ミキシングとは、様々なエフェクターを使って音の質感や音の配置、音量を調整する作業のことです。 なぜミキシングやマスタリングが必要なのでしょう? 音を記録する媒体がなかった頃、音楽といえば演奏されるものでした。 現在、記録媒体が普及して、音楽は様々な機器を通して再生されています。 記録することによって音色を変化させることが出来るというメリットがあります。 しかし、記録された出力機器を通した音の情報量は、生と比べると圧倒的に少ないです。 そのため、人間の脳を騙して生の音に近づけるか、また、音楽的に出来るかということが求められます。 ミキシングやマスタリングは、「様々な環境で再生したとき音楽的で、聞きやすい音」を作るためにあるのです。
記録媒体がなかった頃、音楽は演奏されるものでした。 演奏はふつう少し離れた場所で減衰した、また、空間で響いた音を聴きますよね? つまり、耳と音声出力装置が近いヘッドホンは本来の音ではなく、不自然と言えます。 一方、スピーカーは離れた場所で聴くことになるので、自然な形と言えます。 スピーカーは、楽器の定位(音の配置)や空間の響き、全体を確認することと楽曲を聴くことに向いています。 では、ヘッドホンは使うのでしょうか? 大抵、ヘッドホンは外の音を防ぐことができます。 そのため、聞き取りにくいところを確認しやすくなります。 ミックスについて、できればスピーカーで確認したほうが良いのですが、 一般家庭の調整していない部屋では、良いスピーカーを使っても周波数特性がかなり変わります。 また、相当大きなスピーカーやサブウーファーを使わないと低域の確認もできません。 ですから、なるべくイコライジングはフラットなヘッドホンでも確認したほうが良いでしょう。 そして、大抵のヘッドホンは外に音が漏れることもありません。 オケを聞きながらレコーディングするのにも使います。 ヘッドホンをメインに使用していると、コーラスやM/S処理でサイドを強調しすぎて スピーカーで聴いたときに定位がわけわからなくなることがあるので気をつけましょう。
まず、聴きやすくするために各パートの音量をフェーダーで調整をします。 この段階で、録音した素材をノーマライズをしないようにしましょう。
{*ステレオ(2ch)の場合 }; 各楽器の左右の定位(音の位置)を調整します。 人間は二つ耳を持っています。ですから、音域がかぶっている楽器を左右に振り分けることで分離が良くなります。 また、広がりやステレオ感も出ます。
最近の曲のボーカル・ベース・キックはセンターに定位されていることが多いですよね? なぜかというとそれらはセンターに定位しないと落ち着かないからです。 低域が鳴る楽器は少ないですし、メインのメロディーはひとつしか無いですよね。 ですが、そうすれば必ず良くなるとは限りません。 キックの定位をLFOで左右に揺らしてみたり、 ボーカルを左右に振ってみたりしてもよいでしょう。
EQは特定の周波数帯域を強調(ブースト)したり減退(カット)させる事ができるエフェクターです。 音には、フラット(周波数帯域のでっぱりがなくて平坦)という基準があります。 全パートを鳴らしたとき、フラットになっているとどのような再生機器でも無難に音を鳴らすことができます。 このエフェクターは、基本的に他の楽器とかぶっている帯域と出っ張っている帯域をカットするのと、 ブーストして足りない帯域を補ったり音色を変化させたりする目的で使います。 また、Q広めでカットして遠近感を出すこともできます。 基本的にEQは、カット方向に使います。ブーストしすぎると音が悪くなりやすいからです。 ですが、必ずしもカットしないといけないわけではなく、ブーストするだけで済ませることも多いです。 EQやパンを駆使してもうまく分離しないときはは編曲や音色に問題があるかもしれません。 もし、そうなったときは思い切って作り直す勇気も必要です。 EQはどんな楽器の調整にも使えます。
EQにはグラフィックEQ(以下グライコ)とパラメトリックEQ(以下パライコ)があります。 グライコは、最初からバンド数とQ幅が決まっているので簡単に音を変えたり、 音の質感を探ったりするのに向いています。 一方パライコは、自分でカットする周波数や帯域幅を設定することができるので 自由度が高く求める音に近づけやすいので、大抵の人はこちらを使います。
