てっぺい覚醒

私、竜宮レナは間宮リナを殺した。
ゴミ山を懐中電灯を片手に大柄な男と登って行く。
あとは……この男、北条鉄平を殺せば、私はまたあの日常に帰れる。
でも、私はこの最低男に、言いようもないほどの恐怖と屈辱を味わわせてから殺ス事にした。
「鉄平さん」
「あん、なんね?」
私は鉄平に呼びかけると、
「ほら、リナさんですよ」
「!?」
私が懐中電灯を照らした先には、まぎれもなくリナがいた。
いや、リナであったもの、か……
鉄平は咥えていたタバコをポロリと落とし、口をぱくぱくとさせていた。


わし、北条鉄平はリナの血まみれの塊をただただ、見つめていた。
そのとき、頬に伝う暖かい雫。
あれ、あれ、あれ、あれ……どうして、涙が……

「先に言っとく。わしは家事のやり方は知らない。女に任してたからな」
「だ、大丈夫ですわ、叔父さま。私が……全部やりますから」
やがて、食卓に並んでいく食事。
だが沙都子が作ってくれた晩飯をわしはどうした!?

べしゃ! ぐしゃ! べちゃ!
くさいと言ったんだ!
沙都子が家事の出来ないわしの為に作ってくれた晩飯を穢したんだ!

「飯がくさいんね! それはお前がくさいからじゃ! 沙都子、お前、風呂に1万秒入ってこんしゃあ!」
「そ、そんな……うっく、ひどいですわ……おじさま……」
「ちゃんと声を出して数えるんね。誤魔化したらわかっとるんなぁ!? 家族の中にくさい奴がおったら、飯なんか喰えんのじゃあ!」
気がつけば沙都子は、眼に涙を浮かべていた。
せっかくわしの為に夕食を作ったのに、どうしてこんな事を言われるのかわからないのだ。
うおおおおおおぉおおおおおぉおおお!!
わしは……わしは、家族という言葉を振りかざして何をやってたんだよぉおおおおぉおぉおお!!!
家族ってなんだよ、家族ってなんだよ、わしにとっての家族って何だったんだよッ!!

……本当の家族だった。
家事の出来ないわしの事を心底案じて、食事を作ってくれたんだ。
わしは何が不満だったんだ!?
何が気に入らなかったんだ!?
どうしてこんな言葉をぶつけられるのかわからない沙都子の痛みが、こんなにも伝わってくる。
こんなにも悲しい瞳を向けられて、どうしてわしはそんな痛みにも気づけないんだよ!?

「そうだった……わしは……屑だったんだ……」

「鉄っちゃんさあ、私が居なくなったらどうするわけ?」
律子の言葉に、わしは眼を見開いた。
「鉄っちゃんの食い扶持は、ぜーんぶ私が稼いでるんだよ? あーあ、雛見沢のダンナに乗り換えちゃおっかなー」
「な、なんね、律子! わしに惚れとったんじゃなかったんね!?」
「……あはは、鉄っちゃん、大丈夫だよ」
律子はそう言って、わしの脂ぎった頭を撫でるようにして言った。
「……私を、信じて」
信じて。私を信じて。律子はその晩、何度も呪文のように唱えていた。

……その律子が、眼の前で均整の取れた身体を変な方向にひしゃげさせらていて。

そもそも、どうして律子はわしの足元で血まみれになって倒れている?
律子がここに来なければ、律子は死ななかった?
……ハハ。やっぱり、わしのせいなんかじゃないんだ。
律子が死んだのは……わしのせいなんかじゃ……

何言ってやがんだよぉぉおおおぉおおおお! 自分の所為だって覚えてるじゃないかよおぉおお!
どうしてどうして、ここまで救えないクズなんだよおおおお!!
わしは、律子が「信じて」と言った晩に自分の言った言葉を思い出していた。

「わしは律子が居るから安心じゃあ! 律子と一緒に美人局してれば、一生遊んで暮らせるんじゃあ!」
「雛見沢のダンナを……律子! 絶対に落としてくるんね! そうでなきゃ、わし、死んじゃう☆」
「さあ、早く行きんしゃあ! 今日で絶対決着着けるでぇ!」


馬鹿野郎おおぉぉぉぉおおおおお!
馬鹿野郎! 馬鹿野郎! 馬鹿野郎! 馬鹿野郎!
わしが……ヒモなんかじゃなかったら、律子は死ななかった!
わしは家族の事も、律子の事も考えられない馬鹿野郎だった……
「わしは……わしは……何てことをしてしまったんじゃ……沙都子を……律子を、殺してしまった」

頭の中に、なぜか少女の声が響いて問いかけてきた。
「鉄平……あなたの罪に気づきましたのですか」
なんだか、彼女はわしの罪を聞いてくれる気がした。もちろん、許されるわけではない。
「そうじゃ! わしが……殺したんだ! 殺したんしゃああ! こんなにも……血が…いっぱい、出て……うぁああああ!!」
「……ならば、どうすれば鉄平は許されると思いますか?」
わしは、少ない知恵を絞って必死に考えた。死ぬほど考えた。
……確か、この世界では。わしはこの後、この目の前の少女に頭をかち割られて死ぬ。
罪は、死ねば消える訳ではない。足掻いて、足掻いて、罪を背負って行き続ける事が、贖罪なんね。
……わしは、生きる。そして沙都子に言わなければならない事がある。

すまなかった。本当にすまなかった。そして、晩飯、うまかったんね。本当に……うまかったんね。
わしは……沙都子を……いや、家族を! 二度と傷つけない! 絶対ね! 約束するんね!

抱きしめて……こう、言ってやるんしゃぁ。

「……この世界は、もうおかしくなっちまった。
 でも、諦めていいなんて事はないんじゃ。せめて……目の前のこの少女の目は……わしが醒ます」
「今のあなたになら、その目の前の少女、竜宮レナがどういう事になっているのかわかるはず」
「ああ。あの時のわしと同じだ。家族の事を信じたくて信じたくてしょうがないのに、信じられないんさぁ!!」
家族を家畜だなんて思うような子になってしまう事は、させない。
あの時のわしと同じ過ちは……繰り返させない!


もう……十分か。
私、竜宮レナはゆっくりと、足元に用意していた斧を振りかぶる……!
確実に吟味した間合い。しかも鉄平はリナの死にショックを受けている。
安心して。一撃で叩き割ってあげる。
そして……ついに私は二人目の殺人を犯そうと鉄平の頭に斧を振り下ろす!
だが――
ヒュ! 勢いよく空を切る音だけが聞こえ、私は斧を空ぶっていた。
鉄平は私の攻撃を瞬時に回避していた。
「なっ!?」
「……この、間合い……。覚えとる。覚えてるんよ。そう、何度も殺されてたまるかってええ!」
鉄平はそう言って私に体当たりをかましてくる。
体格差のありすぎる私の体は、簡単に宙に舞い、手に持っていた斧が手放される!
「きゃあっ!」
そして、鉄平は私の身体の上にのしかかってくる!
ビリビリッ!
着ていたワンピースが力任せに引き裂かれていく……
「い、いやあ! 放して! こんなっ、お前みたいな最低男に!」
「……大丈夫。わしを、信じて」
(省略されました。続きを読みたい人もtmtkしないでください)

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最終更新:2007年08月01日 20:52