安価『スク水』

俺はいつのも砂浜に立っていた。
毎日欠かさず通っているこの砂浜とも、あと少しでしばしのお別れとなる。
遠くに見える船を眺めながら、しっかりとこの景色を目に焼き付けておく。
写真とかそういう類のものを持ち歩くのは俺の性分に合わない。
だからこうして頭の中に記憶しておく。絶対に忘れぬよう、ずっとその景色を眺めていた。
あの人と出会ってから、半年が経っていた。
「旅に出たら?」と言われてから、俺は親に相談し、ようやく明日より旅に出ることになった。

半年前、俺は女体化した。
女体化した晩は泣いた。涙が枯れるまで泣いた。
夢が絶たれ、希望も失い、生きる術が無くなっていた。
ただ漠然と毎日を過ごしていた俺であったが、毎日欠かさずこの砂浜に立ち寄っている。
雨が降ろうが、強い風が吹こうが、絶対にここには来る。
そしてあの人との出会い・・・
「ここの海とも、しばしのお別れか・・・」
俺は目を細めながら夕焼けに染まる海を見ていた。
真っ赤に燃える太陽が、遠く霞んで見える地平線に沈んでいく。
沈むというより飲み込まれるといったほうがいいのだろうか。
無限に広がる大海原に、飲み込まれていくようにも見えた。

「それじゃ、最後に・・・!」
太陽もほとんど見えなくなる頃、俺は勢いよく服を脱ぎだす。
服の下には水着が装着済み。しかも学校指定のスクール水着だ。
季節は冬に近い。季節外れの砂浜に、スク水一枚という格好でいるのは馬鹿だとしか言いようがない。
だが俺はそんなのお構いなしに、海に飛び込む。
冷たいはずの海が、なんだか温かく感じた。すごく心地よい気分になる。
口に飛び込む海水は、いつもよりしょっぱく感じた。

俺の旅は・・・明日から始まるのだ・・・


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最終更新:2008年08月02日 16:08
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