無題:4スレ目959

959 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20:40:10.29 ID:J.VqS.6o
あやせ「お兄さん早くしてください」

今日は8月17日、コミケ最終日の2日後だ。

突然だが、俺は今、あやせとふたりきりだ。

ふたりきりで秋葉原に来ている。

大事な事だから二回繰り返しました。

しかしまぁ、状況が状況じゃなければ手放しで喜べたんだけど……

あやせ「ちょっと、お兄さん!
    何変な顔してるんですか、気持ち悪い。ちゃんと見てないと見失っちゃうじゃないですか、桐乃のこと」

変な顔で悪かったな。うれしいんだよ、俺はお前といられるだけで。

京介「ああ、悪い。ちょっと考え事だ」

あやせ「ちゃんと見ていてくださいね?じゃないとお兄さんを連れて来た意味がなくなります」

京介「了解。それにしてもあいつらはどこに行くんだろうな」

あやせ「分からないからこうして尾行してるんじゃないですか」

それもそうか。

あやせたんの言葉に頷きつつ、前にいる一組のカップルを見る。

一年前までは冷戦状態だった妹の桐乃となよなよしているけれど、俺と同い年なのにアクセサリーのブランドをひとつ任されている御鏡。

960 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20:43:18.36 ID:J.VqS.6o
ことの発端はあの一言にある。

『今度紹介してあげよっか?あたしの彼氏』

この一言について俺はあやせに相談していた。

あやせ『桐乃に彼氏ですか?売り言葉に買い言葉だと想いますが、実際のところどうなのかは私にも分かりません。私も気になる部分があります。何かあったら教えて下さい。』

その言葉に従いコミケでの出来事を報告しておいた。すると

あやせ『御鏡さんはかなり怪しいですね。藤真社長の息もかかってるみたいですし、少し調べてみます。』

これから数分後

あやせ『スケジュールを確認したところ、ふたり揃って休みの日があります。もしかしたらこの日にふたりで出かける可能性があります』

いつだよと問いかけると

あやせ『今週末です。尾行しようと思うのですけど、お兄さんも来てくれますよね?』

もちろん!と即答したよ。

あやせ『なんでそんなに張り切ってんですか。まあ、いいです。その日は私は朝から張り込みますので、桐乃に動きがあったら連絡くださいね?』

図らずも当たってしまったあやせの予想。

なんつー女だよ、とは思うけど、絶対口にしない。

したら絶対殺される。

こうして桐乃を尾行、いや尾行というよりもストーキングに近い形で秋葉原へ来てしまった。

ふたりはコミケで偶然遭遇してお互いがオタクであると知っている。

だからこそのこのデートなのだろうか?

京介「普通デートで秋葉原はありえないだろ。」

思ったことがついこぼれてしまう。

あやせ「同感です。あの桐乃がデートだとしても秋葉原に行くなんて。信じたくありません。なのに桐乃ったらあんなに笑顔で・・・」

認めたくない気持ちはよく分かる。

961 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20:47:11.70 ID:J.VqS.6o
京介「でもよ、なんか距離あり過ぎないか?」

俺とのデートの時は腕組んだしな。

あやせ「そうですか?初々しいころはあのような距離じゃないですかね?それに桐乃が男性の方とお付き合いしたという話は聞いたことがありませんし。
    だから、なおさら距離感がつかめなくて当然じゃありませんか?」

京介「そうかなあ?」

桐乃のこういう面についてはあやせの方が詳しいだろうから、何も言いようがない。

そうこうしているうちに桐乃達は建物の中へ入って行く。

あやせ「お兄さん。私達も入りましょう。」

あやせとともに店内へと入る。

夏なだけあって外はかなり暑かったけど、中はクーラーが効いていてかなり涼しい。

ふと隣に目をやるとあやせが立ち尽くしている。

京介「おい、大丈夫か?」

あやせ「へ、平気です!お、おおお、お兄さんに心配されるようなことはありませんから大丈夫です!」

めちゃくちゃ動揺してるじゃねえか。

ま、あやせたんのレアな姿が拝めたから文句はありません。

あやせ「あっ、こんなところでのんきに話している余裕はありません。急いで追いましょう」

そう言って人混みの中を掻き分けて行くあやせ。

読モをしているだけあって、容姿は半端ないものを持っている。

そんな人間がオタクの集まる店の中をひとりで歩いて行く。

必然的にあやせに周囲の目が集まる。

あやせはその視線には気付いてはいないようだ。

その光景に腹が立った。

こいつらにあやせが視姦されてたまるかよ!

京介「あやせ!そんなに焦るな。桐乃の行きそうな所ぐらいは検討が付く。だから、もう少し自分の心配もした方がいい。周りを見てみろよ」

962 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20:51:42.41 ID:J.VqS.6o
俺の言葉に不満の色を丸出しにしつつも、従い、周囲を見回す。

刹那

あやせ「ひぃっ…… 」

こんな声初めて聞いたよ。

本気で怖がってんな。

これは好感度アップが狙えるイベントではないでしょうか。

桐乃から借りたエロゲーの中から似たようなシチュエーションがなかったか思い出す。

あった!

あやせに優しい声をかける。

京介「あやせ。手つなぐか?」

あやせ「な、ななな、なんてこと言うんですか!変態!変態変態変態!最悪です」

京介「あれ?なんで?こういったらうまく行くはずだったのに」

あやせ「何が言いたいんですか?」

光彩の消えた目とドスの効いた低い声で問いかけてくる。

こ、こえぇぇ!

