レオンの日常

 クローリカ「最近、レオンさんとビシュナルくんがお城でないしょ話してるんです。」

・ビシュナルの部屋にて

ビシュナル「すみません、レオンさん。例の本の話なんですけど……。」
ビシュナル「やっぱり僕には心当たりがないですね……。」
レオン「……そうか。」
ビシュナル「でも、キールくんなら、何か知ってるかもしれませんよ?」
ビシュナル「ああ見えて、けっこう勉強熱心ですから。」
レオン「ああ、なるほど。」
レオン「ということは、普段はあまり、勉強熱心には見えてないんだな。」
ビシュナル「ええ!?」

ビシュナル「例の本の話ですが……。」
ビシュナル「とにかくまず、キールくんに話を聞いてみたらいいと思いますよ。」
レオン「そうだな。意外に勉強熱心なようだし。」
ビシュナル「いや、だからそれは、言葉のあやというやつで……。」

 キール「レオンさんってかぁっこいいよね。」
 キール「どうしたらレオンさんみたいになれるかな?」

・翌日 飛行船通りにて

キール「ねえ、レオンさん。」
キール「どうしたら、レオンさんみたいになれるかな?」
レオン「そう思ってるうちは、たぶんなれないんじゃないか?」
キール「そうなんだ……。」
キール「じゃあ、ボクも胸とかはだけさせてみようかな……。」
レオン「…………。」
レオン「それはいいかもな。」
キール「ホントに!?」
レオン「機会があったらやってみるといい。……姉の顔が見物だ。」
キール「お姉ちゃん?」
レオン「それより、以前話した本の話はどうなった?」
キール「あ、うん。それなら……。」

キール「レオンさん。この前の本の話なんだけど……。」
キール「もしかして、かなり昔の言葉で書かれてたりしない?」
レオン「ああ。そうだが……。」
レオン「読んだことがあるのか?」
キール「うん。たぶん。」
キール「家の中を探せば出てくると思うけど、探してこようか?」
レオン「そうだな。あると助かる。」
キール「うん♪」

 レオン「キールは頼れるな。」
 レオン「それでいて素直だ。」
 レオン「……姉とは違ってな。」

 キール「帰ったらレオンさんに頼まれた本を探してみよう。」
 キール「たしか『幸福のレシピ』って名前の本だったかな?」

・翌日 住宅街にて

ダグ「フザけんナ!」
ダグ「お前が急に出てくるからオレのアイスが落ちちまっただロ!」
ディラス「お前がよそ見してたからだろう?ぶつかってきたのはお前だ。」
ダグ「なんだと、このウマ野郎ガ!」
ディラス「何ィ!?このバカドワーフ!」
レオン「『相手の言葉で語りましょう』」
ダグ・ディラス「……は?」
レオン「『私は自分の心を取り出して、目の前のお皿にのせてみました』
『ただじっとながめてみてから、相手の心も並べてみて』
『それから、言い争いを適量、おたがいの本音を少々』
『すると、不思議なことに、私たちは笑顔になっていました』」
ダグ「……なんの話だヨ。」
レオン「幸福な夫婦は、そうやって仲直りしていたらしい。」
ダグ「はア?」
レオン「この本にそう書いてある。」
ディラス「…………。」  ディラスOUT
ダグ「……なんだかオレも白けちまったゼ。」 ダグOUT
レオン「これが幸せか……。」
レオン「なるほど。興味深いな。」

 レオン「『幸福のレシピ』か。」
 レオン「幸せな夫婦から学ぶ、仲直りの方法ってところだな。」
 ・ステキな話ですね 
 レオン「ああ。」
 レオン「よく考えてみると、単なるノロケ話だけどな。」
 フレイ「えっと……。」

 ・単なるノロケ話ですね 
 レオン「…………。」
 レオン「……そうだな。」
 フレイ(なんでちょっと残念そうなんだろう……?)

 ダグ「レオンの考えてる事、オレにはサッパリわかんねーヨ。」
 ダグ「いっつも難しい事考えてんのかナ?」

 ディラス「レオンは何してんだ……。まあ、別に関係ないけどよ。」
 ディラス「……関係ないけど、今度、聞いてみるかな。」

・翌日 広場にて

フォルテ「レオンさん。少しお話があるのですが。」
レオン「そうか。」 通り過ぎる
フォルテ「ちょ、ちょっと!?なぜ素通りするのですか!?」
レオン「止まってくれとは言われなかったからな。」
フォルテ「ぐ……!」
レオン「それで?何の用なんだ?」
フォルテ「…………。」
フォルテ「……では、手短に。」
フォルテ「最近、よくキールとお話をしていらっしゃるそうですが、」
フォルテ「弟に、あまり変なことを、教えないでいただけますか?」
フォルテ「今朝なんて、あなたのマネをして、胸元をはだけさせていましたし……。」
レオン「アイツ、ホントにやったのか?」
フォルテ「なに楽しそうに笑ってるんですか!」
フォルテ「他にふしだらなことは?吹き込んでないでしょうね!?」
レオン「たとえば?」
フォルテ「そ、それは……。」

