無題:4スレ目709

709 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 00:29:50.92 ID:XRxEuGQo [4/14]
「桐乃も、お兄さんも、本気なんですね――?」

すべてを打ち明けた後、妹の親友あやせは、俺達に侮蔑の視線を送りつつ、そう尋ねた。

「ああ、俺達は本気だ――本気で愛し合っているんだ」

俺は、あやせの視線から逃れたい気持ちをぐっと押し殺し、決意の程を伝えるように、真っ向から視線を返した。
親友の顔を直視できない桐乃は、俺の隣でうつむき、かすかに肩を震わせている。

リビングに長い沈黙が訪れた――

710 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 00:30:33.07 ID:XRxEuGQo [5/14]
俺と桐乃との関係が、世間で決して許されることの無い背徳の関係であることは重々承知している。
それでも、心の奥から湧き上がる感情は抑え切れなかった。

互いを兄妹ではなく、異性として意識し始めたのはいつだったのか、先に想いを募らせたのはどちらだったのか、もう今となっては知る由もない。
俺達はいつしか自然に互いを求め、愛し合っていた。
身体を重ねる度に深まっていく情愛の念に比例するように、圧し掛かってくる罪悪感。そして自己嫌悪――
愛してしまった相手がたまたま血の繋がった兄妹だったというだけ――俺は、自らにそう言い聞かせながら心の均衡を保ってきた。

しかし、まだ中学生の桐乃の心には耐えられなかったようだ。
桐乃は、一番の親友であるあやせに対し、俺達の秘密を打ち明け、理解と協力を求めたのだ。

――だが、あやせは桐乃を拒絶した。

あやせの性格を考えれば当然の反応だが、そんな判断もできないぐらい追い詰められていた妹を、どうして責めることができよう。
そして今、あやせはこの件を問い質すべく、我が家のリビングで俺達兄妹と対峙している。

711 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 00:31:21.81 ID:XRxEuGQo [6/14]
沈黙を破ったのは桐乃だった――

「あたしは……あやせに理解者になって欲しかった。でも、そんなこと……無理なんだよね」
「桐乃……」
「ごめんね、あやせ」
「桐乃、謝らないで……謝るぐらいなら、お願いだから正気に戻って」

あやせから見れば、俺達兄妹は正気ではないのだろう。もちろん、その認識に異を唱えることなどできない。

「お兄さんもお兄さんです」

あやせはキッとこちらを睨み付けた。

「桐乃が以前からお兄さんに特別な感情を抱いていたことは、傍から見ていても分かりました。だからといって、あなたまで誤ってしまうなんて……
きちんと一線引くのが兄の取るべき態度じゃないのですか!」

あやせの言い分が全面的に正しいのだから、俺にできることは、この身を刺すような言葉にじっと耐えることだけだった。

また重い空気が漂う――

712 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 00:32:09.16 ID:XRxEuGQo [7/14]
「あ、あたし、お茶入れるね――」

この空気に耐えられなくなったのか、桐乃はキッチンへと向かった。
あやせはずっと俺を睨んでいる。

「このこと、まだご両親はご存じないんですよね?」
「ああ、もちろんだ」
「どうするんですか?もし知られたら家庭崩壊だって考えられますよ?……お兄さんにはそこまでの覚悟があるんですか」
「…………」

俺には何も答えられなかった。
もう桐乃を愛していることを隠すつもりはない。だが現実に、家族や世間体のことを考えれば、俺達の未来は決して明るいものではないだろう。
あやせの瞳は怒りに燃えている。

713 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 00:33:12.54 ID:XRxEuGQo [8/14]
そんな雰囲気を少しでも和らげようとしたのか、桐乃がわざとらしく明るい調子で戻ってきた。

「最近、あたし紅茶にハマっててさー。 あやせはコーヒー派だったっけ?」

桐乃はリンゴとティーポット、電気ケトルを乗せたトレイをテーブルに置き、あやせの隣に座ると
しゃりしゃりとリンゴの皮を剥き始めた。
「本物のアップルティーってりんごの皮で作るんだよ、知ってた?」

この状況で話題を変えるなんて無理だということは、きっと桐乃にも分かっているだろう。
それでも桐乃は明るく努め、俺とあやせの緩衝材になろうとしているようだ。

714 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 00:33:42.64 ID:XRxEuGQo [9/14]
――だが、あやせにとってはそんな桐乃の言動も苛立たしいのか、なにも答えず、忌々しそうに睨み付ける。
そして、テーブルを両手でバンッと叩くと、立ち上がり、ついに激高し叫んだ。

