4・989

「ふぃー、アイドルって大変なんだねぇ」
「ローカルアイドルだから少しは楽かなって思ってたら大間違いだったわね」
私たち勇者部がロコドル、いわゆる地方限定アイドル活動を初めて2週間が経った
(西暦の時代にはロコドルフェスタなんてお祭りもあったそうだ、由緒正しい!)
元々は樹ちゃんの本格的なデビューに向けて、勇者部でサポートしようという思い付き
それが何故か事務所に居た市役所の人の目に留まり、樹ちゃんのソロデビューまでの繋ぎとして
それなりにこの辺りでは知られている私たち全員がロコドル活動をすることになってしまった

あくまで繋ぎのはずだったんだけど、蓋を開けてみると中々に盛況だったりする
東郷さんと樹ちゃんは男の人から、風先輩と夏凛ちゃんは女の人から特に人気があるらしい
私?私は…うん、子供には名前を覚えてもらってるよ!
「え~と3時まで休憩で、それから風先輩と夏凛ちゃんと交代して和菓子屋さんのリポート」
「その後は樹ちゃんと3人でバザーの特設ステージね」
「前みたいに歌詞ド忘れしないといいなー、東郷さんには足を向けて寝られないよ」
劇の台詞なら何とか覚えられるけど、歌となるといきなり頭が真っ白になることも珍しくない
アイドル恐るべし、吟遊詩人や踊り子が勇者パーティによくいるのもさもありなん

「あ、東郷さん、それ…」
「うん、ファンレター。休憩の時間中に読んでおいてほしいって。はい、友奈ちゃんの分も」
「そっか、私も読んどこうかな」
覚えたてらしい字で“ゆうなちゃ、みもりちゃ、すき”と書かれた手紙に頬を緩めつつ、
私は東郷さんの様子をちらちらと探る…気になる、すごく気になる
東郷さんは美少女だ、ステージ衣装なんて来ちゃうと動悸を抑えるのが困難になるくらいに
これまでは足のことや勇者のこともあってあまり目立たず暮らしていたけれど、
その美貌とギャップからくる愛らしさが全国(=四国全土)に知れ渡ったたら…
男の人に人気ってことは告白の手紙とか来るのかな?すごいイケメンとかお金持ちからも来たり?…すごく、モヤモヤする

「友奈ちゃん?」
気付けば東郷さんの傍に寄って、その手をギュッと握っていた
「東郷さん、何処かに行っちゃわないでね?何処に行っても追い掛けるけど、できるだけ一緒に居て?」
気弱な私の言葉に東郷さんはキョトンとした顔をして、しばらくしてから笑いだした
「ずっと一緒に居るって約束したじゃない。友奈ちゃんが居てくれる限り、私は絶対離れない」
「東郷さん…」
「あ、いけない!もう交代の時間よ!行きましょう、友奈ちゃん」
手を握ったまま、東郷さんは私を引っ張る様にして駆けだす
…こういうのも新鮮でいいなあ、そう思う私の胸からはモヤモヤが綺麗さっぱり消えていた


おまけ
「あー、疲れた。何で害虫駆除とかアイドルがやらなきゃいかんのよ」
「仕方ないでしょ、そういうの樹や東郷にやらせてもウケが悪いんだから」
「はいはい、夏凛はすっかりこっちに精通しちゃってまあ…あ、ファンレター読まなきゃ」
「また『風お姉様お慕いしております』みたいなのが来てるんじゃない?」
「私の妹は樹だけだ」
「これよ…」
「ん?これって友奈と東郷のファンレター?」
「こら!勝手に見ちゃ駄目よ。まったく2人もこんな所に置いて…道理で遅刻ギリギリに来ると思った」
「…あれ?」
「どうしたのよ、風」
「いや、友奈のファンレター、なんか少なくない?あの子男女問わず人気あるから結構な数来てたはずだけど」
「え?でも私、子供とかお婆ちゃんから貰ったファンレター読んでる姿しか見たことないわよ?」
「…そう言えば、友奈にファンレター届けるのって何時も東郷の役のような気が」
「…それってつまり」
―――2人の視線が、備え付けのテレビに映るステージの様子へ向けられる
美森がこちらに向かって意味深なウィンクをしたような気がした

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最終更新:2015年02月08日 23:05