THE OPERATION LYRICAL_08

ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL




第8話 制空戦闘




強いものが生き残る――それが空の掟。




入念に偽装が施された滑走路――。
フライトジャケットを羽織った一人の男が、離陸していくF-15Cイーグル制空戦闘機の群れを眺めていた。
男の視線を辿っていくと、F-15Cのコクピットに辿り着く。本来ならそこにいるべきはずのパイロットの姿は無かった。
自動化と言えば聞こえはいいが、パイロットまで排除した鋼鉄の翼には温かみが感じられない。何よりも男にはこの無人化されたF-15Cが
どこまで通用するのか疑問だった。

「元はと言えば、あれは君の世界の技術だよ」

そんな男の疑問に答えるように声をかけてきた科学者―スカリエッティ。

「着想も技術もなかなかいい。だが、随所に詰めの甘さが見られた。だからこうしてデータ収集をさせているのだよ、今回が最後になるが」
「――また民間施設への攻撃か?」

不愉快な表情をあらわにした男はスカリエッティを睨む。現にこのマッドサイエンティストは二度も民間施設を攻撃していた。一度目は鉄
道、二度目はホテル。鉄道が破壊されれば交通機関に大きな悪影響が出る、ホテルなど爆撃されれば屍の山が築かれる。それらを分かった
上でスカリエッティは無人戦闘機を送り込んだのだ。ただデータを集めたいがために。
技術屋連中がみんなこんな人間ではないことを、男は切に願う。

「安心したまえ、今回は違うさ。君の大好きな制空戦闘だよ」
「――ふん」

だが、男はスカリエッティを止めに入るようなことはしなかった。曲がりなりにも命の恩人であるし、二十四時間自分を世話して回るガジ
ェットとか言う無人兵器による監視の目もあった。

「それより――本当に行くのかね?」

スカリエッティが話題を変えるように言った。彼の視線の先には、滑走路の外れで駐機されている戦闘機があった。離陸していったF-15C
と違って、こちらはパイロットが乗り込んで操縦する純正品のままだ。

「君があのリボンの戦闘機に深い興味を持っているのは分かるが――」
「なら止めるな」

サヴァイバル・ジャケットとヘルメットを手にした男はスカリエッティの言葉を短く遮り、駐機されている愛機に向かう。

「冷たいなぁ。私は心配しているのだよ?」

そうは言ってもスカリエッティは笑みを浮かべている。苦笑いだったのかもしれないが、男には自分を嘲笑っているように見えた。

「それについては素直に感謝しよう――離れてろ、離陸する」

文字通り言葉だけの礼をして、男は愛機――Su-37に乗り込む。
大出力のエンジンに空気抵抗の少ない機体、そしてトリッキーな機動性で格闘戦では無類の強さを誇るこの愛機の機首には黄色で「13」の
文字。それが男のコールサインであり、この世界での―終わったはずの人生での名前。
AL-37FUエンジンを始動させると、凶暴な唸り声が上がる。空気が震えて、気分が引き締まった。
――エルジアのためではない。今はただ、俺が俺であるために。

「黄色の13――出る」

エンジン・スロットルレバーを押し込み、滑走を開始。たった一人の黄色中隊が、空に舞い上がっていく。
その姿を、スカリエッティは冷たい笑みで見送った。

「せいぜい頑張ってくれたまえ――御稜威の王がもう少しで蘇る。もう少しで―」



機動六課の会議室。
メビウス1は会議室中央のテーブルに転がる、損傷の激しい何かの残骸を見ていた。
焼け焦げた残骸のネームプレートからかすかに読み取れる単語は"Z.O.E"。メビウス1はこの単語に聞き覚えがあった。

「戦闘AI"Z.O.E"――まだ存在していたとは、な」

ホテル・アグスタ防空戦にて撃墜したタイフーンの残骸を回収、調査した結果、無人機であることが判明。それだけではなく、機体を制御
していたAIはメビウス1の世界にてかつて運用されたものだった。

