雪崩の単純化モデルについて
以前,雪崩の単純化モデルについて考察したことがあった。同様の問題がYahoo!知恵袋に現れ,リンクを紹介したところ,「巻き取りモデル」へのご批判をいただき,考察を深めてみた。

まずは,雪崩の単純化モデルを再掲。

【問題】
水平と\alphaの角をなす斜面に一様に積もった雪が上部から次々に積み重なりながら落ちるときの雪崩の加速度を求めよ。雪塊の大きさは無視し,すべりはないものとする。


雪崩が起き始まる位置を原点として斜面下方にx軸をとる。
雪の密度を\rho,雪崩を起こす積雪の断面積をSとすると,雪崩の位置がx(t)のとき雪塊の質量は,
m = \rho Sx.
この雪塊が微小時間dtの間に,長さdx=\dot{x}dt,質量
dm = \rho S dx
の雪を巻き込みながら進む。

これは,基本的に完全非弾性衝突=合体と考えることができる。
このとき,運動量-力積関係は
m\dot{x} + mg\sin\alpha\cdot dt = (m+dm)(\dot{x}+d\dot{x})
となる。両辺をdtで割って2次の微少量を落として整理すれば,
m \ddot{x} + \dot{x}\dot{m} = mg\sin\alpha
上のm,dmを用いてさらに
\ddot{x} + \frac{\dot{x}^2}{x} = g\sin\alpha
ここで,一定の加速度a=\ddot{x}を仮定すると
\dot{x}=at,\quad x=\frac{1}{2}at^2
だから,
3a = g\sin\alpha
すなわち,
a = \frac{1}{3}g\sin\alpha
を得る。

上のモデルは,非弾性衝突モデルで衝突による力学的エネルギーの散逸を前提としているが,雪塊を半径rの円筒と考えて,斜面を転がって積雪を巻き取りながら降りていくモデルも考えることができる。「かぎしっぽ」でyamaさんに教わった。

円筒の慣性モーメントは,
I = \frac{1}{2}mr^2
で,力学的エネルギー保存により,
\frac{1}{2}mgx\sin\alpha = \frac{1}{2}I\omega^2+\frac{1}{2}m\dot{x}^2
すべりのない転がり\dot{x}=r\omegaを仮定して整理すると,
gx\sin\alpha = \frac{3}{2}\dot{x}^2
となり,上と同様に
\dot{x}=at,\quad x=\frac{1}{2}at^2
を考慮して,
a = \frac{1}{3}g\sin\alpha
を得る。

非弾性衝突モデルで散逸する力学的エネルギーは,巻き取りモデルにおいては回転の運動エネルギーに相等するわけである。どちらも運動量-力積関係に違いはないから当然とはいえ,興味深い結果といえる。

これらのモデルは,多分あまり役に立たないかもしれないが,雪崩の雪塊の加速度の上限(?)を与えるものといえるだろう。もっとも,安全値は
a = g\sin\alpha
かもしれない。部分的に切り離された雪塊が,雪面上をほとんど摩擦なくすべってわれわれを襲ってくるかもしれないからである。

※ いずれのモデルにおいても,積雪の深さは降下距離xに対して無視できるものとしている。
(再掲終わり)

この回転を考慮した後半部分は,知恵袋の回答には無関係だが,非弾性衝突モデルにおける散逸と回転エネルギーへの変換が等しくなったのは偶然であるとするご批判をいただいた。批判にはやや的外れの内容が含まれているように思われるが,慣性モーメントを

I = \frac{1}{2}mr^2

とおく必然性もないので,「偶然」という批判はごもっとも。

散逸のない「巻き取りモデル」がどのような運動方程式をもつべきか検討してみた。

位置xにおける慣性モーメントを
I = \gamma\rho x r^2
とおく。ただし,こちらではx方向単位長当たり質量を\rhoとしている。

系(雪塊と巻き取られていく雪の全体)のラグランジアンは

L = \frac{1}{2}\rho(1+\gamma)x{\dot{x}}^2 + \frac{1}{2}\rho g({x_0}^2+x^2)\sin\alpha

ここでx_0は巻き取られる雪全体の長さである。
係数および定数項をのぞいて

L^\prime = (1+\gamma)x{\dot{x}}^2 + x^2g \sin\alpha

運動方程式は

\ddot{x} + \frac{{\dot{x}}^2}{2x} = \frac{g \sin\alpha}{1+\gamma}

\ddot{x}=a,\dot{x}=at,x=at^2/2 を仮定して

a = \frac{g \sin\alpha}{2(1+\gamma)}

\gamma=1/2 のとき,「偶然」に回転を考慮しないモデルに一致することがわかる。
もちろん,この結果は力学的エネルギー保存から得られる結果と一致する。

\frac{1}{2} mgx \sin\alpha= \frac{1+\gamma}{2} m{\dot{x}}^2

\dot{x} = at,x=at^2/2 を仮定すると

a = \frac{g \sin\alpha}{2(1+\gamma)}

を得る。

ただし,こうした散逸のないモデルが仮想上であるとはいえ可能であるかどうかは,検討の余地を残している。質量の付加がそれ自体としての並進運動エネルギーの減少を決定するが,その減少分を回転が引き受けるようなシステムは考えにくい。


\gamma=1がむしろ自然かもしれない。シミュレーションでは散逸なしは望めないが,ある程度低く抑えたものができた。
\gamma=1,\alpha=\pi/12の設定で加速度の理論値はa=0.63である。


最終更新:2013年01月24日 18:57