偏心軸で斜面をすべる円板
鉛直に立てた2枚の三角板にはさまれた円板が,偏心軸で三角板の斜辺にぶらさがってすべる運動について。T大学工学部の院試の過去問だが,Algodooシミュレーションによってその「不備」が浮かび上がった。Yahoo!知恵袋より。

【問題】抜粋 実物はこちら

図のように,2枚の合同な三角平板が重ねて鉛直に固定され,そのすきまにはさまれた質量m,半径aの円板が,中心からhだけ離れた太さと質量が無視できる垂直軸によって,傾角\thetaの三角板の斜辺にぶらさがって摩擦なくすべりおりる。



軸とともに運動する座標系(x^\prime,y^\prime)において円板が静止するような特別な条件ですべっている場合,

(1) 軸が斜面から受ける抗力の大きさをRとして,慣性系(x,y)において円板の重心Oのx方向,y方向の運動方程式を立てよ。

(2) 軸が受ける抗力の大きさRを求めよ。

次に軸まわりの円板の微小振動を考える。

(3) 振動の周期Tを求めよ。ただし,軸の加速度の変化は無視し,軸まわりの円板の慣性モーメントをIとせよ。

【解答】

(1)

m\ddot{x} = -R\sin\theta

m\ddot{y} = R\cos\theta - mg

(2)

束縛条件

\frac{\ddot{y}}{\ddot{x}} = \tan\theta

に(1)の結果を用いて,

\frac{R\cos\theta - mg}{-R\sin\theta} = \tan\theta

\therefore R = mg\cos\theta

座標系(x^\prime,y^\prime)から見ると,慣性力を含む力のつり合いおよび力のモーメントのつり合いにより,円板の加速度はg\sin\thetaであり,AOは斜面に垂直であることがわかる。

(3)



座標系(x^\prime,y^\prime)における慣性力を含む「みかけの重力加速度」は,斜面に垂直にg\cos\thetaである。

円板の重心と軸を結ぶAOの,座標系(x^\prime,y^\prime)における上記の「静止位置」からの微小角変位を\phiとすると,軸まわりの回転の運動方程式は,

I\ddot{\phi} = -mg\cos\theta\times h \phi

となり,微小振動の周期

T = 2\pi\sqrt{\frac{I}{mgh\cos\theta}

を得る。

I = \frac{1}{2}ma^2 + mh^2

を用いると,

T = 2\pi\sqrt{\frac{a^2 + 2h^2}{2gh\cos\theta}}

となる。

と,ここまで解いてAlogodooでシミュレートしてみた。すると,どうしても周期が合わない。たいていシミュレーション結果が合わない場合は,計算ミスであることが多いが,精査してもミスはみつからない。そのうち,シミュレーションによる周期は

T = 2\pi\sqrt{\frac{I_0}{mgh\cos\theta}

であることに気づいた。ここに,

I_0 = \frac{1}{2}ma^2

は,円板の重心まわりの慣性モーメントである。

そして,問題の展開をよくよく追跡してみると,このくいちがいは問題そのものの「不備」によって生じたものであることがわかった。実際は,軸の加速度は変化しなければならず,加速度が変化しないのは重心Oの(斜面方向成分の)方である。したがって,回転の運動方程式は重心まわりに立てなければならず,用いるべき慣性モーメントはI_0となるのである。

軸の加速度を変化しないものとする「近似」をとるのであれば,軸の質量は無視するのではなく,円板より十分大きいとすべきであった。そうすれば,斜面をすべる実験室内の振子でも論じたように,斜面を等加速度ですべる実験室内に「固定」された軸まわりの微小振動を考えることができ,その場合には軸まわりの慣性モーメントIが使えることになる。Algodooによるシミュレーションでも,軸の質量を十分大きくとってやると,周期は(3)の結果に一致を見たのである。

軸の質量を無視したことと,(3)において軸の加速度の変化を無視できるとしたことは,互いに矛盾する「簡略化」であり,無茶な題意に踏み込んでいると言わざるを得ない。

あらためて運動方程式を立ててみる。斜面下方をx方向,斜面に垂直上方をy方向とする。重心の運動方程式は,

m\ddot{x} = mg\sin\theta

m\ddot{y} = R - mg\cos\theta

重心まわりの回転の運動方程式は,角変位\phiを微小であるとして

I_0\ddot{\phi} = -Rh\phi

ここで

R = mg\cos\theta

で一定であるとするのは,y方向の加速度が小さいことから許される近似であろう。すると,微小振動の周期は

T = 2\pi\sqrt{\frac{I_0}{mgh\cos\theta}}

となる。密度一様な円板では,

T = \frac{2\pi a}{\sqrt{2gh\cos\theta}}

を得る。Algodooシーンの設定は,

a = 10{\rm [m]}, h = 6{\rm [m]}, \theta = \pi/3

で,理論値は8.2sec. シミュレーション値は8.1sec. であった。また,軸の質量を円板に比べて十分大きくすると,理論値は10.7sec. シミュレーション値は10.9秒であった。



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最終更新:2011年10月19日 16:50