「墜落時の衝撃と火災で損傷がひどく、確証は得られません。ですが、相当高度なものであったと思います」

解析を担当したシャリオは手元の端末から得られるデータを参照にして言った。

「インテリジェントデバイスとは、また違うのかな?」

同じく端末からのデータを見ていたフェイトが疑問の言葉を漏らす。
確かに、人工知能と言う点ではフェイトたちのインテリジェントデバイスと似通った点はあるかもしれない。だが、メビウス1はそれを否
定する。

「いや、根本的に違う。お前さんたちのデバイスは主にサポートだろ?こっちはサポートもくそもない、完全に独立して動く。まさに戦う
ためだけに作られた無人戦闘機の中枢さ」
「それもシャーリーの言ったとおり、非常に高い能力を持ってる」

追加されたなのはの言葉にメビウス1は頷く。

「編隊を組み、互いの死角や隙を補うように戦う――ただ強いだけでなく、コンビネーションさえ知っている。少数ならともかく、大群で来
られるとガジェット以上に脅威だ」
「しかも速ぇしな。音速出されたら追いつけねぇよ」

実際にZ.O.Eを搭載した無人機と対決したシグナム、ヴィータの言葉には経験による裏付けがあった。この場にいる誰もが反論する余地は
無い。

「――メビウスさん、どうかした?えらい考え込んでるようやけど」

一方で思案顔を見せるメビウス1に、はやてが声をかけた。
「あぁ、ちょっとな。このZ.O.Eシステム、俺の世界じゃ前にクーデターで使われたものなんだが――」

メビウス1は知っている限りのZ.O.Eの情報を六課のメンバーに話す。
かつてクーデター軍がこのZ.O.Eを使用し、劣勢を挽回しようとしたこと。しかしそれは傭兵航空部隊"スカーフェイス"によって阻まれた
こと。Z.O.Eシステム搭載の無人機はすべてが撃墜され、以後ユージア大陸には同システムを搭載した無人機は存在しないこと。

「しかし、現に存在していてこっちの世界で暴れている――と言うことやな」
「ああ。確かにエルジア軍は追い込まれてはいたが、こいつに手を出すほどだったのか……?」

ユージア大陸全土で巻き起こったクーデターには各国の正規軍も多数参加しており、そのことから忌わしき記憶としてクーデター軍が独自
運用していたZ.O.Eはクーデター鎮圧後誰にも見向きされなかった。
ISAFによる反攻作戦で追い込まれたエルジアは、とうとうこの技術に手を出したのだろうか。確かに新たにパイロットを養成するよりはず
っと早く戦力は揃う。

「あと、これも確証は得られないんですが」
「まだ何かあるのか?」

メビウス1の問いにシャリオが頷く。彼女は端末を捜査して、データを呼び出した。

「このシステム、改修された形跡があります。主な点としては、電気信号を魔力に切り替えてます。これは回路内で命令解読を行う手間が
省ける利点があって――」
「待て、Z.O.Eをさらに改修?」

シャリオの解説を遮って、メビウス1は疑問の声を上げた。
決して電子技術と言う分野で詳しい訳ではないが、メビウス1はZ.O.Eは自分の世界での技術の粋を集めて開発されたものだと聞く。ミッ
ドチルダの技術はさらにその上を行くのかもしれないが、すでに完成されたシステムを改修するのは容易なことではない。

「完成されたシステムをさらに改修してみせる――それも魔力、こっちの技術を取り入れて。こんなこと出来るのは―」
はやては言葉を途中で区切って、フェイトに視線を送る。彼女は頷き、端末から次元犯罪者のリストを呼び出すとその中から一つを選ぶ。

「ジェイル・スカリエッティ……指名手配中の、次元犯罪者だよ。罪状は山ほどあるけど、主なものはやっぱり違法研究かな」
「こいつが言ってしまえば、一連の事件の親玉か」

