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「友奈ちゃん、その縛り方じゃ駄目よ。血流が止まって足が壊死してしまうわ」
「ええ!?そ、そんなの駄目だよ!えっと、こうして…」
「そう、そうやって遊びの部分を作ってくれたら大丈夫」
どんなことにも一生懸命に取り組む友奈ちゃんを見るのが好き
まだ足が動かなかった頃、彼女は私がやろうとしてもできないことを叶えてくれるヒーローだった
友奈ちゃんが頑張ると私も頑張っている様に思えて、懸命にその努力を支えてきた
そんな私たちが今、何をしているかというと…
「で、できたー!東郷さん、苦しくない?」
「うん、大丈夫。痛くないけど動けない…理想的な縛り方だと思うわ」
2人で『私を監禁』している途中だ―――

私の足が動くようになり、友奈ちゃんの足も動くようになった
車椅子を通じた特別な時間は終わりを告げて、私たちは隣に並んで歩いていけるようになった
けれど友奈ちゃんが時々寂しそうというか…私が自由に歩いているのを複雑な目で見つめていることがあった
他人の喜びを自分のことのように共有できるのが友奈ちゃんだから、私が歩けるようになったことが嬉しくないはずがない
でも一緒に過ごしていても、それこそ互いをいつも見詰めていても、埋められないかつての密さの溝は確かにあって
2人での帰り道、急に友奈ちゃんが私の後ろに回って「ごめんね東郷さん」という声が聞こえて…

「そ、それじゃあ…えーと…東郷さんは、今日からここで暮らすんだからね!」
…今に至るという訳だ
友奈ちゃんは精一杯『悪そうな顔』をしているのだろうけど、元々そういう表情ができる子じゃないので困っているように見える
正直とっても愛らしい…自分を監禁しようとしている相手に抱く感情として適切かは解らないけど友奈ちゃんだから問題ない
「解ったわ、友奈ちゃん。これからずっと、ずっとずっとよろしくね」
「…いいの?」
監禁した方がどうにも気弱で、閉じ込められた私は乗り気というのも何だか変な感じだ
元々大赦絡みで母との関係が少しぎくしゃくしていたので、中学を出たら友奈ちゃんを誘ってルームシェアをしようと思っていた
わたしにとってはそれが少し早まった程度の認識なのだけど、やっぱり友奈ちゃんには罪悪感があるらしい

「これから他の友達にも会えないんだよ?勇者部のみんなにも会えないし、家族だって。私しか、いなくなっちゃうんだよ…?」
「それの何が問題なの?」
口ではそう言いながら、当然私の胸にも痛みはある
風先輩や樹ちゃん、夏凛ちゃん、『彼女』、大切な友達に少なくともしばらく会えなくなるのは辛い
友奈ちゃんが一番大事、けれど彼女達は思った以上に私にとって心の比重の多くを占めていたようだ
「友奈ちゃんに独占されて、嬉しいよ」
それでも私は、はっきりと迷いのない口調で友奈ちゃんにそう告げた

「とーごーさーん…!」
「もう、友奈ちゃん…監禁してる相手に泣きつくなんて聞いたことが無いわ」
「大事にするからね!これからずっと大事にするからね!
 そうだ!今日は東郷さんの好きな夕飯を作ろう!一緒に買い物に行って…」
「友奈ちゃん、それはもう監禁じゃないと思うんだけど…私が里心を出して逃げてしまったらどうするの?」
「そ、それは困るかも…」
友奈ちゃんは突発的にやってしまったらしく、どうにも計画が朧なままらしい
この生活は私が支えて行かないと…縛られた足を愛しく撫でながらそう決意した

―――実は私の方が友奈ちゃんを捕まえているんじゃないだろうか、とふと思う
でも友奈ちゃんが喜んでくれている、それならどっちでも構わないと思いなおした

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最終更新:2015年02月08日 22:33