怒ってらっしゃる。

なんで?エロゲーならこの選択肢で間違ってなかったはず!

あやせ「お兄さん。黙ってついて来て下さいね?」

怖い怖い。

反論なんてできやしない。

京介「はい」

これが限界だ。

こんなやりとりをしている間に桐乃達を完全に見失ってしまった。

あやせ「お兄さんのせいですからね。ちゃんと責任とって下さい」

964 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20:53:43.66 ID:J.VqS.6o
京介「責任って、どうすりゃいいんだよ?」

あやせ「絶対に桐乃達を見つけて下さい。それで今回の件は不問にしてあげましょう」

お安い御用!

何年俺があいつの兄をやってると思ってんだ。

大体ここに来ると先ずあいつはエロゲーコーナーに来るはず。

京介「じゃ、エロゲーコーナー行くか」

あやせ「な、なな何考えてるんですか!中学生をエロゲーコーナーに連れて行くなんて非常識過ぎます」

京介「いやでも、桐乃なんか直行するんだぜ」

あやせ「桐乃と私は違います!」

京介「いや、そうだけど。そうだけれども。仕方ないだろ。目的は果たさなきゃいけないしな」

あやせ「そう言われると弱ります。仕方ないですね。行きましょう。絶対にゲームの話はしないで下さいね。その時は問答無用で殴りますから。」

京介「へいへい。」

俺は桐乃に押し付けられてただけだっての!

勘違いすんなよ!

あやせ「ついに来てしまいました。い、いかがわしい!」

京介「まだ入ってもないのに決めつけんな。じゃ、行くぞ」

あやせ「はい……」

顔を引きつらせながら恐る恐る足を踏み入れる。

頑張れよ、俺の海綿体(リヴァイアサン)

そこには俺たちを四方から見てくるエロゲーエロゲーエロゲーさらにエロゲー……

当たり前だけど場違い過ぎるだろ!

いつも感じてる空気のあやせの分2倍増ぐらいな……

あやせにいたっては

あやせ「なっ、これは……」

絶句。

顔を真っ赤にして口をパクパクしている。

965 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20:55:21.38 ID:J.VqS.6o
おーい、あやせさん。モデルらしからぬ顔になっちゃってますよー

そう言える訳もなく

京介「あ、あやせ行くぞ。絶対ここにいるはずだから」

あやせ「え、あ、はい。それにしても本当にこんな所にいるのでしょうか。」

京介「間違いないと思うけど」

あやせ「ひゃっ! こ、これなんか箱なのに裸じゃないですか!」

言ってる意味がいまいち分かりませんよ、あやせさん。

京介「まあ、エロゲーだしな。仕方ないだろ」

あやせ「やはり、桐乃はこんなものが大好きなんですね。本当にどうにかしないといけない」

京介「それだけはやめてくれ。あいつの生き甲斐でもあるんだよ」

俺の本音でもある。

桐乃がアメリカに行っていた頃、大好きなエロゲーができなくて精神的に来てた。

それくらい本気ですかエロゲーを愛しているんだ。

京介「だからあいつからエロゲーを取ったらどうなるか想像もつかないしよ」

あやせ「ですけど!やっぱりこういうのはいけないと思います!」

前もやったろこのやりとり。

京介「そうだけど、桐乃自体に悪影響を及ぼしてる訳じゃないし。その証拠に俺だって……」

あやせ「お兄さんだって?」

京介「いや、何でもない」

何もされてないなんて

言えない言えない!絶対に言えない。

言ってたら、今ごろ地面にキスしてんだろうな。

966 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20:57:45.27 ID:J.VqS.6o
あやせ「すごく怪しいです。何かよからぬことを考えてた目でした」

やばい。やばいよこの子。

なんで分かんの?

地雷だらけじゃねーか。

京介「そ、そんなこと、ねーよ」

あやせ「そんな詰まって言われても説得力ありません。この件についてはまたいづれ追及させてもらいますので、覚悟して下さいね?」

京介「ああ、分かったよ」

情けねーな、俺。

しかし、これだけ見てるのに桐乃の姿がない。

京介「あいつら一体どこ行ったんだ?」

あやせ「私が知る訳ないじゃないですか!」

そうだけど、そうだけども。

京介「とにかく次の所行ってみるか」

渋々俺の言葉に頷くあやせ。

こういう表情も最高だぜ!

京介「じゃ、次はフィギュアかな?いつも違うから分からないけど、行って見よう」

あやせ「はい。次こそは絶対いますよね?」

正直、分かりません。

1番自信のあった所にいないとなるともうどこも似たようなものだ。

エロゲーを抜け、フィギュアのある所へと向かう。

途中、あやせがポスターを見て顔をしかめることがあったが、これは見ない振り。

だって、不用意に突っ込んだらなんて言われるかわかんねーもん。

京介「ここだな」

目の前には大量の美少女フィギュア。

全部が全部俺らを見ているような気がする。

967 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:00:04.10 ID:J.VqS.6o
あやせはというと、再び目を見開いて硬直。

京介「おい、あやせ。行くぞ」

あやせ「はい。でも、これ位ならいいかな……」

京介「いや、そうでもないぜ。そうだな、この女の子を下から覗いて見たらわかる」

そういうとあやせは恐る恐る女の子の頭を指で挟み、自分の目線の高さへと持ってくる。

その光景に俺はにやける顔を抑えられない。

あやせ「お兄さん、その顔やめて下さい。気持ち悪いです」

分かってる、分かってるけど止められない。

あやせ「さては何か怪しいことでも企んでるんですね。いいです。のってあげましょう」

そう言って、女の子の無駄に短いスカートの中を覗く。

すると、また顔を真っ赤にして右腕を振り上げる。

刹那、左頬に乾いた音とともに衝撃。

痛ってぇ!