レオン「俺がキールに、何を教えてるって?」
フォルテ「だからそれは、なんというか、女性のあしらい方などを……。」
レオン「なんだ?声が小さいぞ。」
フォルテ「う……。だ、だからだな……!」
レオン「俺としては、何も知らない方がよっぽど不健全だと思うけどな。」
フォルテ「そ、それはそうかもしれないが……。」
フォルテ「って、聞こえてるんじゃないか!」
レオン「声が小さいと言っただけで、聞こえてないとは言ってないだろ?」
フォルテ「き、貴様……!」
レオンOUT

 フォルテ「……ダメだ。理解できない……。」
 フォルテ「どうしてキールは、あんな男にあこがれてるんだ……?」

 レオン「あの騎士の女。」
 レオン「最初会ったときは、堅苦しくて、つまらないヤツだと思ったが、」
 レオン「まさか、こんなにもからかいがいのあるヤツだったとはな。」

 キール「今朝、レオンさんのマネして胸をはだけさせてみたんだけど……。」
 キール「お姉ちゃんが顔を真っ赤にして『すぐにやめるんだ!」なんて言うんだ。」
 キール「……はだけかたが悪かったのかな?」

・翌日 旅館前にて

リンファ「あ、レオンさん!」
レオン「はい。」
リンファ「アーサーさんの所に行かれるんですか?」
レオン「ええ。そのつもりですが。」
リンファ「それなら、ついでにおつかいをお願いしてもいいですか?」
リンファ「この紙をアーサーさんに渡してもらいたいんですが……。」
レオン「かまいませんよ。」
リンファ「まあ。ありがとう。」
リンファ「では……はい、これ。よろしくお願いしますね。」
レオン「分かりました。」
レオン アーサー宅へ

 レオン「ぶしゅんっ!」
 レオン「……なんだ、誰かウワサでもしてんのか?」

 リンファ「レオンさんって、とても親切なんですよ。」
 リンファ「みんなの頼れるお兄さん、って感じですね。」


ヴィヴィアージュ邸にて
レオン「おい。ちょっといいか。」
アーサー「ああ、レオンさん。例の古文書の件ですか?」
レオン「その前に、これをリンファさんからたのまれた。」
アーサー「発注表ですね。取りに行く手間が省けて助かります。」
アーサー「でも、おつかいですか。……ふふ。」
レオン「何がおかしい?」
アーサー「いえ、おかしいというか。」
アーサー「あなたも、ずいぶんこの町になじんできたみたいだなって。」
レオン「……人間は、順応する生き物だからな。」
アーサー「そういうことにしておきましょうか。」
レオン「…………。」
アーサー「それで、古文書の件は?」
レオン「ホンヤクはできたが、あまり意味はなかったみたいだな。」
アーサー「どういうことですか?」
レオン「つまり――」
レオン「頼まれた本は、かなり有名な本だったようだ。」
レオン「原本の複製品で、しかも、訳された本が現代にも出回ってたよ。」
アーサー「本のタイトルは?」
レオン「『幸福のレシピ』だ。」
アーサー「ああ。それなら私も読んだことがあります。」
アーサー「あのお話、そんな昔からあったんですね……。」
レオン「少なくとも、俺の時代よりも前の話だろうな。」
アーサー「おや。それはどうして?」
レオン「俺の時代でも、普通に使われてたのは今のセルフィアの文字と同じだ。」
レオン「つまり、ホンヤクの必要などない。」
レオン「だが、この本に使われてたのは、それより古代の国の文字。」
レオン「だから、この本は相当古い時代のものだろう。」
アーサー「なるほど……。」
レオン「しかし、この話。俺は初めて読んだが……、」
レオン「なかなか面白かったぞ。」
アーサー「そうですか。」
アーサー「楽しいお仕事になったようで、なによりです。」
アーサー「よろしければ、その本もあなたに差し上げますよ。」
レオン「いいのか?」
アーサー「どこぞの貴族の屋敷でほこりをかぶるよりは、よほどいい。」
レオン「……そうか。」
アーサー「それと、これが今回の代金です。」
レオン「…………。」
レオン「毎回思うんだが、こんなにもらってもいいのか?」
アーサー「それだけ大変なことなんですよ。ホンヤクという仕事は。」
レオン「ホンヤクか……。」
レオン「俺の時代には、まだ一部で使われてる文字だったんだがな。」
レオン「この本だって、あの時代なら、子供でも読めたかもしれない。」
アーサー「でも、今の時代では、ほとんどの人が読めません。」
レオン「……らしいな。」
レオン「つくづく、実感するよ。」
レオン「もう、あの頃のものは、ほとんど残ってないんだな……。」
アーサー「…………。」