投影されたスカリエッティの画像データを見てメビウス1は呟いた。

「何の目的で動いているのか――いや、それ以上にどうしてエルジアが協力しているのか」

ISAF空軍の軍人として、気になるのはやはりそこだった。もともとメビウス1が六課に協力する理由だ。

「けどメビウスさん、必ずしもこの人がそのエルジアと協力しとるとは限らんよ?」
「どうして?」
「無人機だけがメビウスさんと同じようにこっちに飛ばされて、それを偶然入手したスカリエッティが使用している、とか」

なるほど、とメビウス1ははやての考えに納得して見せた。確かにその可能性も否定できない。

「まぁ、結論を急いでもしょうがないと思う。まだ情報も少なすぎるし」
「なのはの言う通りだよ。彼については、引き続いて調査をするから―」
「ああ、悪いが頼む」

メビウス1はフェイトに頭を下げた。
本来なら調査は自分でやりたいところだが、パイロットの彼にそんな能力や知識は無い。ましてや、彼の管理局における身分は「任意で協
力してくれている次元漂流者」に過ぎない。はやてからは一尉相当の権限をもらっているがそれも六課の中だけの話だ。

「とりあえず、今はこの辺にしておこうか。もうすぐお昼やから、みんなで食堂行こか」

はやてが手を打って会議の終了を告げると、堅い雰囲気は一気に和らいだ。
だが――そんな時間を与えてくれるほど、現実は容赦しなかった。
皆が席を立った瞬間、一級警戒態勢の警報が鳴り響く。

「飯も食わせてくれない、か。スカリエッティってのはよほど仕事熱心なんだな」
「ホント、仕事熱心やな……みんな行くで」

だっと一同が動き出す。それぞれが自分の役割を果たすために。



――洋上。
二〇機のF-15Cが、四機ずつの編隊を組んで高度三万フィートの空を飛行していた。
全機がZ.O.Eを搭載した無人機ゆえ、無線による会話は一切ない。淡々とした電気信号によるデータリンクが行われているだけだ。
と、その時編隊でもっとも左に位置していたF-15Cが何かを見つけたのか主翼を左右に振る、俗に言うバンクで編隊長を務める先頭のF-15C
に合図した。無人機であるはずなのに、こういうところは妙に人間臭い。
隊長機から指示を受けたのか、一個編隊が分離して高度を下げ、発見した"何か"の正体を確かめに行く。
彼らが発見したのは、管理局の空戦魔導師たちだった。F-15Cの飛行するルートは民間便のそれと重なっており、空戦魔導師は警告のため
上がってきたのだ。
もちろん、F-15Cの編隊が警告に従うはずがない。彼ら一個編隊は二機ずつに分かれてそれぞれ上昇、降下。上と下から空戦魔導師を取り
囲む。魔導師たちは警告を無視するどころか不審な行動を取る彼らに魔力弾による警告射撃を実施。だが、F-15Cは動揺することなく魔導
師たちに狙いを定める。
野獣の唸り声のような咆哮と共に、二〇ミリの弾丸が魔導師たちに襲い掛かる。咄嗟に回避しようとした彼らだったが、毎分六〇〇〇発に
も及ぶ弾丸の雨から逃れられる訳も無く、一人を残して空中で全員ミンチにされた。
悲鳴を上げて全速力で逃走を図る魔導師、だがその行く手を降下して待ち構えていたF-15Cの二機編隊が阻む。
逃げることすら適わないことを悟ったこの哀れな魔導師は救援を要請しつつ、半狂乱になって魔力弾を乱射。F-15Cは全長一九メートル以
上に及ぶ巨体に似つかわしくない俊敏な機動でそれを回避、機関砲弾を叩き込む。
魔導師は手にしていたデバイスを砕かれ、同じように自身も肉片すら残らないほどの弾丸の雨を浴びて仲間の後を追った。
手ごたえの無い相手にF-15Cの編隊はつまらなさそうに上昇、合流して元の位置に戻る。
血に飢えたこのハゲタカたちは、更なる獲物を目指して飛び続けた。



