7スレ766

  • 作者 7スレ766氏

 その少女はかわいいとかキレイとかそんな表現じゃ伝わらない、伝えられないほどの顔の持ち主で、どこかの
有名な彫刻家もしくは画家が作り出したんではないかと疑ってしまう。まだ5月にも関わらず、その少女を見
たいがために頭の上で太陽が輝いている。燦々と彼女に降り注ぐ光は、まるで舞台に立つ女優とそれを引き立た
せるスポットライトのようだ。
 「……夏でもないのにこの暑さは何かしら?」
 太陽の猛烈なアタックは嫌われているようだ。なぜなら彼女の隣には
 「これが俗にいう温暖化現象ってヤツでーす。温暖化ばんざーい」
 うちわをパタパタと扇ぐ彼氏がいるからだ。
 「……温暖化ねぇ」
 退屈そうに呟く彼女の唇は真っ赤に熟れてとても艶かしく、雪原の大地のような肌に滴る汗さえ真珠のように
光輝いている。
 「温暖化だからオレがこうして扇いでるんでしょー?交代プリーズ」
 「暑さで疲れている彼女に扇いでもらうの?貴方って鬼畜なのね」
 「いやー、正直オレもけっこー辛いですよ。ってか、さっきから独りで涼むとかセコイって」
 縁側に座り、たらいに張った水スラリと細長い脚をに浸けるその季節はずれな光景は、名画からそのまま切り
取ったように思えるほど。
 「私は暑さに弱いの。貴方と違って」
 静かで透き通る声と冷たいセリフは彼の心を決して傷つけない。今まで数多くの男を切り捨てていたった彼女
が唯一心を許せる男性。その証に彼女は安心して母の胸の中で眠る赤ちゃんのように、反対に煌びやかな女性の
上品な笑み。その笑顔を見られるのは伊織だけだ。少年はそれを知っている。
 「しょーがないのぅ。暑さに弱い葵ちゃんのためにアイスを持ってきてしんぜよう」
 どこか芝居がかった口調は葵の笑顔を見たいから。日頃の決しておもしろいとは言えない冗談も葵のためであ
り、他の者が笑わなくても十分。1000人の笑顔より愛する彼女の笑みが見たい。それだけ。
 「お待たせしました女王様。ささっ、こちらが例の品です。どうぞお納めください」
 「うむ。でかしたな」
 お互いに良く解らないまま演じる。まるで客席が空白の演劇。舞台には役者2人にそれを包む太陽のスポットラ
イト。それはとても自己満足の世界だが、彼らにはとても心地よい世界になる。
 「……食べないの?」
 「あら、女王に苦労させるつもり?………………察しなさいよバカ」
 朱に染まる頬は太陽のせいか。伊織は黙ってアイスを葵の口元に寄せ
 「あむ…………冷たい」
 「いかがですか女王様?」
 「1口の量が少なすぎ。貴方の目には私が小動物に見えてるのかしら」
 「失礼しました。ただ……小動物のように愛おしいとは思っています」
 口の中と心は甘くなってしまった。ただ心は口内と違って熱い。
 「ごっ、ご託はいいから速くアイスを……」
 「はーい。次は……口移しでどうでしょうか、葵さま?」
 「ふえええええええええええええっ!?かかか、か、からかうな!…………んっ……ふぅ……はん」
 いきなりの口付けはとてもヒンヤリと冷たく甘いのに、少女の身体と頭は熱くなる。甘い雰囲気にクラクラし、
まるで雲の上を歩いてるかのようふわふわする。
 「おかわり……もっと…………ちょうだい?」
 アイスが無くなっても2人の口移しは止まることなく、ずっと繰り返された。
 まだ5月。夏本番には冷凍庫の中がアイスで一杯になるだろう。

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最終更新:2010年04月16日 00:49