の喧騒が嘘のように静まり返っている。
扉を開ける直前、シャマルは執務官の耳元で囁くように言う。まだ絶対安静だけど、命に別状はない。だけども、フェイトは自分の目で確かめなければ気が済まないのだろう、ほとんど医務官からの忠告を聞かず、医務室内に押し入った。

「……っ!」

入るなり、視界に映り込んだものを知覚した彼女は駆け出そうとした。
後を追ってきたシャマルが抑えなければ、そのまま飛びついていたかもしれない。

「落ち着いて。絶対安静よ、いいわね?」

静かに、しかし睨むような視線をもって。優しい風の癒し手の姿はそこになく、今のシャマルは患者の命を預かる医務官だった。
分かった、もう大丈夫。肩にかけられた手をゆっくり振り解き、フェイトは自分が落ち着いたことをアピールする。改めて、医務室の少ないベッドに横たわる患者を見て、しかし彼女の顔は今にも泣き崩れそうだった。
シュー、シューと小さな呼吸音。半透明のマスクから漏れる命の鼓動は、あまりにも弱々しい。それが二つ。包帯で巻かれた小さな身体、わずかにはみ出る赤毛と桃色がどうにか何者なのかを識別出来る――爆心地よりわずか三キロ、爆発の規模を考えれば生きているのが奇跡も同然。自然保護隊所属の、エリオとキャロ。フェイトにとっては、我が子にも等しい存在。

「シャマルさん、この子たちは……」
「大丈夫、助かるわ」

震える声を、喉から絞り出すように。フェイトの問いかけは、肯定を持って返答された。よかった、と執務官からただの少女になった彼女は呟き、ふと、二つのベッドを仕切るカーテンの向こうで何かが動いていることに気付く。あっと思った時にはシャマルが駆け出し、カーテンの奥へ。

「駄目よ、フリード。まだ動いちゃ」
「フリード……?」

医務官を追うと、動物用の小さな治療台の上で――自然保護隊で使用されている、怪我をした野生動物を治療するためのものだ――白い小動物のような生き物がジタバタと暴れ、そこを無理やりシャマルによって押さえつけられている。上げる鳴き声は弱々しいが、フェイトは聞き覚えがあった。フリード、フリードリッヒ。キャロを主とする竜の名前だ。もっとも竜の翼は、焼かれたように黒く染まっている。
彼がエリオたちを守ってくれた。どうにか暴れる竜を押さえ、シャマルが説明してくれた。翼が黒いのは、おそらくその時のせいだろうと。
ありがとう、となおも不満げな瞳を隠さない竜にフェイトは告げる。フリードリッヒはやはり、すぐにでもカーテンの向こうの主の容態を確かめたい様子。
執務官は、カーテンを一瞥して、それからシャマルの方を見る。仕方ない、と医務官は肩をすくめて、竜と主を遮る布を引いた。
包帯を巻かれた少年と少女は、やはり見るのも痛々しい姿。だけども、フリードリッヒは理解したらしい。弱々しい二つの呼吸音は、命の証。彼らは生きている。ほっと安心したように、治療台の上に寝転んだ。
――そう、生きている。知らせを受けた時はほとんど絶望しか浮かんでこなかったが、彼らは生きている。ようやくその事実が認識出来たのか、じわりとフェイトは紅い瞳に涙を浮かばせる。
そっと、彼女は二人のベッドの間に立ち、少年と少女の手を握る。握り返すようなことはなかったが、手のひらに返ってくるのはほのかな温もり、柔らかな体温。
執務官としてやるべきことは、まだまだ無数と言ってもいいほどある。
だけど、今は静かに。我が子同然の二人の生還を、彼女は噛み締めていた。



一夜が明けて、ミッドチルダ首都クラナガン。
第二三管理世界にて突如巻き起きた謎の大爆発は、もちろんのことその日のマスコミの話題を全て埋め尽くしていた。
新聞、テレビ、ネット、ラジオ。どこもかしこも同じ事柄を扱っており、様々な憶測が飛ぶ。自然現象、何者かによるテロ、果ては人類とはまったく異なる異星体からの侵略、メッセージ。現地は早々に管理局が厳重に封鎖したため、真相は今のところ不明。
一つだけはっきりしているのは、今回の爆発は規模に対して人的被害が極端に少ないことだ。緑豊かな二三管理世界はそもそも人口が少なく、森は焼かれど現地世界の住人に被害はほとんどない。唯一、管理局の部隊のみに負傷者が発生している。