フィルターとは特定の周波数をカットするエフェクトである。 音色変化、音質の調整、シンセの音作りに使われる。
20歳までの健康な人は20Hz~20kHzまで音を聞き取ることが出来ると言われています。 人間の可聴帯域のなかで、 150Hzぐらいより下を 低域(Low) 150Hz~250Hzぐらいを 中低域(Low Mid) 250Hz~1kHzぐらいを 中域(Mid) 1kHz~5kHzぐらいを 中高域(Hi Mid) 5kHzぐらい以上を 高域(Hi) と呼びます(人によって違いますが大体こんな感じです)。
まず、低音楽器以外のすべての楽器にハイパス(ローカット)フィルターを通しましょう。 この時のハイパスのカットオフは大体20Hz~80Hzぐらいまでに設定してみましょう。 これにより、低音楽器と音がかぶりにくくなります。
次に、ピークEQを使いましょう。 EQのポイントは 低域 30Hz~50Hz…感じる低音。ラージモニターやサブウーファー、ヘッドホンでないとわからない。 50~80Hz…キックで大切だと言われている低音。 100Hz~…カットするとすっきりしやすい。カットしすぎるとスカスカになる。 中低域 カットするとモヤモヤした感じがなくなりすっきりする。Qはわりと広めでも大丈夫。 この帯域を削るとうまく分離することが多い。カットしすぎるとスカスカになるので、削る楽器と、残すorブーストする楽器を考えよう。 中域 人間の声の主な帯域。 ボーカルとかぶる楽器はこの帯域をEQでカットしたり、左右に振り分けてしまいましょう。 カットしすぎるとスカスカになるので程々に。 中高域 キックやスネア、タムなどの皮の音の帯域。アタック感やきらびやかさに関わる部分でもある。 カットして音を太くしたり、質感を調整することも出来る。 ついついブーストしすぎやすいので気をつけたい。 高域 音の空気感やきらびやかさに関わる部分。 キンキンしてうるさいときはQを狭くして5kHz~6kHzを削ってみよう。 意外にこの帯域が出ていることに気づくでしょう。 ただし、やりすぎると空気感を失ってしまうので程々に。 リバーブ音のこの帯域を削ってみるのもよいでしょう。
ローパスフィルターやハイシェルビングEQは高い周波数帯域を削るのに向いています。 ボーカルやドラムの金物、シンセなどの高域が煩い時は、 ローパスフィルタで削るとよいでしょう。ハイシェルビングEQでも構いません。 また、音は遠くで聴くと高域が減衰して聞こえます。 つまり、ローパスフィルターで高域を削ることによって音を奥に引っ込ませることができます。 パッドや白玉ストリングスで試してみるとよいでしょう。 リバーブの音をローパスフィルターで削ってみるのもよいでしょう。
市販のCDを聞いていて、CDによって全体の音量が違うと感じたことはありませんか? それは、楽曲によって音圧が違うからなのです。 コンプやリミッターは一定以上の入力信号(音量)になったとき、 音を圧縮して無理やり音を小さくするエフェクトです。 普通、完成した音源は書き出す際にノーマライズをして 音源のピーク(最大音量)が0dbを超えない程度に全体の音量をあげます。 なぜ0dbかというと0dbを超える入力信号は飽和して、音が割れるからです。 ※音が割れることをクリップとも言います。 この時、ピーク(最大音量)が出っ張っていないとより全体の音量を上げやすくなりますよね? このように聴感上の音量を上げることを音圧を上げるといいます。 コンプレッサーやリミッターは、音圧を上げる、質感やエンベロープを調整することに使われます。
コンプは上のパラメータがほとんど付いてくるエフェクトです。 リミッターはRatioが1:∞で、ピークのみ圧縮をするというエフェクトです。 リミッターはマスターに挿して全体の音圧を調整するのに向いています。