あやせ「こ、こここ、この子履いてない・・・ 下着はいてないじゃないですか!何てもの見せるんですか!変態!桐乃にもこういうことを強要しているんでしょう?最低です。死んだほうがいいと思います」

みんなが驚いてこっちを見てるじゃねーか。

恥ずかしくないのかよそんな大きな声でまくし立てて。

尾行中の身だから、目立ってはいけない。

京介「あやせ。一旦出るぞ。それからもう一度やり直しだ」

あやせ「うるさいです!変態!話しかけないで下さい」

そう言ってひとりで歩き出すあやせ。

これはまずい。

とにかく説得を!

京介「俺達は桐乃達の尾行をしている訳だろ?お前、ひとりであいつらの行きそうな所分かるのかよ」

あやせ「分かるわけないです。だから、お兄さんを連れて来たんじゃないですか。それなのにあんなことさせて・・・酷すぎます!」

確か最後は自分の意思で行ったよな。

968 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:04:21.83 ID:J.VqS.6o
京介「悪かった!まじですまない」

あやせ「許しません」

えぇー、なんだよ。恥を忍んで頭を下げてんのに。

京介「あー、いい。行くぞ。外に出よう。もう一度考え直しだ」

あやせ「信じられる要素が微塵もありませんが、分かりました」

それで一旦建物の外にいる。

暑い。まじで暑い。

あやせに嫌われるし、

腹も減ってきたし……

京介「あー、もう。最悪だよ」

あやせ「それは私の台詞です」

京介「なあ、あやせ。飯食わねーか?」

あやせ「嫌です」

即答ですか。

京介「腹減ってきついんだけど」

だってもう1時過ぎてるぜ?

健康な男子高校生はとっくにペコペコなんですよ。

あやせ「少なくとも桐乃達を見つけて、桐乃達もご飯を食べたら私達もご飯にしましょう」

京介「先が長いよ」

ここで桐乃を見つけなければ昼飯抜きもあり得ると。

どんだけ鬼畜なんですかあやせさん。

さてどうしたものか。

こんな時頼りになる秋葉原に詳しく、桐乃のことをよく知り尽くしているヤツ……

969 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:07:45.00 ID:J.VqS.6o
沙織か……

電話するか。

京介「ちょっと待っててくれ。知り合いに桐乃の居そうな所を聞いてみる」

あやせ「例のオタク友達ですか?」

京介「ああ、そうなるな」

さて、出てくれるかな。

1コール目、2コール目、3コール目、4回目に入ろうとした所ででた。

京介「出たー!!」

沙織『何事でござるか、京介氏。何故にそのような異常なテンションで?』

京介「お前だけがたよりなんだよ!」

沙織『ふむ。何があったでござるか?』

京介「ああ、そうだった。桐乃が居そうな所を教えて欲しい。コミケの時に会った御鏡っていたろ?あいつと出かけて、尾行してたんだが見失ってしまった」

沙織『ははあ、ようは愛しい愛しい妹がぽっと出のやわ男に連れて行かれて、シスコンの兄が現在ストーキング中だと』

なんでそういう風に捉えるかな!

京介「違げーよ!妹の親友もいるんだよ」

沙織『その子は口実を付けるための保険的な』

京介「断じて違う。そろそろさ、真面目に答えてくれねーかな?」

あやせが怪しい物を見るような目で見て来るのですが……

沙織『そうですな。確か今日はメルルのイベントがあるはずでござる。多分、現在京介氏らがいる所は時間潰しに寄っただけかと』

おー、さすが沙織だ。オタク的なこととなると無類の強さだな。

沙織『まー、もともと拙者がきりりん氏に教えて差し上げたのですが』

さっきの俺の感心を返せ!

京介「それはどこでやってんだ?」

沙織『教えて差し上げましょうぞ。京介氏、現在地はーーー』

970 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:10:24.54 ID:J.VqS.6o
京介「あやせ!分かったぞ。もうここにはいない。メルルのイベントがあるらしくてそこに行ってるらしい」

あやせ「本当ですか?正直なところ信じられません。メルルのイベントなら加奈子やブリジットのところに連絡が来るはずですが」

京介「大丈夫。今電話してたやつは1番信用できる人間だからな」

あやせ「お兄さんがそこまで言うなら信用してみましょう。それでもいなかったらどうなるか、分かりますよね?」

やっぱ怖ぇよあやせさん。

身体が震えあがるぜ。

あやせ「何してるんですか。早くして下さい。急がないとまた分からなくなりますよ」

京介「あぁ、そうだな。急ぐぞ」

秋葉原のとあるホール。

大きいお友達の声が外まで漏れている。

あやせ「何度来ても気持ち悪いですね」

このホールには前にも来たことがある。

一度はメルルEXフィギュアを取りに、もう一度は加奈子の付き添いでだ。

しかし、この空気にはどうしても混じれない。

熱気がな、違うんだよな。

どこにこんなエネルギーがあるんだよってくらい。

あやせ「とにかく桐乃を探しましょう。それから次の事も考えましょうね、お兄さん?」

京介「了解。」

そう言って周りを見渡すものの、桐乃らしき茶髪が見当たらない。

見つけなくていい時は直ぐにみつかるんだけどなぁ。

あやせ「桐乃見つかりましたか?」

京介「いや、まだだ」

なんか前に来た時よりも人が多い気がする。

何?3期決定で人気再上昇なのか?