「救援、救援を――速過ぎる、勝てない! 救援を――」

警告のために出撃した魔導師の悲痛な叫びは、念話を通じて六課の皆に響き渡った。
念話の向こうでは雷のような轟音。直後、魔導師のものと思しき悲鳴が上がり、グチャ、と肉が潰れるような音がして交信は途絶えた。

「――やられ、た?」

ヴァイスの操縦するヘリのキャビンで、エリオが青ざめた表情で呟いた。悲鳴の後に聞こえた音が何を意味するかは、容易に想像できる。

「ひどい……」

沈痛な面持ちで言葉を漏らしたのはキャロ。覚悟の上で彼女らは六課のフォワード部隊に参入しているが、まだ十歳の子供に今の交信内容
はあまりに生々しいものがある。

「――相手は、また戦闘機なんですよね?」
「ええ、そのはず――怖い、エリオ?」

青ざめた顔はそのまま、エリオの問いにティアナが答えた。
エリオは彼女の言葉に首を振って否定するが、震える腕は隠しようも無い。

「いえ、怖い訳では……違います、ね。確かに怖いです」
「じ、実はあたしもー。いや、正直これはたまんない」

少しでもキャビンに広がる暗い雰囲気を変えようと、スバルがやたら明るい声を出すが、効果は無いに等しい。
――と言っても、あたしも怖いんだけど。
クロス・ミラージュをガンマンよろしく回転させて必死に誤魔化しているが、心の底から湧き上がってくる恐怖は止めようが無い。

「航空隊の人って、精鋭ばかりなんですよね?」

不安そうな声で、キャロが皆に問いかける。

「その、こんなこと言うのもなんですが……精鋭の人が、こんな簡単にやられちゃうってことは」
「馬鹿言わないの。あたしたちだって、戦闘機と戦うのはこれが初めてじゃないでしょう」

ティアナの言う通り戦闘機の相手ならすでに経験している。だが、それでもキャロの不安そうな表情は崩れない。傍らのフリードでさえ、
身を震わせていた。

「――え? なんだって、正気か!? ……了解」

その時、コクピットの方でヴァイスの声がした。何事だろうとスバルがキャビンを駆け上がり、問いただす。

「あのー、いったい何が?」
「……引き返す」
『えぇ!?』

ヴァイスの口から出た思いもよらぬ言葉に、新人たちが驚く。
ここまで来て引き返すとはいったい何事なのだろうか。

「ロングアーチからだ。洋上じゃ足場が無くて新人たちを出しても活躍出来るとは思えんそうだ」
「でも、ウイングロードがあれば……」
スバルは自身の魔法を口に出すが、ヴァイスは首を振る。

「戦闘機の機動力に追いつけるもんじゃないだろ」
「うっ…」

ヘリは反転し、速度を上げた。急いで空域を離脱しなければ、ミサイルによる攻撃を受ける可能性があった。ヘリの機動力で音速を超える
ミサイルを回避するのは到底不可能だ。
新人たちは、無念の思いで戦場を後にする。その中で、ティアナは一本の白い航跡がはるか遠くに浮かんでいるのを目撃した。
――メビウス1、頼みます。



レーダー画面に映る機影は二〇機。メビウス1は愛機F-22のコクピットで、久しぶりに大規模な空戦になることを悟った。
――洋上での大規模な空戦、か。まるでコモナ諸島での制空戦だな。
蘇ってきた記憶はISAFによる本格的な反攻作戦の準備のために発射される人工衛星の防衛任務。あの時も気象条件はよく、格闘戦には最適
な状況だった。

「メビウスさん、新人たちは下がりました」
「了解」

隣を飛ぶのはバリアジャケット姿のなのは。
今回は洋上と言う足場の無い状況で敵も大群であるため、陸戦主体の新人フォワード部隊は後方に下げることにした。
代わりに空戦魔導師は全力出撃。なのははもちろんのこと、フェイト、シグナム、ヴィータはF-22を先頭に編隊を組んで、敵編隊に向かっ
ていた。
――美人がこんなに揃うとは、壮観だな。
思考の片隅でのんびりした考えを持ちながら、メビウス1は司令室のはやてと交信。

