4・815

「あれ、東郷さん?」
「ゆ、友奈ちゃん!?」
朝のランニングを初めて今日で6日目、私と同じくジャージ姿の友奈ちゃんと玄関を出た所で遭遇した
「東郷さんもランニング?私もね、今日から再開しようと思って!道場にも昨日からまた通ってるんだよ」
「そ、そう…」
友奈ちゃんが早朝ランニングしているのは聞いて居たけど、6日の間遭遇しなかったから、
まだ大事を取って休んでいるか時間帯が違うかだと思っていた
「良かったら一緒に走らない?えへへ、一緒に歩けるようにはなったけど走るのは初めてだね!」
そんな可愛い顔で誘わないで友奈ちゃん、よこしまな目的のある私には辛いから…

断れるはずも無く、結局友奈ちゃんと朝の清浄な空気の中を並んで走ることになった
まだリハビリ中とは言え、基礎体力のある友奈ちゃんと歩けない期間の長かった私とは、
大分ペースに違いがある…私に合わせてゆっくりめに走ってくれるのが嬉しくも申し訳ない
そう、体力だ。早朝ランニングを始めたのは体力をつけたかったからだった

それは勇者部への依頼で、久しぶりに幼稚園でやる人形劇のシナリオを考えていた時のこと
「今回も勇者と魔王と、後お姫様も出してみましょう!」
夏凛ちゃんが勇者部に加わり、私の足も回復したことで演者の枠が広がったことから風先輩がそう提案した
「お姫様ねえ。勇者部だったら東郷か樹のイメージね」
「わ、私がお姫様とか、恥ずかしいです///」
「と、うちのお姫様が申しております」
風先輩にからかわれて真っ赤になる樹ちゃん、確かに彼女はお姫様っぽいと思う
私はどちらかと言うと魔王かも…とそんな事を考えていると、友奈ちゃんがぽつりとこう呟いた
「でもちょっと憧れるよね、お姫様。お姫様だっことか!」
…きっと他人が聞いたら笑うか、そうでないなら引いてしまうだろう
けれど私はその一言で奮起し、こうして基礎体力向上に努めているのだ
『友奈ちゃんをお姫様だっこする』
ただその為だけに…だからできれば友奈ちゃんに内緒で進めたかったのだけど

「あっ…!」
いらないことを考えていたせいだろう、歩調が乱れて足に変な負荷がかかった
思わずその場にしゃがみ込んでしまう、捻ってはいないけど鈍い痛みがあった
「大丈夫、東郷さん!」
慌てて友奈ちゃんが私の顔を覗きこんでくる
私は情けないやらしんどいやら友奈ちゃん可愛いやらで顔が真っ赤になって何も言えない

「痛いの?大丈夫、任せて!」
歩けば大丈夫、と何とか口にしようとした直後、私の体がふわりと浮きあがった
―――もしやこれは
「東郷さんは羽みたいに軽いなあ♪」
笑顔でそう言いながら友奈ちゃんが走り出す、私を抱えているのにさっきより速い
私がしてあげるつもりだったのにお姫様だっこされてしまうなんて、恥ずかしい、ひたすら恥ずかしい
でもそれ以上に友奈ちゃんのぬくもりや優しさが嬉しくて何も考えられなくなってしまう
「早起きは三文の得だね!」
何故か迷惑をかけているはずの友奈ちゃんが、嬉しそうにそう呟いたのが聞こえた

『でもちょっと憧れるよね、お姫様。お姫様だっことか!』
これが『してあげたい』という意味だったと知るのは、もう少し後のことになる

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最終更新:2015年02月08日 22:45