それはそうと早いとこ桐乃を見つけ出さねーと。

971 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:12:21.94 ID:J.VqS.6o
えーと、茶髪茶髪ー、茶髪の女はどこにいる?

あやせ「早くして下さい」

えっと、あやせさん、なんでそんな怖い声でいうのでしょうか?

ちょうどその時、メルルのOPが流れ始めた。

歌声に合わせて微かに聞こえてくるどこぞの女の猫なで声。

間違いない、この声は桐乃だ。

この間、うちで開いたメルル鑑賞会の時聞いた声と全く同じだ。

京介「声はするんだけど、どこにいるんだか」

あやせ「声が?桐乃の声ですか?」

京介「あぁ、音楽にのって微かにな。もしかしたら結構近いかも」

あやせ「まさかさっきから音源とズレて聞こえて来てるやつですか?どこかで聞いた事あると思ってたら、桐乃だったんですね」

意外と耳がいいんだな。

あやせ「いま、失礼なこと考えてませんでしたか?」

エスパーかっ!?

京介「そんなことねーよ。とにかく曲が終わる前になんとかして方向だけでも特定しねーと」

あやせ「頑張って下さい」

投げやりだな、おい。

京介「やろうって気持ちはないのか?」

あやせ「だって私にはほとんど聞こえてないんです。だから、仕方ないんです」

そう言って、ニコッと微笑む。

この笑顔を見るだけで許したくなってしまう。

女ってさ、ズルいよな……

京介「よし!任せろ!」

そう言ったものの、曲は残りわずか。

そして、数十秒後、終わった。

972 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:15:02.04 ID:J.VqS.6o
聞き取れなかった。

くそっ、英語のリスニングよりも難しいんじゃないか、これ。

あやせ「お兄さん、できました?」

京介「いや、できなーー

“おぉぉぉぉぉぉぉ!!メルル可愛えぇぇぇ!!”

大きいお友達の揃った声に押しつぶされれる。

その声が消えた後、よく響く声で

桐乃「メルル可愛いよー!お持ち帰りしたいよー!あぁぁ!もう、最高!」

恥ずかし過ぎるだろこいつ。

だけど、おかげですぐに位置を確認できた。

ちっ、御鏡のやつまだ桐乃といやがる。

しかも、御鏡までもが桐乃の行為に引いてるし。

あやせ「前回来た時も桐乃はこんな感じでしたね」

京介「家でもそうだよ」

この間なんかエロゲーしながら叫びまくってたしな。

あやせも完璧に桐乃の位置を特定し、監視しやすい位置に移動を開始。

やばい、腹が限界かもしれねぇ。

京介「飯食いたいんだけど」

あやせ「我慢して下さい」

京介「無理だ」

あやせ「ですから、桐乃達が食べたらって言いましたよね?」

いや無理だよ。

おなかとせなかがくっつくよ!

あやせ「我慢して下さいね?」

ニコッと微笑むがもうその笑顔には負けねーぞ。

973 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:17:13.65 ID:J.VqS.6o
京介「早く終わんねーかな」

あやせ「……」

必死なんだな。

ほどなくしてイベントも終わり、桐乃達も会場をあとにする。

あやせ「行きますよ、お兄さん。次は絶対に見失うわけにはいきませんからね?」

京介「分かってる」

あやせ「期待はしてませんけど」

じゃあ、なんでそう言って来たんだよ。

わけ分からん。

まあ、いいけど。

京介「こいつら帰るつもりか?」

あやせ「駅のほうに向かってますね」

このまま帰ってくれればありがたいんだが、せっかくあやせと2人きりなのにもったいない気もする。

あー、もう!やり切れねーよ。

あやせ「もう、完全に帰るようですね」

もったいないもったいない。

あやせ「お兄さん?元気ないですよ?どうしたんですか?」

京介「このままあいつらが帰ったら、あやせとこうして2人きりじゃなくなるじゃんか、それが悲しくて」

あやせ「な、なな、なんでですか!一体何を期待してたんですか!?」

京介「あやせの好感度UP!」

あやせ「絶対に上がりません。お兄さんのことは嫌いですから」

京介「そんなにはっきり言わなくても……」

あやせ「本気で落ち込んでるし……」

そんなこんなで地元の駅に到着。

なんとここまで御鏡がついて来ている。

974 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:19:29.11 ID:J.VqS.6o
ちっ、どうせ

“家まで送りますよ”

なんて言ったんだろうな。

腹が立つ。

あやせ「御鏡さんもここまで来ましたね。どういうつもりでしょうか」

京介「送りに来たんじゃねーの?」

あやせ「彼氏としては当然ですけどね」

京介「あやせ、家まで送って行こうか?」

あやせ「結構です。私はひとりで大丈夫です。逆にお兄さんが隣にいるほうがよっぽど恐ろしいですし」

なんて言いようだよ!

くっそー、なんか本当に傷つくわ!

京介「そこまで言わなくてもいいじゃねーか」

あやせ「お兄さんは私に全く信用されてませんから」

もう、いいよ。

それ以上言わないでくれ。

死にたくなって来るだろ?

