「こんな──こんなことって──」
朝、目が覚めたときの違和感の正体は、洗面台に立ったときにわかった。
洗面台の鏡の中に映る姿は、まぎれもなく、俺──のはずなのだが、昨日までの姿とは似ても似つかない美少女の姿だった。
「これは──まだ夢を見てるんだ、きっと。もう一度目覚めれば──」
そう自分に言い聞かせてベッドに戻り、しばし目を閉じて、おそるおそる起きあがる。
はたして──自分の体が、やはり女のままになっている事にはあえて気づかないふりをして、学校の制服に着替え、登校することにした。
登校途中の電車の中で、なぜか胸やおしりのあたりでもぞもぞとする気配もあったが、男であるはずの俺に痴漢なんか無縁だと思いこむことでやり過ごした。
教室では男のクラスメイトがなぜか付き合ってくれと告白してきたり、今まではほとんど声を交わしたことのないような女子が、やたらと馴れ馴れしく話しかけてきたりしたが、急にホモが増えたり、いきなりモテるようになったのだと思う事にした。
ついには担任まで、今度から女子の制服を着てくるようにとまで言い出した。
──俺は男なのに──
ついには身の回りの誰もが信じられなくなり、精神科の門を叩くようになった。
そこで言われたのは…女体化症候群と言われる症状だった。
治療法はないらしい。
その日から、自分の部屋を出ることが出来なくなった。
最終更新:2008年07月21日 03:18