「しかし、市民たちは不安がっています。一刻も早く事態を掌握し、情報を公開しませんと」

言われなくても分かっている。緊急招集が行われた地上本部、幕僚の一人の進言にしかし、司令官たるオーリスは不機嫌な表情を露にした。
ひとまず、二三管理世界の火災は収まった。航空機、魔導師、次元航行艦すら投入した消火活動のおかげである。オペレーターに命じて、司令室の大型モニターに現地のライブカメラ映像を映すよう命じても、黒焦げになった緑の世界が見えるだけだ。ところどころ小火はあるが、魔導師が氷結魔法で消して回っている。
問題は、この先だ。オーリスはテーブルにぶちまけられた報告書を手に取る。手書きでしかも走り書き、爆発直後の司令室の混迷ぶりが目に浮かぶ。
そんな紙切れ一枚が、彼女の思考を掻き回す。誤報であることを願ったが、再度確認させると間違いないという報告が返ってきた。
すなわち、現場空域に向かった魔導師が爆発した地域を中心にある反応を検出した――放射能。核の残り香。
二三管理世界で、ウラニウムが発掘されたという話は聞かない。あるはずもないものが、そこにある。その一点が、司令官の思考をかき乱していた。
あの大爆発は太陽が発する炎と同じもので、巻き起こったきのこ雲はそれらによるもの。そう結論つけてしまうのは簡単だ。おそらくは何者かによる犯行だろう、現地世界の航空基地はレーダーで所属不明機を発見している。スクランブルを発進させたが、撃墜されてしまった。その直後だ、核爆発が起きたのは。
アヴァロン・ダムから逃げ出した一連の事件の首謀者たちか。他にまったく関係ないテロリストが活動した線は否定出来ないが、時期が時期だけにどうしても疑ってしまう。それが、余計に思考の妨げになっていた。

「何のために……?」

ぽつりと漏らした言葉、それが今のオーリスの思考そのものである。仮に彼らだとするならば、何故、あえて人的被害が少ない二三管理世界で爆発させたのか。捜査の妨害をしたいならば、ミッドチルダででも起爆させればいい。地上本部のお膝元であんなことが起きれば、混乱と救難で管理局は捜査どころではなくなる。
眼鏡の奥で、姿を見せない犯罪者に表情を歪めていると、急にオペレーターたちの方が騒がしくなってきた。呼び出された技術員が機材の調子を見ているようだが、何が起きているのかさっぱりと言った様子だ。

「どうした、何が起きてる。通信参謀」

オペレーターの長から報告を受けている通信参謀に問いただすと、全ての通信機器が突如ダウンしたらしい。通常の電波通信はもちろん、念話による魔力通信もアウト。ドタドタと慌しく陸士が司令室にやって来て、携帯無線も駄目だと言うことを知らせに来た。残った手段は伝令と言うことか。
オーリスは視線を上げる。先ほどまで爆心地を映していた大型モニター、現在は真っ暗になって沈黙していた――否。雑音と共に砂嵐が走る。同時にざわめきが起きて、オペレーターたちがインカムを耳に当てていた。
一瞬、彼女は通信が回復したのかと考えた。だが、大型モニターに映り込んだ映像を見て、違うと判断する。スピーカーを通じて司令室に響いた音声が、その判断を確信へと導いた。

『各々の異世界に住む、諸君らに告ぐ』



その放送を、果たして何人の人間が驚くことなく受け入れたのだろうか。おそらくは皆無に等しいだろう。
テレビも、ラジオも、ネットも。ありとあらゆる電波を通じて情報を発信する機械が、彼らの放送を配信していた。
突然画面に現れた男たちは、いずれも軍服姿。背後に掲げられた国旗は、次元世界の住人で知る者はほとんどいない。黒と白と黄色の三色を基調にしたその旗は、本来であればある世界の国のもの。