京介「はいはい」

自分にメンタルのためにも適当にあしらう。

さてさて、桐乃達はどうしてるか……

ちょうどどこかの店に入って行ったようだ。

あやせ「ケーキ屋さん。私や桐乃が加奈子を連れてよく行く所ですね」

京介「ケーキ屋……だと?」

桐乃の擬似デートの時にきた所だ。

あいつらは何を考えてるんだよ?

あやせ「持ち帰るようですよ」

975 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:21:42.50 ID:J.VqS.6o
京介「なんで分かるの?」

あやせ「私達は常連ですよ?分からないわけ無いじゃないですか」

京介「なるほどな」

あやせ「中に入らないで外で出待ちしましょう」

京介「そうだな。つーか、なんのためにケーキ買うんだよ」

あやせ「お土産とかじゃないですかね?ケーキは生ものですから、近場で買わないとすぐにだめになりますし」

京介「へえ、お前はなんでも知ってるな」

あやせ「なんでもではありません。知ってることだけです」

ん?んん?

このやり取りどこかで聞いたことがあるような?

あやせ「あ、出てきました」

ケーキ屋から出てきた桐乃の手には少し大きめのケーキの箱が握られている。

あいつ、あんなに食うのかよ。

太るぞ。

あやせ「行くようですね。家に着くまでが尾行です!あと一息です」

お前の中じゃ尾行は遠足と同じ括りの中にあるんだな。

京介「なあ、あやせ。もしだぜ、もし御鏡が桐乃と一緒にうちに入って行ったらどうする?」

あやせ「ッ!? そんなこと考えてませんでした。十分にあり得ますよね!」

本気で動揺しているようだ。

あやせ「その時は、その時は……」

そう言ったっきり顔を伏せる。

あやせの表情は隣に立つ俺の目線からは伺えない。

気になるから問いかけてみる。

京介「その時は?」

あやせ「わ、私を、私を……」

976 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:24:28.43 ID:J.VqS.6o
京介「あやせを?」

こんな様子のあやせを俺はいままで見たことがない。

あやせ「やっぱり何でもありません!忘れてください!」

顔を伏せたまま言い放つ。

俺はどうすればいいのか全く分からない。

本当にこんなことは初めてだった。

あ、でも、エロゲーだったらこんな状況があったかもしれない。

しかし、相手はあやせだ。

常識は通じない可能性が高い。

京介「そうか、分かった」

あやせ「聞き分けがいいですね……」

語尾が少し震えている。

理由は全く分からないがとりあえず

京介「無理すんなよな」

これだけ言ってみる。

あやせ「やっぱりお兄さんは優しいです。初めて会った時と同じ……」

あやせ「私と桐乃がケンカした時だって、自分を私の敵にすることで、仲直りさせてくれて……」

京介「あやせ?何を……」

突然のあやせの変調に戸惑ってしまう。

あやせ「聞いて欲しいんです。最後まで聞いていて下さい」

京介「あやせの気がすむまで聞いてやるよ」

あやせ「ありがとうございます。お兄さんはこんなに優しくしてくれるのに……私はお兄さんのこと嫌っているのに、私の相談を受けてくれたり……」

当たり前じゃねーか。

お前も俺の大切な人間なんだ。

あやせ「今だってこんな妹の尾行をするなんて嫌なことを押しつけられてるのに、私のことまで気遣ってくれて……」

977 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:26:40.58 ID:J.VqS.6o
あやせ「本当はお兄さんには感謝してるんですよ。でも、やっぱりいちどとってしまった態度は変えられなくて……」

あやせ「いつまでもお兄さんを気持ち悪い人扱いし続けて……」

あやせ「本当はお兄さんのこと好きなんですよ!お兄さんが思っている以上には」

これまで1番望んでいたはずの言葉なのに俺はあやせの姿にどうしたらいいのか立ち尽くす。

夏の太陽が俺達ふたりをジリジリと照らし続ける。

少し傾いた太陽の影になっている顔からあやせの表情は見て取れない。

しかし、俺にはもう十分だった。

言葉はしっかり伝わった。

京介「もう、いいよ。あやせの気持ちはよく分かった」

あやせ「絶対嘘です。私はずっとお兄さんを騙し続けてたんですよ?いいんですか……?」

京介「いい、それでいい。でもさ、今は先にやることがある。そうだろ?」

あやせ「はい…… 終わったら少しお時間を下さいね…… お兄さんにはやっぱり言っときたいことがあります」

京介「分かった。何でも言ってくれ」

あやせ「はい!」

京介「じゃ、あと一息だ。頑張るか」

あやせ「はい、やりましょう!」

頑張るとは言ったけれども、そもそもこのストーキングもとい尾行は何のために行われたんだ?

桐乃の彼氏にいて、今日はふたりでデート、でその彼氏が御鏡だったと。

こいつは正しいよな?

なのにここまで付いてくる必要はあったのだろうか?

あまり深入りしなくてもいいような気もするけど……

やっぱりふたりの関係ははっきりさせておきたいというところだろうか。

ふたりの関係?