「おかしいでしょ!こんなこと! あなたたちは人の道を外れようとしているのに
 ――何でそんなに普通でいられるの!?」

静かなリビングに響き渡るあやせの声。桐乃はリンゴを剥く手を止め、青ざめている。

「わたしは兄妹で淫らな関係を持っている親友なんてイヤっ! ……桐乃はわたしと親友でいられなくてもいいの?!」
「あ……あやせ……」
「お願い、ちゃんと答えて!桐乃!!」

怒れる親友の姿を目の当たりにし、唇を震わせていたが――しばらくの沈黙の後、桐乃は毅然と答えた。

「アタシは……兄貴のことを愛してる。たとえ親友を失ったとしても、その気持ちは変わらない」

715 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 00:34:30.38 ID:XRxEuGQo [10/14]
あやせは言葉を失い、呆然自失といった様子で立ち尽くしている。
俺はこの期に及んでも、妹のこの真っ直ぐな気持ちが照れくさく感じられ、思わず顔を伏せてしまった。

「ごめん、あやせ……今日はもう帰って」

桐乃が、最愛の親友よりも、俺を選んでくれた。
それは俺にとって喜びであると同時に、桐乃に大きな犠牲を払わせてしまったという、罪の意識を感じさせるものだった。

桐乃の言葉に、しばらく固まっていたあやせだったが――よほどショックだったのだろう、嗚咽を始め、瞳からは涙がぽろぽろとこぼれた。

「うっ……うっ……」
「お、おい、あやせ……」

俺は立ち上がり、あやせに近寄る――

だがその直接、俺は左腕に鋭い痛みを感じた。
あやせがテーブルにあったペティナイフを、俺の左腕に突き立てたのだ。

716 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 00:34:58.10 ID:XRxEuGQo [11/14]
「――っつ!」
「お前が……お前が悪いんだ!お前のせいでわたしの桐乃が!」

涙を流しながら、怒りと悔しさで顔面を紅潮させるあやせ。
俺は痛みに顔をしかめつつ、俺は傷口から流れ出す血液が左腕を染めていくのを感じた。

「あやせ!やめて!」

そんな桐乃の叫びも届かない。あやせは更に俺の喉元辺りを突いてきた。
俺は思わず後ろのソファに倒れ込み、間一髪で切っ先を回避する。

だがこの体勢では、あやせの凶刃からは逃げられない――そう気付いた時、既にあやせは距離を詰め、俺の眼前に迫っていた。
そしてナイフを逆手に持ち替え、腕を振り上げる。

や、やめろ――!

717 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 00:35:29.60 ID:XRxEuGQo [12/14]
だが、次の瞬間、部屋にはあやせの悲鳴が響いた。
俺を守るため、桐乃が咄嗟に熱湯の入ったケトルを投げつけたのだ。

「きゃあああああ!! 熱いいいっ! 痛いいいい!!」
「お、おいっ!あやせ!」

顔を押さえ、リビングの床を転がり苦しむあやせ。
俺は自分の怪我のことも忘れ、慌てて駆け寄った。

「あ……あたし………あたし………」

桐乃は全身を震わせ、床に伏したあやせの姿をただ見つめることしかできなかった。



その後、あやせは俺が呼んだ救急車で病院へと搬送された。
まさか……まさかこんなことになってしまうなんて――

758 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:25:43.56 ID:RMa08.Uo [2/15]
――あの出来事からそろそろ1ヶ月が経とうとしている。


あの日、あたしは親友の心と身体を、同時に傷つけてしまった。

救急車を呼んだことで、警察の聴取を受けることになったけれど、その対応や親への説明はすべて兄貴がやってくれた。
兄貴は、いさかいの理由については話さなかったらしい。そして、それは病院で聴取を受けたあやせも同じだった。
あんな目に遭ってどうして秘密を守ってくれたのか、あたしには分からない。
ただ、卑怯なあたしは、ひたすら思考を停めて、自分が招いてしまった事態に怯えるだけだった……


あやせは顔に火傷を負い、搬送後ただちに処置を受け、そしてそのまま入院することになった。
あたしは何度も病院へ足を運んだけれど、あやせが会ってくれることは一度も無く……まぁ、当然だよね。
ついには、あやせのお母さんから、二度と娘に近付かないようにと言い渡されてしまった。

あの時、あたしはどうすればよかったの? 兄貴との関係は不幸を招いてしまうの?
あたしの中では、いまも終わらない自問が続いている――

759 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:27:04.86 ID:RMa08.Uo [3/15]
会うことを禁じられたあたしが、あやせに対して気持ちを伝える手段は、メールぐらいしか残されていなかった。
返信が届くことはなかったけれど、謝罪の気持ち、あやせに対する気持ちを毎日のように送信していた。
一度、電話をかけてみたこともあったけど――聞こえてくるのは着信拒否を知らせる音声アナウンスだけ。

あたしが言うのは筋違いかもしれない。けれど、こんな形であやせとの繋がりが途絶えてしまうことだけは避けたかった。
あやせに嫌われても、恨まれても仕方が無い。ただ、最後にきちんと話をしたい……



そんなある日、携帯に届いたメールの差出人を見てあたしは驚いた――あやせだ!

