Rosy Runnersープロローグ

  • 作者 314氏

陸上部に所属している俺は大会を明日に控えていた。
最もうちの学校で注目されているのは俺達男子じゃないだけに気楽なものだが。
「エレナ先輩、12秒2!」
……それにしても相変わらず速いな。
100mで県代表選手となり全国にも顔を出す選手となったこいつが、女子キャプテンの葉月エレナ。俺の幼なじみである。
小さい頃から何かと競争してきた俺たちであったが、戦績はエレナの方がいい。
負けず嫌いで強気、それに努力家な性格もその一因だろう。
「ちょっとあんた、何ボサッと突っ立ってんのよ」
おっと、練習の邪魔だったか……?
「何ボサッと突っ立ってんのよって聞いてるの!用がないなら早くどきなさいよ!」
「すまん、ちょっと考え事だ」
「練習中に考え事なんてあんたずいぶん余裕なのね。明日、期待してるわよ」
結構怒ってるみたいだ。まあ試合前日だしピリピリしていても当然か。
「大体あんた昨日も全然タイムよくなかったじゃない。調整できてるの?あんたの場合は明日も練習と同じようなタイムじゃだめなのよ?」
「分かってるよ。俺なりに調整するさ」
「あんたの調整ってのは信用できないわ。あんた調整するって言っていっつも練習しすぎるじゃない。分かってるの?調子が出ないならダウンしてさっさと帰りなさい」
「そうだな……たまにはお前の言うことも聞くことにするか。先帰らせてもらうわ」
「……そう。気をつけなさいよ。帰りに事故に遭ったりしたら意味ないんだからね!」
「分かってるよ。じゃ、また明日な」
「あ、それと!明日……」
「ん?悪い。聞こえなかったわ」
「あぁもう!明日はちゃんとあたしのこと応援しなさいよね!あたしもあんたのこと一生懸命応援するから!」
「任せとけって。お前の応援欠かしたことなんてなかっただろ?」
「それは……そうだけど……。そんなことはいいの!じゃあまた明日ね!」

風のように走り去ったエレナの後ろ姿を見送りつつ帰路についた俺は、今日も教室のロッカーに寄って帰る。
いつものタオルと試合前日に必ずある小さな封筒を取りに。

タオルと封筒をロッカーから取り出し、更衣室に向かう。
もう2年近く続いている風習だ。こういう几帳面なところは真似できない。
俺がエレナに勝っていること……いざ考えてみると浮かばない。困ったもんだ。
風習通り、封筒の中には今時の学生には似つかわしくない整った文字で書かれた手紙が入っている。
内容もいつも通りだ。初めての試合の時にもらった手紙と見比べてもそう変わらないだろう。
心なしか文字が柔らかくなったように思えるが、それは俺の心境の変化なのだろうか。
「こんなところで回想モードに入ったら明日棄権じゃねえか…」
荷物をまとめて更衣室を出る。
「あんた、何やってんの?更衣室で寝てたりしたんじゃないでしょうね…」
先に帰ると言いながら、結局エレナと同じ時間帯に帰ることになってしまった。

試合当日。天気は曇りだ。中距離を走る俺にとっては都合がいい。
何となく涼しいのが好きなだけだが。
エレナは……どんな天気でも結果を残すだろう。俺には有り得ないことだが。

「調子はどう?」
「それなりかな」
早く帰ったのにも関わらずいつも通りの睡眠時間だったなんて今は言えない。
「そう。なら今日は記録が期待できそうね。あんたにとっては最高のコンディションだし」
「だといいんだがな。実際そううまくいくかどうかは分からん」
「練習は裏切らないのよ。うまくいくかどうかは分からん、なんてあんた自分で練習してないって言ってるようなものじゃない」
相変わらず気合入ってるな、エレナは。いつものことだが。
「そういうエレナはどうなんだ?」
「あたし?あたしはもちろん大丈夫よ。ちゃんと練習してきたんだから」
なんとか話題を逸らすことに成功したみたいだ。
「まぁあんたもせいぜい頑張りなさいよ。練習は裏切らないのよ、練・習・は」
どうやら話題を逸らすことに失敗したみたいだ。

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最終更新:2010年02月12日 16:39