御鏡は擬似カップルになってた俺達兄妹を別れさせるためにあてがわれた可能性がある。

桐乃とはふたりで会ったこともあるし、コミケでの偶然の出会いもある。

979 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:28:34.30 ID:J.VqS.6o
よくよく思い出してみるとあの時の態度はどうも彼氏彼女のそれじゃなかった。

たかが2日空いただけで、そんなに大きく事態が変わるとは思えない。

いやまあ、世の中にはそんな人間もいるかもしれないけど、少なくとも桐乃にはそんな芸当はできない。

長年、あいつの兄貴やってる俺の勘ではあいつらは付き合ってはいない。

こいつを踏まえて今日のふたりの様子を振り返ってみると、確かに付き合ってるようには思えない。

会話こそは自然そうに見えたものの、どうも付き合ってるような距離感というか、親密感というかそういいのが欠けていたような気がする。

京介「なあ、あやせ」

ずっとだんまりと考え込んでいた俺が唐突に話しかけたせいか、あやせは少し驚いたようで

あやせ「な、なんですか?」

と少し声が上擦っている。

京介「今日さ、あいつらを尾行してみて付き合ってるように感じたか?」

あやせ「え?そうですね。少なくとも私には付き合ってるように見えました」

京介「多分、思い込みのせいでそう感じてるんだと思う」

あやせの思い込みの強さは一級品だからな。

京介「聞いてくれ、あやせ。俺の推理を」

あやせ「名探偵気取りですか?いいですよ。お兄さんの名推理、じゃなくて迷推理を聞かせてください」

ん?なんか悪い方に言い換えられたような……

しかし、そんなのはもうどうでもいい。

俺の名推理であやせのハートをがっちりキャッチだぜ!

京介「結論から言う」

京介「あのふたりは付き合ってはいない」

あやせ「分かりましたから、そう判断した理由を聞かせてください」

京介「桐乃と御鏡、このふたりは知り合ってからまだ日が浅い」

あやせ「世の中にはそういう人達もいますよ?」

京介「少なくとも桐乃はそんな人間ではないだろ?これはあやせもよく知ってるはず」

980 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:30:42.82 ID:J.VqS.6o
あやせ「確かにそうだと思います。でも、それだけだとものすごく弱いですよ?」

京介「焦んなって。俺はコミケの最終日に御鏡と会っている。桐乃を交えて会話もした。
   その時の印象は仲はまあまあいいけれど、そういう関係になるほどは感じなかった。桐乃に引っ張られている、そんな印象しか受けなかった」

あやせ「はい、それで?」

京介「それで今日のふたりの態度だよ。
   距離はあるし、なんか桐乃の表情も好きな人といると言うよりも、
   同じ趣味を持っているし、自分と同じ世界で仕事をしている人間と一緒にいるという安心感があるようにしか見えないし」

あやせ「それはお兄さんの思い込みのような……」

違うのさ、あやせ。

俺にはとっておきの一言がある。

正直、自分で黒歴史をほじくるのもいやだけど、仕方がない。

よく聞けよ。

京介「俺はあいつとのデートの時は腕を組んだからな!」

どすっ!

あやせの右腕が一瞬で俺の鳩尾に叩きこまれた。

京介「うぐぁっ」

息が、息が出来ねえ。

あやせ「なんてことしてるんですか。桐乃に手を出したらどうなるかってちゃんと言ってたはずですよ?」

京介「でもよ、考えてもみろ。大っ嫌いって言ってる俺と腕組めるのに、なんで大好きな彼氏と腕くめないんだよ」

あやせ「確かにそうですけど、そうですけど……」

まだ、納得がいかないか。

京介「でもよ、桐乃の性格を考えると、好きな人と腕を組めないなんてありえない」

あやせ「そうです。桐乃なら本当に好きになった人には夢中になって、きっとずっとその人から離れようとしないと思います」

納得してもらえたみたいだな。

あやせ「そして、桐乃と御鏡さんが付き合っていないとしてこれからどうするつもりですか?おふたりは家に入って行ったようですよ?」

なにっ!?家にだと!

俺が推理を垂れている間に、家の前だよ。

くそっ、想定し得る最悪のパターンじゃねえか。

981 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:32:22.04 ID:J.VqS.6o
あやせ「どうしましょう?さすがに家に入られると私は手が出せません」

さて、どうしたものか。

さっきの推理のせいで何も対策を考えていなかった。

京介「俺の彼女としてうちに入って……」

あやせ「却下です」

京介「なら、あやせが桐乃を説得するとか」

あやせ「なんで私に丸投げするんですか?お兄さんがしてください」

お前は俺に丸投げしたじゃん。

京介「分かった。じゃあ、お前は俺の部屋で待っていてくれ。まじでヤバそうな時には助けに来てくれるとありがたい」

あやせ「分かりました。そうしましょう。それとお兄さんの部屋にいる上で触って欲しくない所とかありますか?」

京介「棚の1番上の引き出しの……」

はっ!しまった。

つい普通に答えてしまった。

移したばかりのエロ本の隠し場所!

慌ててあやせを見ると、ニヤニヤした顔で

あやせ「単純ですね、お兄さん?」

と一言。

死にてえ。

少し緊張がほぐれたところで、あやせを部屋に招きいれ、待機させる。

あやせ「じゃあ、お兄さん、安心して行って来て下さい」

少し不安にさせるセリフを聞いて自室を出る。

あやせを連れて部屋に来た時はお袋の声が聞こえていたが、今は聞こえない。

買い物に行ったのだろうか、桐乃と御鏡の声しか聞こえない。

しばし、リビング前に立ち止まって、心を落ち着かせる。

京介「ふぅっー」

983 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:34:33.76 ID:J.VqS.6o
大きく息を吐き、リビングのドアに手をかける。

刹那、ドアが開いて御鏡が現れる。

トイレにでも行くつもりだったのか? 知ったこっちゃねーけどな。

御鏡「あっ、京介くん、お久しぶりです。」

京介「ああ、そうだな」

なんで俺戦う相手と普通に挨拶してんの?