「目標は警告を無視するどころか友軍の空戦魔導師を撃墜。攻撃するには充分すぎる理由や、交戦を許可」
「了解、ロングアーチ……さて、どうするかな」

無人機が相手なら何も容赦することはあるまい。だが数で劣勢なのは明らかだ。
――この中で一番速いのは俺だな。なら、真っ先に突っ込んでかき回すか。
納得のいく結論を得たメビウス1は、対戦闘機戦において六課でもっとも経験のある者として指示を下す。

「よし、まず俺が突っ込んでかき回す。スターズ1は遠距離から砲撃して敵をかく乱」
「スターズ1、了解」
「スターズ2、ライトニング1及び2は敵がバラけたら突っ込め」
「スターズ2、了解だ」
「ライトニング1、了解しました」
「ライトニング2、心得た」

準備は整った。メビウス1はエンジン・スロットルレバーを叩き込んで、アフターバーナーを点火。なのはたちは作戦通りに動くはずだ。
F119エンジンの咆哮はF-22を一気に加速させ、音の壁すら越える。
上昇、メビウス1は敵機の編隊の上空に位置すると、今度は敵編隊に向かって急降下。ステルス機ゆえレーダーに捕まることはない。

「メビウス1、交戦」

ウエポン・システムをオンにするとデジタル化の進んだ計器に兵装が表示される。その中からレーダー誘導の中距離空対空ミサイル、AIM-
120を選択。APG-77レーダーは敵編隊二〇機から任意の目標を四機選び、ロックオン。

「――フォックス3」
胴体下ウエポン・ベイからAIM-120が四発、発射される。敵編隊はロックオンされたことに気づき、即座に回避機動。
ミサイルが命中するまでの時間がもどかしく感じるが、焦ってはいけない。メビウス1はそれを経験から知っていた。

「……スプラッシュ4、次」

キャノピーの向こうでかすかに見えた四つの閃光。しかし彼は四機同時撃墜の戦果に酔いしれることなく、F-22を敵編隊に突っ込ませる。
突然攻撃を受けた敵機たちだったが、編隊を組みなおすと果敢にもメビウス1のF-22と正面から対峙。

「あれは……F-15か」

視認距離に入るなり、メビウス1は素早く敵機の正体を読む。
もう新鋭機とは呼べないが、優れた電子装備に図体の割りに高い機動性と制空戦闘機として申し分ない性能を持つ。
赤外線誘導のミサイルにロックオンされるのを防ぐため、メビウス1はあらかじめフレア――マグネシウムの塊で、燃えると大量の赤外線を
放つ――をばら撒き、F-15Cの編隊に接近。敵機も同じことを見越して、フレアをばら撒きながら近づいてくる。

「!」

一六機にも及ぶF-15Cが一斉に機関砲弾を撃ち込んで来た。咄嗟にメビウス1は機体を滑るように降下させて弾丸の猛攻を回避。
―機関砲に関しては、純粋に機動で回避するしかないからな。よく分かってる。
感心しつつ、F-15Cの編隊とすれ違う。F-15Cは編隊を解いて二機ずつ分かれると、各々別の方向からメビウス1のF-22を狙う。
多いな、だがそれでも――。
後方に回り込みつつある敵機の編隊を注意深く観察して、ここぞと言うタイミングで機体を右に回転、と見せかけて左にロール。
急激な機動の変化に振り回されるF-15Cの編隊の後方に回り込み、兵装をAIM-9、赤外線誘導ミサイルに。

「フォックス2」

AIM-9の弾頭は簡単にF-15Cのエンジン熱を捉える。メビウス1はAIM-9を発射すると同時にさらに後方から接近してくる敵機を発見、急上
昇で離脱を図る。
AIM-9はまっすぐ獲物に食らいつき、爆発。爆風と破片がF-15Cに襲い掛かり、尾翼をもぎ取る。これで撃墜五機目。

