カコノミライとキカイの歌

作曲/mayuko
作詞/mayuko

目覚めたらそう 僕はキカイに囲まれていて
”チクタク”が全てのセカイにさ 迷い込んだみたいだねと他人事のように呟いた

覗いたのはとても小さなふたつのめだま
”チクタク”と軽い音を立てて とても小さなてのひらを僕にそっと伸ばしたんだ

「――――――」
「わからないよ。sorry.君は誰?」
「――――――」
「わからないよ。sorry...sorry......」

”チクタク”と軋む音を立てて
例えるならば ”小首”を傾げた小さなキカイは背中を向けた
さび付いた車輪を重そうに引きずって
ゆがんだ扉を開いて 何かを取り出して振り向いた

それは一冊の古ぼけた絵本で 懐かしい物語のお姫様が色あせた笑顔で僕を見ていた

ページをめくる小さな手が 笑う少女を指差して
覗き込んだ僕を見て同じ手で僕を指差した
首を振った僕の手が 笑う少年を指せば
”チクタク”と音を立てておそらくキカイも微笑んだ

最初からそう 僕はキカイに囲まれていて
”チクタク”が全てのセカイをさ 疑問に思うこともなくて 当たり前に幸せだったよ

見つけたのは とても大きなひとつのナニカ
”トクトク”と軽い音を立てて とても大きなてのひらで僕にそっと触れたんだ

「ねえ、あなたのおなまえをおしえてよ」
「――――――」
「ねぇ、そのきれいなことばをしりたいの」
「――――――」

”トクトク”と柔い音を立てて
例えるならば ”小首”を傾げた大きなナニカは言葉をやめた
さび付いた部品の悲鳴から逃げるように
ナニカによく似た形の並んだ型録(カタログ)を差し出した

ずっと昔に描かれた姿は いつの日か辿り着く未来の予想図だと誰もが信じていたのに

ページをめくる大きな手が不思議な形をたどって
覗き込んだ僕を見て 優しげな声でささやいた
なぞるように歌いだす僕の声が重なれば
”トクトク”と音を立てて おそらくナニカも微笑んだ

そうして時が経ち 少しだけ手に入れた事実によると
このセカイに僕みたいな”ナマモノ”はいないらしい

産まれ落ちたその時に彼らの時間は止まり【産まれ落ちたその時に僕らの時間は止まり】
育つことの無い体をキカイに押し込んで【育つことの無い体をキカイに押し込んで】
とても短いイノチを 「”チクタク”と」【”チクタク”と】
その小さなカラダに刻むんだ 【この小さなカラダに刻むんだ】

僕たちの軋む歌声が同じ音に重なるたび ココロに映ったセカイは形をかえた
歯車の隙間をひとつずつ埋めるように 悲しい未来と寂しい過去を紡いでは組み立てた

それは儚く切なげな響きで いつの日か近づけるようにと願いを込めて君を呼ぶよ
”カコノミライ”と

僕が望んだ未来がおそらくは君の姿で ちぐはぐに掛け違えた行き先を笑い飛ばすんだ
色あせた物語に違うおしまいがきても
しわくちゃとさびだらけの手をつないで ただ歌うんだ

君の過去も僕の未来もキカイに飲み込まれたけど
先に止まる僕はせめて 君の言葉も君のシアワセも守ってみせるよ

(ずっとふたりで歌えたら そんな夢は隠しておくよ)

最終更新:2012年10月14日 00:48