御鏡の声に反応してか、桐乃が出てくる。

桐乃「ちっ、あんた、帰って来てたんだ。どうせ今日も地味子と図書館行ってたんでしょ?」

尾行してたのはばれてないみたいだ。

京介「まあ、そんなところだ」

しまった!

とっさに嘘をついてしまった。

京介「いや、違う」

桐乃「はあ?じゃ、何してったて言うの?」

京介「お前達ふたりについて話がある」

桐乃「なんなのいきなり、会話を混ぜないで欲しいんですケド。あたしはあんたなんかに話はないし。彼氏が来てんのに野暮ったいことしないでよね」

彼氏って言い張るか。

本当はそうじゃないだろ。

いつまでもそう言い続けるんなら

その幻想を俺がぶち[ピーーー]!

ふっ……このフレーズもどこかで聞いたことがある気がするぜ。

京介「御鏡、お前達今日、どこか行ったのか?」

桐乃「そんなことあんたには関係ないでしょ!」

京介「お前には聞いてない。どうなんだ御鏡?」

桐乃「ちっ」

985 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:36:36.84 ID:J.VqS.6o
桐乃は面倒臭そうに顔をしかめる。

御鏡「まあまあ、桐乃さん、落ち着いて。確かに僕達は今日出かけましたよ。」

京介「どこに?」

御鏡「秋葉原です!」

ここまで全く矛盾点がない。

つまり、突っ込みどころがないのだ。

御鏡「秋葉原ってすごいですね!初めて行ったんですけど、たくさん物があって、すごく興奮しました!」

そんなに力説されてもこちらのイライラが募るだけなんだが。

御鏡「他にもメルルのイベントにも行って来ました。あの熱気はすごかったです。あと桐乃さんのテンションにもびっくりさせられました」

あー、うぜえうぜえ。

落としやすそうだからって、御鏡を標的に選んだのは失敗だったか。

やはり、感情的になりやすい桐乃を狙うべきだったな。

京介「桐乃、お前はどうだったんだ?」

桐乃「別に。いつも通りだし」

なんでこんな時に限って、こんなに冷静なんだよ。

こんな流れでは切り札さえ切れない。

どうにかして会話で引き寄せなければ。

この会話だとどうしてもオタトークで終わってしまう。

そこで俺は本題を切り出すことにする。

京介「お前らはさ、その、付き合ってんのか?」

桐乃「当たり前じゃん。つーか、そんなことわざわざ聞かなくたって分かるでしょ、ふつー」

うっぜー、まじで腹立つわこの女。

986 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:38:13.65 ID:J.VqS.6o
京介「御鏡、本当か?」

御鏡「ええ、そうです。僕は桐乃さんとお付き合いさせてもらってますよ」

崩れねーな。

どんだけ忠実なんだよ、こいつは!

京介「どうもさ、ふたりが付き合ってるようには見えねーんだよ」

桐乃「はあ?何言ってんのあんた?人の恋に口出ししないでよね、このシスコン!シスコンが重症化して、妹に彼氏ができるわけないなんて思っちゃってるんでしょ?
   あー、キモいキモい。さっさとどこか行ってくんない?」

京介「シスコンじゃねーよ!」

耐えろ、俺!

桐乃「だってあんたこの間、昼間から『俺はシスコンだぁぁぁ!!』って叫んでたじゃん」

京介「そ、それは違ーよ」

桐乃「どこがどう違うのよ?」

反論の余地がねえ。

くそっ、こうなったら仕方ない。

京介「付き合ってるって証拠でもあるのかよ?」

絶対に言いたくなかった一言。

一歩間違えれば、全てが終わりになってしまう一言。

桐乃「あるよ。前にも言った通り手も繋いだしキスもした。だから簡単」

そう言って桐乃は御鏡を見上げ、そっと顔を近づけて行く。

俺はそれを止めることが出来ずにただ見つめることしか出来ない。

顔と顔が近付き……

ちゅっ

中学生らしい初々しい触れるだけのキス。

余韻を楽しむように見つめ合う桐乃と御鏡。

それをただ驚いた表情で見つめる俺。

しばし、静寂が続くと思っていた矢先

987 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:40:03.28 ID:J.VqS.6o
あやせ「桐乃!何してるの?なんでキスなんかしちゃうの」

お前、見てたのか!?

2階からあやせが降りて来る。

途端に桐乃の顔が蒼ざめる。

桐乃「え、あ、あやせ?なんでうちに?まさか全部聞いてた?」

あやせ「当たり前じゃない。どういうことなの?本当に御鏡と付き合ってて、桐乃の意思でキスをしたの?嘘だよね?嘘だと言ってよ!ねえ、桐乃!」

去年のコミケに帰りに出会った時よりも怖い。

あやせ「嘘、嘘嘘嘘嘘嘘!桐乃がこんなに簡単に人前で恥じらいもなしにキスするわけない!私の前にいる桐乃は桐乃じゃない!」

桐乃「そんなことない!私は御鏡の事が好きだもん!一緒にいたいってそう思うもん!私の趣味にも理解あるし、それに、それに……」

あやせ「それに、何?」

桐乃「すっごく優しいの」

あやせ「桐乃は去年から、お兄さんの優しいところが好きだって言ってたじゃない!それでも、それでも、桐乃は御鏡さんんを選ぶの!?」

桐乃「当たり前じゃん!あたしの彼氏、そう!彼氏なんだし!」

あやせ「そう、じゃあ、お兄さんは私が貰うから!私だってお兄さんの事好きだった。だけど、桐乃も好きだったでしょ?だから、遠慮してたんだよ。
    でも、桐乃は御鏡さんを選んだ。だったら、お兄さんは私が貰っていっても文句はないよね?」