《いまならお母さん居ないから、うちに来て》

どうやらあやせはもう退院して、いまは自宅療養しているらしい。
あたしは、あやせからメールをもらえた驚きと、戸惑いと、そして少しの喜びを感じていた。

760 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:28:39.55 ID:RMa08.Uo [4/15]
久しぶりに訪れたあやせの家は、なんだかすごく懐かしい感じがした。

あたしは玄関でインターホンを鳴らし、しばらく待つ――でも応答はない。
すると、携帯にあやせからの着信があった。

「あ、あやせ――?」
「……ごめんね、桐乃。まだ具合がよくなくて、動くのが辛いの。玄関は開いてるから、入ってきて」
「そうなんだ……じゃあ、お邪魔するね」

あやせの言葉を聞いて、あたしは少なからず動揺した。あの日の出来事がフラッシュバックのように蘇る。
久しぶりに親友に会えるということで、少し浮わついた気持ちでいたけれど、そんな気持ちは消し飛んでいた。

あたしは深呼吸をして、気持ちを鎮めてからあやせの家に入った。

761 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:30:31.87 ID:RMa08.Uo [5/15]
階段を昇り、あやせの部屋をノックする。

「桐乃――入って」

部屋からは、まだ弱々しいあやせの声が返ってきた。
あたしはドアを開け、室内を見渡す。
そこにはベッドで半身を起こし、顔の左半分をガーゼと包帯で覆った、痛々しいあやせの姿があった。

「あやせ……久しぶり」
「うん、久しぶり。 ……ごめんね、こんな格好で」
「ううん、無理しないで」

あたしはあやせの部屋に入り、ベッドの端に腰掛けた。

762 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:34:13.06 ID:RMa08.Uo [6/15]
しばらくの間、部屋には沈黙が続いた――

あやせに話したいことが沢山あったはずなのに、いざ会ってみると言葉が出てこない。
先に口を開いたのはあやせだった。

「ごめんね。入院中、何度もお見舞いに来てくれてたのに……お母さんが会わせてくれなくて」
「ううん、そんなこといいの……」
「桐乃にまた会えて、本当に嬉しい」

そういうあやせの表情は、半分包帯に隠れていたけれど、とても穏やかに見えた。
そんなあやせを見て――あたしの瞳からは涙が溢れた。

「ごめん、あやせ……あたし……あたし……」
「き、桐乃?……そんな……泣かないで」
「あたし……あなたに酷いことを……」
「ううん、悪いのはわたし。桐乃は止めてくれたんだよ」

あやせはゆっくりした動作でベッドを抜けると、泣いているあたしの隣に座り、そっと頭を撫でてくれた。
こんな状況でもあたしのことを気遣ってくれる、そんなあやせの態度に、ますます涙が止まらなくなってしまった。

763 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:35:46.47 ID:RMa08.Uo [7/15]
あたしが落ち着くのを待ってから、あやせは呟いた――

「桐乃……わたしね、多分転校することになると思う」
「えっ……」
「こんな事件起こして、しかもこんな顔になっちゃったし、みんなのところには……ちょっと戻りにくいの」

こんな顔、というあやせの言葉が胸を締め付ける。

「……そんなに――火傷の具合はひどいの?」
「傷痕が残るみたい。状態が落ち着けば形成手術を受けて少しは良くなるみたいだけど……」
「あやせ……」
「もうモデルもできないし――だから、桐乃に会えるのはこれが最後かもしれないね」

そんな――
あたしのせいだ。あたしがあやせの人生を変えてしまったんだ……

764 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:39:18.21 ID:RMa08.Uo [8/15]
「あやせ…… こんなこと、あたしが言えた義理じゃないけれど――」

あたしは少しためらいながら、俯いたまま口を開いた。

「あたしは…… これからもあやせと一緒に居たい。だって、あやせはあたしにとって特別な存在だし……。
 勝手かもしれないけど、また以前のように戻りたい……」
「桐乃……」

正直なところ、あたしはあやせに対して負い目を感じていた。
だけど、それとは別に、あたしとって一番の親友を失いたくないという気持ちがあったのも事実だ。

765 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:40:07.62 ID:RMa08.Uo [9/15]
「桐乃――本当にありがとう、そう言ってくれて…… でも、もう無理なの。ごめんね」

その言葉を聞いて、あたしは顔を上げる。
あやせは困惑したような表情で、視線は床に落としている。

「そう…… そうだよね。もうあたしなんか……」

また涙がこぼれ、視界が滲んでいく。あやせの気持ちも考えず、身勝手な申し出をした自分が本当に情けない……
だけど、あやせの反応は意外なものだった。

「ううん、違うの。桐乃を嫌いになったわけじゃないの」

えっ……?

