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朝、まだ日が登りかけな時間帯に私はエプロンを外す。
たった今ふたり分の朝食を作り終えたところだった。
……昨日、エッチを、したのだけれども、今日は実家に帰る日だってこと、すっかり忘れていた。
なんと言われるだろう? いや、隠し通せるだろうか。付き合っていることは、告げる予定だ。その後、追求されない様に頑張らなければ、いけない。
そんな事を想像しつつ、お皿を机に運ぶ。
「はい、朝ごはん」
「お、おう。ありがとな」
悠希も、やっぱり緊張しているのかさっきから言葉がおぼつかなかった。
なるべく……昨日のことには触れないようにしようと思った。
……恥ずかしいし。
悠希はお皿を見て、
「オムライス、か」
「うん」
言った。つい最近作った気がしないでもないけれど、悠希が好きだと言ってくれた料理だし、わざとだ。
絶対に悠希は、ある言葉を言う。
「あ、ケチャップ、取ってくれ」
そらきた。予想通りだ。私たちの関係は、付き合い始めたからといって、そう変わるものではなかった。あの後恵奈ちゃんに連絡を入れたけれど、言われたのは「そもそも、付き合ってるみたいだったよ」って言葉だった。なんだか、そういうふうに見えていたのにも関わらず気付かずにいたことが情けない。
「ねえ、悠希」
「ん?」
ケチャップを渡さずに、言う。勿論、策略通りの行動である。
恵奈ちゃん直伝の、少し上目遣いとやらを試しつつ、
「――なんて、書いて、ほしい?」
そう言った。悠希はポカーンとしていて、続けざまに訊く。
「ほら、ケチャップで、さ」
「へ? ……え?」
何時まで経ってもその顔は治りそうになかった。ただ、理解はしたようで。顔が紅潮していくさまが見て取れた。
仕方がないから、あらかじめ考えていた文字をケチャップで書き入れる。
「よいしょ……これで、よし……」
「あの、さ、え……実奈?」
悠希の言葉に、「うん?」と返す。
「俺からも、ありがとう、な」
悠希の見下ろすオムライスには『ありがとう、幸せだよ』と、記されていた。
最終更新:2011年01月17日 23:41