桐乃「……や…… いやだ。絶対にいや、いやいやいやいやいや!」

あやせ「何?ふたりとも欲しいの?そんなこと許されるはずないでしょ?分かってるよね、ねえ、桐乃?」

あやせ「お兄さんか御鏡さんかのうちで桐乃は御鏡さんを選んだ。だったら、私がお兄さんと付き合う権利はあるよね?」

桐乃「そんなの、いやだ……いやだよ、ねえ、あやせ。なんで?なんでこんなことするの?」

あやせ「桐乃のことが心配だからに決まってるでしょ!」

そう言って、辛そうな目をして俺を見つめて来る。

前髪のかかった双眸にはうっすらと涙が溜まっているようだった。

桐乃「あたしがいつまでもあんたの保護下にいる必要はないでしょ!」

あやせの表情がくもる。

あやせ「そう、だけど……やっぱり桐乃には……」

桐乃「あー、もう!うざいうざい。ちょっとかわいいからって、馬鹿兄貴から言い寄られてるからって、調子乗りすぎなの、あんた!
   出てって、早く出てって!二度とうちに来んな!」

988 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:41:40.77 ID:J.VqS.6o
あやせ「そう、じゃあもう私達は赤の他人なんだよね?だったら、この家のモデルしてる女の子の部屋の棚の中には、大量のいかがわしいものがあると言ってもなんの問題もないってことで。
    仮にそれが他人に知られても、情報を漏らしたのは赤の他人ってこと」

そう言って、俺の腕をとるあやせ。

京介「ちょっ、あやせ……」

言葉が出ない。

なんて言っていいのか分からなかった。

こんなことになる予定じゃなかったはず。

あやせ「お兄さん、行きましょう。私の家に来てください。こんな女がいると嫌でしょう?これからはずっと私が一緒にいますから。
    何があっても絶対に私だけはお兄さんのそばにいますから。だから、私と来てください。お願いします!」

あやせが俺の手を引く。

しかし、俺は動けない。

あやせが必死な目で俺を見つめて来る。

ふたりとも俺の大切な人間だ。

桐乃は俺のたったひとりの妹。

あやせはそんな妹の大親友。

そんな大切なふたりの仲を引き裂いてしまった。

あやせ「さ、お兄さん早く行きましょう。こんな忌々しい場所から早く立ち去らないと……」

あやせは俺ではなく、桐乃を見ながら言う。

しかし、桐乃はその視線に気付くわけでもなく、顔を背けている。

御鏡もどうしていいのか分からずに、ただ桐乃の肩を抱くだけ。

俺は半ば引きずられるようにあやせの家へと連れていかれる。

家を出た時

あやせ「じゃあね、桐乃」

消え入りそうな声でつぶやいた。

あやせ「ごめんなさい、辛い思いをさせて」

京介「いや、あれは俺のミスだよ。あの時あんなことさえ言わなければ……」

あやせ「いいえ、お兄さんは悪くないです。悪いのはあの女ですから」

990 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21:43:24.28 ID:J.VqS.6o
あやせ「さ、私の家に急ぎましょう」

あやせの部屋に入る。

ついこの間、ここに来た時はかなり嬉しかったのに、今日はそんな気持ちではない。

変わらないであるのは石鹸のような淡い香り。

俺は床に座り、あやせは部屋の中央に俺に背を向けて立っている。

おもむろにあやせは棚の上に飾られているあるひとつの写真立てを手に取り、見つめ、辛そうに表情を歪めたと思うと、意を決したようにそれを投げた。

部屋のドアに当たり、ガラスが砕け、音をたてて床に落ちる。

音とともに聞こえてくるすすり泣く声。

それがあやせのものだと直ぐに分かる。

あやせ「お兄さん……辛い思いをさせて本当にごめんなさい……」

これはあやせの本心であろう。

しかし、俺は桐乃のことが心配でならない。

あやせ「安心して下さい。どうせあの女は海外に逃げるでしょうから、これからはあの女の分まで、いや、それ以上にお兄さんの事を想い、
    お兄さんのためだけに生きて行きますから、ずっと私と一緒にいてくれますよね?絶対に離れませんからね。これからもずっと一緒です。
    私はお兄さんのことが大好きですよ。お兄さんはどうですか?もちろん好きですよね?『結婚してくれ』なんて言って来てた位ですしね。
    それに『愛のこもちゃプロポーズだ』とも言ってましたし。答えはもちろんOKです。あの時は断ってしまいましたが、そう言うしかなかったんです。
    でも、もう失ってしまったものがある以上、また得るものがあってもいいですよね?」

間髪いれずに話して来る。

あやせの気持ちも分かるけど、俺はやっぱり……

あやせ「……だから、お兄さん、私と一緒にずっと一緒に、生きてください」

これ以降しばらくは家には帰らなかった。

いや、帰れなかった。

あやせが“あの女がいる家に行かせるわけにはいきません”との姿勢を崩すことがなかったからだ。

その後、俺が初めて家に帰ったのは家に帰ったのは桐乃が海外に行ったという知らせを受けてからであった。


終わち!!

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最終更新:2010年12月19日 22:19
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