766 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:42:04.56 ID:RMa08.Uo [10/15]
その発言の真意が分からないあたしは、あやせの次の言葉を待った。

「……わたしの今の顔を見たら、きっと桐乃はあたしを嫌うわ。わたしは……そんなことになるのだけは嫌なの。
 ――だから桐乃とはもう会えない」

あたしがあやせを嫌う?
そんなこと、そんなこと絶対ない!どうしてそんなこと言うの……!

「お願いだから……あやせ……そんな悲しいことを言わないで……
あたしは……何があってもあんたと友達でいたいしまた一緒に居たい! あんたのことをずっと大事に思っていたいし、この先もその気持ちは変わんないよ!」

自然とあたしは嗚咽が大きくなっていた。
そして、あやせの瞳にも涙が浮かんでいる。

767 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:46:36.38 ID:RMa08.Uo [11/15]
「ありがとう…… 桐乃……」
「あやせ……」
「実はね、桐乃はそう言ってくれるんじゃないかって、ちょっと思ってたんだ」
「それじゃ……また友達でいてくれるの……?」

あやせは涙を拭い、かすかに微笑んでくれた。
そして、少しの沈黙の後、なにかの覚悟を決めたように言った。

「桐乃、少しの間、目を閉じて後ろを向いていてくれる?」
「……うん、わかった」

あたしは言われるままに、あやせに背を向け、目を閉じた。
きっとあやせは包帯を取り、あたしに火傷の跡を見せるつもりなのだろう。
どんな傷痕だったとしても、決して驚かず、受け入れよう。それはあたしが招いてしまったものだし、あやせの外見なんかに関係なく、あたしたちはいつまでも親友なんだから。


そんなことを思っていたあたしは、この時のあやせが何を考えていたのか、まるで気付いていなかった……

768 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:47:15.93 ID:RMa08.Uo [12/15]
――ガチャ!

「えっ?」

あたしは、手首に冷たい何かが触れたのを感じ、思わず振り返る。
見ると、あやせはあたしの手錠をかけ、その一方をベッドフレームに繋いでいる。

「あ、あやせ……?」

予想外のことに驚き、あたしが硬直している隙に、あやせは反対の手にも手錠をして完全にベッドに固定した。

「え?えっ?? あやせ、何を――」

あやせは問いかけには答えず、静かに口を開いた。

770 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:51:02.20 ID:RMa08.Uo [13/15]
「桐乃、わたしもね……桐乃のことを大事に思ってるの……一番の親友でありたいと思ってるんだよ
 わたしたち、いつも一緒だったよね。わたしは可愛い桐乃が大好きだった。わたしも桐乃の親友として恥ずかしくないよう、頑張ってお洒落をしてたんだよ」
「あ、あやせ……」
「だけど、わたしは……わたしの顔は……この包帯の下には、桐乃が知らない、醜い傷痕のついた顔があるの」


「――でも桐乃は、そんなわたしとずっと一緒に居たいって言ってくれた」


あやせが立ち上がると、自然とあたしの視線の先は、あやせの手の位置に移った。
そこには、錐状の……アイスピックのようなものが握られている。

771 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:51:45.93 ID:RMa08.Uo [14/15]
「桐乃、さっきわたしは――桐乃がわたしの顔を見ると、わたしのことを嫌うんじゃないかって言ったけど……本当は違うの。
 桐乃がわたしを嫌うか、嫌わないか、そんなことじゃないの――
 あなたがどうかでなく、わたしが……わたしがこの顔を、絶対に桐乃に見せたくないの!」
「あ、あやせ……お願い……やめて……」
「桐乃にだけは、綺麗で可愛かったわたしをずっと覚えていて欲しいから……」

恐怖でもう声が出ない――
あやせはあたしの正面に座ると、まっすぐに視線を向けた。

「わたしにはもう、この方法しか思いつかなかった――」

そう言うと、あやせはもう一度、輝くような微笑みを見せてくれた。

772 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 00:53:03.84 ID:RMa08.Uo [15/15]
その直後――

あたしの涙の痕を辿るように、ドロッとした、暖かい液体が両頬を伝うのを感じた。

「ごめんね、桐乃。でもこれでまた一緒に居られるよ――」


そして、あたしに永遠の闇の世界が訪れた。


END

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最終更新:2010年12月17日 01:37
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