『各々の異世界に住む、諸君らに告ぐ』

だから、放送を見た者のほとんどは、彼らが何者であるのかを知らなかった。知る由もなかった。
それらを踏まえてか、軍服姿の男たちは名乗りを上げる。自分たちの正体を。

『我々は、"ベルカ公国"』

正体を明かし、しかし放送を見ていた者のほとんどは首を捻るだけ。ミッドチルダにおけるベルカとは古代ベルカのような過去の文明、もしくは近代ベルカ式など魔法の術式の一つに過ぎない。
ましてや自らを国家であると名乗るなど、彼らの発言は常人の理解の範疇を超えていた。それにも関わらず、彼らは続けた。




『我々の目的は、ただ一つ。我々の世界の、我々の祖国、ベルカ公国の復権にある。だが、次元世界を束ねる時空管理局なる組織は、我々の崇高なる使命をその武力を持って阻み、封殺しようとしている』

ベルカ公国。彼らはそう名乗った。二三管理世界、エリオとキャロから一時も離れず、放送を見ていたフェイトは確信する。
こいつらだ。パイロットたちを拉致し、アヴァロン・ダムから行方をくらましたテロリスト。
手のひらをぎゅっと握り締めようとして、しかし彼女はあっと気付く。無意識のうちに繋がれていた、二人の少年と少女の手。我が子にも等しい存在がそっと、握り返してくる。落ち着いて、と語りかけたかのように。



『昨日の二三管理世界における爆発は、報道により皆知り得ていることだろう。あれは我々が保有する核弾頭、"V1"を起爆させたものである。勘違いしてもらっては困るが、我々は殺戮が目的ではない。そのことは、V1の起爆によって死傷者がほとんど出ていないことから理解出来るだろう。しかし。これ以上、管理局が我々の祖国復権を邪魔しようと目論むのであれば、我々はこのV1を持って焦土作戦を実施する考えである』

殺戮が目的ではない、だと? ふざけるな。本局内にて知らず知らずのうちに、テレビの向こうの男たちに向かってティアナは叫んでいた。
彼女は知っている。奴らのおかげで、何人も死者が出たことを。何人ものパイロットが命を奪われ、六課時代の仲間さえ、生死の境を彷徨ったことを。
しかし、放送は止まらない。シャリオたち技術部がどうにか発信源を突き止めようと頑張っているが、焼け石に水も同然のようだ。不愉快な戯言は、しばらく終わる様子を見せない。



『諸君、どうか聞いてもらいたい。繰り返すが我々の目的は、我が祖国、ベルカの復権である。ミッドチルダ、その他の次元世界には一切の不可侵を約束しよう。だがそれを阻むと言うのであれば、ミッドチルダを初めとした各次元世界は焦土とせねばならない。諸君、どうか考えてもらいたい。我々はいつでも、どこにでも先の二三管理世界での爆発を起こすことが出来る。例え管理局であっても、これを防ぐことは困難であろう。無能な管理局を支持して土地を焦土にするか、無能な管理局を弾劾して土地を守るか。諸君、諸君らの土地、諸君らの命、諸君らの未来は、諸君ら自身によって決めるべきである。全ては諸君ら次第である』

無限書庫にも、放送は届いていた。局員たちは作業を中断し、ディスプレイの前に集まり、食い入るように男たちの言葉に耳を傾けていた。
当然かな、と同じく画面を見つめ、ユーノは彼らの様子を見て呟く。彼らにだって家族はいる。恋人もいる。大切な人がいる。それが、自分たちの判断で焼かれるか否か、と選択を迫られているのだ。血相を変えて聞き耳を立てるのも、仕方ない。



『そして聞け、管理局。貴様らは次元世界の平和と治安を守ると大層なことを抜かすが、本当にそんなことが出来るのか? 現実を見よ、二三管理世界は妨害らしい妨害を受けることなく、核攻撃を受けた。死傷者がいないのは偶然ではない。我々がそうすることを選択したからだ。これは、警告なのだよ』