音を圧縮することで以下のようなメリットがあります。 ・ぱっと聞いてみた感じの迫力が増す ・ダイナミックレンジ(強弱の幅)が狭くなり聴きやすくできる ・エンベロープや質感を調整することによりカッコ良くなる ・音の奥行きを調整できる しかし、圧縮しすぎると以下のようなデメリットも生じます。 ・ダイナミクス(強弱)がなくなり、迫力がなくなる。 ・音圧が上がりすぎてうるさくなる。 ・アタックが強調されすぎてパツパツした音になる。 ・ポンピング(音量の揺れ)が発生する。 ・音の密度が上がり詰まった音になる。 ・音の立体感や奥行きがなくなる。 音圧を上げるとぱっと聴いた感じの迫力がでます。 ですから、JPOPやテレビの放送、ニコニコ動画の大抵の曲では 一般の人にインパクトを与えるためにかなり音圧を上げます。 ですが、必ずしも圧縮しまくれば良くなるというものではありません。 大抵オーケストラではコンプを使うことはありません。 表現力や立体感を重視した結果なのです。 良く考えて使うことを心がけましょう。
スレッショルド 最近のコンプはゲインリダクション(どの程度圧縮しているか)を 表示できるものが多いので、それを見ながら音量が大きめの時に どの程度圧縮しているかを参考に設定するとよいでしょう。 深いとポンピング(音量の揺れ)が起こりやすいですです。 また、アタックとリリースの効果をわかりやすくするために、 最初は深めに設定して後で調整するやり方でも構いません。 アタック/リリース 次にアタックとリリースを設定しましょう。 音が篭っている感じたらアタックを遅くしてみましょう。 リリースは早くしすぎても長くしすぎると、 ポンピング(音量の揺れ)が生じてしまいます。 スラップベースやドラムではポンピングさせたほうがカッコ良くなることがありますが、 そういう音が好きじゃないのならアタック/リリースを調整していきましょう。 レシオ レシオは質感やエンベロープに関わってきます。 できるだけ質感を変化させたくないのであればこのパラメータを低くしましょう。
ディレイとは分かりやすく言うと「やまびこ」です。 つまり、反射して聞こえる音(残響)を再現したエフェクトです。
リバーブは部屋の残響を再現したエフェクトです。 簡単にいえばいろんな種類のディレイが集まったものです。 リバーブでリアルな残響を得ることは出来ますが、 ディレイは音色づくりに欠かせないのものです。
なんとなく音がしょぼかったり、浮いて聞こえるなぁと思ったときはディレイを掛けてみましょう。 ディレイは減衰して劣化しているのが自然なのでローパス、ハイパスフィルターで削ってみるとよいでしょう。フィルターはディレイのプラグインにセットでついていることが多いです。 ディレイタイムは、基本四分音符、八分音符、十六分音符で使うことが多いです。 左右別々にディレイタイムを設定してステレオ感を出すのも面白いでしょう。 また、ディレイタイムを極端に短く(ショートディレイ)することで狭い部屋のリバーブみたいにしたり、音に厚みをもたせたりすることもできます。
リバーブは部屋での音の反射、残響を再現するエフェクトです。 簡単にいえば複雑なディレイが集まったものです。 現在IRリバーブという実際の部屋の残響をサンプリングしてリバーブもある。 IRリバーブはリアルな残響を得られるが複雑なアルゴリズムのため非常に重いです。 IRリバーブの登場で他のリバーブが不要と思われるかもしれないですが それでは得られない響きがあるため、現在も様々なリバーブが使われています。
現在使われている主なリバーブの種類
主な残響の種類
リバーブはパラメータの種類が多すぎるので主なものだけを取り上げます。
リバーブは設定が難しいのでプリセットを使っても良いです。 積極的にディレイと組み合わせて使っていくとよいでしょう。 また、音が濁っていると感じたときはプリディレイを調整してみましょう。 リバーブを使うと音が引っ込むようになります。 そのため、リバーブはステレオ感や奥行きを作ったり、楽器を空間になじませる大切なアイテムです。 Wetの量を多くしたり残響を長くすればするほど引っ込んでいきます。 あと、色々な種類の残響を同時に鳴らすのは控えると無難になります。 演奏は普通1つの空間で聴くので、いろんな残響があると不自然ですよね? 最近の曲の傾向として、あまりリバーブをかけないドライなミックスが増えてきています。 ドライなミックスにすると奥行きや広がりがなくなり、聞きにくい音になってしまいます。 初心者はかけ過ぎを恐れてドライにしがちなので気をつけましょう。 しかし、必ずしもリバーブを使うことが良いことではありません。 音が前に出なくなる、キレが悪くなるなどのデメリットもあります。 実際に、音に迫力を出すためにリバーブを一切使っていないロックの名曲もあります。