「しつこいな」

撃墜を確認しつつも、後方から迫るF-15Cの二機にメビウス1はあからさまに苛立つ。と、その時真正面から高速で別の編隊が突撃を仕掛
けてきた。こいつを利用する他ない。
来い、来い、来い――今だ!
ミサイルの射程ぎりぎりまで引きつけ、メビウス1はF-22を降下させた。
突然急降下した目標を追う後方のF-15Cは正面から突っ込んできた味方であるはずのF-15Cにその進路を妨害される。空中衝突を避けるため
速度を落としたが、その隙にF-22は上昇して反転、今まで自分を追い回していたF-15Cの後ろにつく。
距離は――近い、機関砲でやろう。
即座に兵装をM61A2二〇ミリ機関砲に切り替え、急降下ですれ違う瞬間に引き金を引く。発射された弾丸はわずかだったが、的確にF-15Cの
エンジン部を貫いていた。直後、F-15Cは爆発、炎上。六機目だった。
文字通り疾風怒涛の攻撃で、F-15Cの編隊は混乱。我を忘れてどれもがF-22を追い掛け回すばかりだった。そしてそれこそがメビウス1の
狙いだった。
四機ほどが束になって追いかけてくるところに、はるか上空から桜色の閃光が走る。
なのはの砲撃、ディバインバスター。四機のF-15Cはいずれも桜色の光に飲み込まれ、空中で蒸発する。

「四機撃墜――メビウスさん、大丈夫ですか!?」
「絶好調さ」

敵編隊はこれで半分が撃墜された。まだ律儀に編隊を保持しているのもいるが、おおむねは崩れている。

「よし――今ので敵編隊は乱れた。各員、あとは好きにやれ」
「了解、待ってましたよ」

上空から、フェイトを先頭に六課の空戦魔導師たちが逆落としに突っ込んでくる。

「プラズマランサー……シュート!」

フェイトは自身の周囲に鋭利な弾体を浮かび上がらせると、バルデッィシュを振るって発射。妨害を受けることなく充分な時間を持って発
射されたため、弾数は多数に及ぶ。不運にもこれに狙われたF-15Cは自慢の上昇力で逃れようとするも間に合わず被弾。一度だけ小規模な
爆発を起こし、炎上したかと思うと次の瞬間四散した。
他のF-15Cが仇討ちと言わんばかりにフェイトに接近、ミサイルを叩き込もうとして突如、正面に現れた小さな人影が繰り出した鉄球をも
ろに浴びて粉砕される。

「前方不注意だ、よく見てろ」

人影の正体はグラーフアイゼンを担いだヴィータ。不敵な笑みを浮かべてバラバラになっていくF-15Cを見ていた彼女に、突如赤い曳光弾
が浴びせられる。

「うおっと」

寸前で気づいたため、回避成功。仕返しのシュヴァルベフリーゲンを撃ち込もうとするが、すでに敵機ははるか遠くだった。
歯がゆい思いで敵機を見つめていたが、突然その敵機が真っ二つにされる。やったのはシグナムだった。

「お前も周りをよく見ることだ」
「うるせぇ」

残り七機。普通なら撤退してもいいころだが、無人機ゆえ撤退と言う判断は持たないらしい。編隊を崩してなお、F-15Cは攻撃を仕掛けて
くる。

「しょうがないなぁ……メビウスさん」
「ああ、相手してやろう」

互いに不敵な笑みを浮かべ、敵機に挑む。
なのは、カートリッジを一つリロードしてチャージを開始。その隙に攻撃しようとしてくる複数のF-15Cにメビウス1のF-22が機関砲弾を
ばら撒いて牽制。

