安価『詐欺師』

親に捨てられ、身寄りも無く、施設で育てられた赤ん坊。
貧しい生活で満足にご飯も食べられず、寂しい生活を強いられた少年。
―――それが、あたし。

施設を出て既に15年が経ち、日々を騙して生きている。
人よりも飛び抜けて良くなった顔つきと、巧みな話術、そして幾つもの名前があたしの仕事道具だった。

「いちにーさんしー…はち!」

仄暗く狭い部屋に寝転がり、手帳に記された数字の羅列をなぞる。
遂に目標としていた桁に達したそれは、夢への貯え。
私は近々、この古いアパートを出る。


~~~数年後~~~


小さな一軒屋が今のあたしの家。
共に暮らすあたしの子供達は、騒がしく、笑顔を絶やさない。
彼等に『お母さん』そう呼ばれるのにも慣れ、あたしは今日も、鍋を振るう。

「さて…今日は何を作ろうかな…」

見慣れた自分の顔。
それでも誰かの幸せを願って出る笑顔は、若い頃の笑顔より数倍綺麗に見えた。
人は騙すより、信じる事で輝くのかも知れない。


おわり


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最終更新:2008年07月21日 21:28
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