表情を変えず、しかしエースオブエースの心中は確実に黒い感情で染まりつつあった。自宅のマンション、子供ながら何かを察し怯えた様子の娘を勇気付けながらも、なのはの眼が画面から離れることは無い。
放っておけば、そのまま相棒を手に飛び出してしまいそうな衝動。それをどうにか抑えているのが、腕の中で震えるヴィヴィオと言う存在だった。動いてはいけない。この子は今、自分を必要としている。離れる訳にはいかなかった。



『我々はもうすぐ、我々の世界へと帰還する。貴様らが黙っておけば、もうどこの世界も核の炎で焼かれることはない。そして次元世界に住まう諸君、もし管理局がそれでもなお我々の帰還を邪魔しようと言うなら、管理局を弾劾したまえ。さもなくば、焼かれるのは諸君らである。繰り返す。我々の帰還を許せば何もしない。我々の帰還を妨げるなら容赦しない。二つに一つだ。さぁ、選びたまえ』

やられたな、とテレビの向こうの男たちの演説が終わるなり、リボン付きのフライトジャケットを着たパイロットは呟く。歴史の授業だけでなく、当時は幾度も同じテレビの向こうで特集番組が放映されたから知っている。一九九五年、あの日に至るまで、ベルカは、正確には当時かの国に存在した極右政党は、同じような方法で民衆の支持を得て、政権を獲得し、開戦を決断した。メディアを活用し、大衆の心理を煽り、民意と世論を味方につけたのだ。
どこに行っても、人の本質的な部分は変わらない。自らの命が脅かされていると知った人々は、行動を起こすだろう。おそらくは、管理局にとって悪い方向に。




「茶番だな」

演説を終えた軍服の男は、疲れたように吐き捨てた。効果はまだ確認していないが、必ず成功すると他ならぬ現地出身の者から約束されていた。
その現地出身の男、白衣を着た科学者は気味の悪い笑みを浮かべ、一人拍手を送ってきた。

「素晴らしい。大衆の扇動とはこうやるのだね、なるほど」

一つ勉強になったよ、と手放しで賞賛する科学者に、しかし軍服の男は大して嬉しそうな表情をしなかった。慣れないことをやったように、溜め息を一つ吐いて応えるだけ。そんなこともお構いなしに、白衣の彼は饒舌に語る。

「私は科学者であるからね、政治のことなどは知りもしないし興味も無かった。だけどなるほど、今回の君の行動を見ていて分かったことがある。実に面白い。人の心とは複雑怪奇、しかも個人差が大きいものであるから統一した行動を取らせるのは不可能に近いはずなんだ。だがどうかね。少しばかり刺激的な光景、少しばかり言葉を混ぜただけで何千、何万もの人々が心動かされるだろう。大衆に政治を任せるのは危険とか言っていたね? いやまったくだ。こんな簡単に動く者に政治は任せられん。やはり世界は選ばれた者によって管理運営されてこそ、よりよい方向に進むのだな。いやはや、なかなかどうして――」
「ドクター。分かってもらえたのは嬉しいが、そろそろそのお喋りな口を紡ぎたまえ。モニターで各地のライブカメラを見てみろ、貴様の見たいものが見えてくる」

鬱陶しそうに軍服の男は白衣を追い払う。科学者が気分を害した様子は見せず、「ああ、そうしよう」と楽しそうに答え、フラフラとした足取りで立ち去っていった。
遠くなっていく科学者の白い背中を眼で追いながら、軍服の男はもう一度溜め息を吐く。制帽を脱ぎ、額に手を当て天を仰ぐ。部下たちが彼に対してベルカの理想、ベルカのあるべき姿などを熱弁しているのを見たが、やめさせるべきだった。知らない分野を教えられたあの狂人は、甘い菓子を食い漁る子供のように知識や技術を求め、浮かれきっている。率直に言うと、相手するのが疲れるのだ。
ふと、男は科学者から目を離そうとした瞬間、妙な違和感を覚えた。再び視線を元に戻した時、白衣の影は通路の奥へ消え去り、すでに視界の外。確認の手段を失った彼は、仕方なく諦め、科学者と同じようにモニターで演説の成果を確認しようとする。
その間に、軍服の男が覚えた違和感は脳裏の奥に消えていった――この世のものなら必ず背負うはずの"影"が、科学者から消えていたことなど、もうどうでもよくなっていた。





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年01月01日 12:13