「エクセリオン――バスター!」

レイジングハートより、桜色の渦が放たれる。F-15Cは上昇、降下、旋回と各々回避機動を取るが誘導機能を持ったエクセリオンバスター
は一機たりとも逃さない。渦に飲み込まれたF-15Cはその全てが蒸発した。
――いやはや、なんとも凄まじい火力だ。
なのはが味方であることにひっそりと安心しながら、メビウス1はレーダー画面を確認。二〇機の敵編隊は、もはや存在しなかった。

「こちらメビウス1―敵機は全て撃墜。繰り返す、敵機は全て撃墜した。最高のダンスだったよ」

ロングアーチ、司令室のはやてに結果報告。ところが、返ってきた言葉は祝福や労いではなかった。代わりにやってきたのは警告。

「こちらロングアーチ、あいにくやけど敵の増援が接近中や。数は一機、マッハ2で高速接近中」
「一機だけ……?」

メビウス1は眉をひそめた。二〇機ものF-15Cを瞬く間に全滅させたこちらに、たった一機で挑むとは正気とは思えない。

「……こっちでも補足した、様子がおかしい」

索敵モードに切り替えると、APG-77レーダーが接近してくる機影を捉えた。ただ一機、迷うことなくこちらに突っ込んでくる。
――なんだ、こいつは。
言い知れぬ不安が彼の胸のうちを支配していく。戦闘機乗りとしての本能がどこかで叫んでいる。
"こいつはヤバイ"と。

「なんでもいい、あたしが落としてやる!」
「待て、ヴィータ」

メビウス1の警告を無視して、ヴィータはグラーフアイゼンを構えて敵機を迎撃すべく前に出る。
その直後―雲の向こうから、待ち構えていたように複数の白煙が飛び出してきた。白煙は六つ、その正体はどれもミサイルだ。それらが連
なって、前に出たヴィータに襲い掛かる。

「何……くそ!」

音速を超えるミサイルの群れ。ヴィータは咄嗟にシュワルベフリーゲンで撃墜しようとするが、間に合わなかった。
悲鳴すら上がらなかった。六発のミサイルはほとんど同時にヴィータの小さな身体に着弾。爆風と破片が空中に舞う。
爆炎が収まると、騎士甲冑がボロボロになったヴィータが現れ―力尽きたようにグラーフアイゼンを手放し、落ちていった。

「ヴィータ!」

シグナムが悲鳴のような叫び声をあげ、落ちるヴィータに向かっていく。

「ロングアーチ、スターズ2がやられた!ライトニング2が救助に向かってる!」
「了か……え?」
「ヴィータがやられたんだよ! ……敵機を迎撃する、みんな下がってろ」

ロングアーチとの交信を無理やり終わらせ、メビウス1はF-22を加速させる。
司令室で、家族が突然撃墜されたことで呆然としているはやてが目に浮かんだが、今は敵機の方が優先だ。

「メビウスさん……!」
「下がれ、ハラオウン。こいつは只者じゃない」
「でも……」
「高町もだ」

二人を置いてけぼりにして、メビウス1はレーダー画面に映る敵機との距離を縮める。
視認距離に入った。もう見えるはず――!
キャノピーの向こう、瞬きすれば見失いかねないような小さな黒点をメビウス1は見つけた。
敵機もこちらを発見したのか、まっすぐこちらに接近。距離が近づくにつれ、シルエットがはっきりしてきた。

「Su-27……いや、カナード翼がある。Su-37か!」

機動性に関してはF-15Cを上回る戦闘機の出現。だが、それ以上に彼を驚愕させたのはSu-37に施されたペイントだった。
――嘘だろ。
互いに撃たれまいと角度をつけながら正面から接近、そしてすれ違う。その瞬間、確かにメビウス1は目撃した。Su-37の主翼の先端が黄
色で塗装され、何より機首に黄色で「13」と描かれていた。

「なんでだよ……なんであんたがここにいる」

操縦桿とエンジン・スロットルレバーを握る腕が震えだした。間違いなく、あれは幾度も対峙した相手。

「――黄色の13!」



――運命の敵機、"黄色の13"出現。



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最終更新:2009年02月21日 14:34