フランジャーは、もともと回転中のテープを指で触って回転を遅らせることで起こる フランジングという現象を電気回路で再現したものである。 今ではエレキギターの定番エフェクトとなっている。 仕組みはディレイを使ったもので 原音とディレイを混ぜるのだが、ディレイタイムをLFOで変化させるのが特徴。 そうすることによって位相と音程が変化した音がずれた音が得られる。 コーラスは、原理はほぼ同じでディレイタイムがフランジャーに比べて長いのが特徴。
フランジャーは、調整に使うものではなく音色変化に使うものです。 どのような楽器にも使えるので積極的に使いましょう。 コーラスは、名前の通り集団で歌ったり演奏した時の音を再現するエフェクトです。 楽器は、一つ一つ音程や発音するタイミングが微妙に違いますよね。 ひとつずつ聞くと似たようなものですが、それが集まると厚みのある音になります。 また、コーラスは厚みを出すだけでなく、ステレオ感を出すのにも使います。 何か左右の広がりが足りない…と思ったらコーラスを使ってみましょう。
フェイザーもフランジャーやコーラスと同じく音色変化につかうエフェクトです。 前述のコーラス、フランジャーとは異なり、フェイザーは原音の位相(phase)をずらした音を重ねることで揺らぎを生じさせます。 両波形を合成することで、位相のずれ具合によって打ち消し合う周波数と同調する周波数を発生させて、音質を変化させるという原理です。 と言ってもわかりづらいので感覚的に言うと、ショワショワした音になります。 他のエフェクトと異なる注意点としては、原音と位相をずらした音を合成して効果を作り出すエフェクトであるため、Wetを100%に近付けてもエフェクトのかかりが大きくなるとは限りません。(この辺はプラグインの仕様によって異なるかも)
余談ですが、ノッチフィルターの周波数をぐりぐり動かすことでフェイザーと似たような効果を得ることができます。
1.ノイズゲート→サチュレーション→EQ/フィルター→コンプ→(歪み系→)EQ→モジュレーション系→ディレイ→リバーブ もしくは 2.ノイズゲート→サチュレーション→コンプ→(歪み系→)EQ/フィルター→モジュレーション系→ディレイ→リバーブ という順番が無難になりやすいです。 1でなぜコンプの前にEQをかけるかというとEQで不可聴帯域と出っ張りを抑えると綺麗に音圧を上げやすいからです。また、コンプでどの帯域をどれくらい潰すかをEQで調整することによって積極的な音色変化にも使えるという理由もあります。 2でコンプの後にEQをかける理由は、EQで1のように帯域ごとの潰れ具合を変化をさせないことでイコライジングが簡単になるからです。基本的に生キックの100Hzみたいなうるさい周波数ピークが無い限りは2の順番でやると綺麗に仕上げやすいです。 ノイズゲートを最初に挿す理由は、全体のレベルを上げたあとだとダイナミックレンジが無くなってノイズが除去できなくなってしまうからです。 次にサチュレーションである理由は、倍音が付加され立ち上がりが甘くなるのでコンプEQは後にした方調整しやすいからです。逆にコンプのあとに挿すことによってパツパツ感をなくすことも出来ます。 歪み系がコンプより後になっている理由は、強弱ががありすぎるソースで歪ませるとき、綺麗さを重視しようとすると音が小さい部分はあまり歪まなくなりますし、小さい部分も歪ませようとすると汚くなってしまうからです。 空間系エフェクトが最後に鳴っている理由は不自然になりやすいからです。普段我々は楽器の振動を空間で響いた音を聴いていますよね。 この通りにやれば音楽的な音になるとは限らないので色々なセッティングを試してみましょう。