レオン「俺たちがいま使ってる文字も、いつか使われなくなるのかもな。」
アーサー「可能性はあるでしょうね。」
アーサー「いまこの瞬間にも、ひっそりと忘れられていく文字があるのかも。」
レオン「俺の仕事は、そいつらをたたき起こすことか?」
アーサー「あるいは、彼らがここに在ったことを覚えていてあげることです。」
レオン「なるほど……。」
レオン「忘れられるのは、誰だってさみしいだろうからな。」
アーサー「レオンさん……。」
レオンOUT

 レオン「忘れられるのはさみしいだろう」
 レオン「だが逆に、覚えているほうはどうなんだろうな。」

 アーサー「レオンさんには、よくお仕事をたのんでるんですが、」
 アーサー「頭の回転も早いですし、気もよく回るかたなので助かります。」

ヴィヴィアージュ邸前にて

キール「あ、レオンさん。」
レオン「キールか。」
レオン「そういえば、お前のおかげで、仕事の手間がちょっとはぶけた。」
レオン「ありがとう。」
キール「どういたしまして。」
レオン「そうだ。」
レオン「手伝ってくれた礼に、この原本のレプリカをくれてやろう。」
キール「いいの?」
レオン「単なる複製品だしな。」
レオン「俺にもアーサーにも、もうあまり価値のないものだ。」
キール「やったあ!」
キール「……あ、そうだ。その前に聞きたいことがあったんだけど。」
レオン「なんだ?」
キール「この原文って、レオンさんの国の言葉だよね?」
レオン「ああ。それも、古い古い言葉だよ。」
レオン「俺の時代でも、普通の文章に、こんな文字は使われてなかった。」
キール「ああ。だからなんだね。」
レオン「何がだ?」
キール「『相手の言葉で語りましょう』って、おかしな表現だと思ってたから。」
レオン「……?」
キール「相手の言葉を聞いてから、自分の意見を言おうって話なら、」
キール「『相手の言葉を聞きましょう』って言われたほうがしっくりくるでしょ?」
レオン「……確かにな。」
キール「だからね、これは作者の宣言なんじゃないかな。」
キール「『私が、相手の言葉で語りましょう』って。」
キール「その宣言通り、この作者は、『相手の言葉で語ってみた』んだ。」
キール「その時代でも普通には使われてない、古い古い言葉で、」
キール「きっと、その言葉を使うことのできる誰かに向けて。」
キール「あなたが今、この文章に耳をかたむけているみたいに、」
キール「相手の言葉に、耳をかたむけてくださいって。」
キール「そうしたら、きっと伝わるものがあるからって。」
キール「ね? この本にピッタリのメッセージだと思わない?」
レオン「…………。」
キール「この人は、あえて昔の文字を使って、それを伝えようとしたんじゃないかな。」
キール「あえて古くなった文字を使って。」
レオン「じゃあ……。」
レオン「……これは、俺の生きていた時代の本なのか?」
キール「うーん……。」
キール「この文字が、どれくらいの時代まで使われてたのかによるけど……。」
キール「そうならステキだなって、ボクは思ったよ。」
キール「その言葉を伝えたかった時代の人に、」
キール「レオンさんに見つけてもらえて、この本は幸せだなあって。」
レオン「…………。」
レオン「……そうか。」
レオン「確かに、そうなら悪くない……。」
キール「……レオンさん?」
レオン「悪い、キール。やっぱりこの本、もらっていいか?」
キール「え?」
キール「いいけど……どうして急に?」
レオン「聞こえた気がしたんだよ。」
レオン「この本の言葉が。」
キール「言葉?」
レオン「忘れないでくれって。」
レオン「どんなに思い出すのがツラくても、」
レオン「自分たちが、確かにその時代にあったことを、」
レオン「……忘れないでくれってさ。」
キール「…………。」
キール「そっか。」
キール「うん。そのほうが、ずっといいよ!」
レオン「ああ。」
レオン「……気づかせてくれて、ありがとうな。」
キール「どういたしまして♪」

 キール「そうだ!」
 キール「古い本のホンヤクが出来る様になったら、レオンさんっぽくなれるかな?」
 キール「今度レオンさんに教えてもらおう♪」

 レオン「そう言えばアンタ……。」
 フレイ「……え?」
 レオン「ずっと後をついてきてたな。」
 フレイ「あっ!ええと、それは……。」
 レオン「ずっと隣にいたかったのか?それならそう言えばいい。」
 レオン「なんなら腕でも組みながら歩くか?」
 フレイ「えっ、ええっ!?」

 

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最終更新:2021年09月22日 16:21
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