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「……今ね? 勇者部ってところに入ってるんだけどね~」

陽気な声で、少女は語り掛ける

友の名が刻まれた冷たい石に

「……みんな、良い人でね。優しくて。私の友達になってくれたんだ~」

自分たちを守るために命を賭してくれた

大切で、大好きな親友

「凄く、幸せだよ~ありがとう。ミノさん」

少女は嘘をつく

いや、嘘とは言えないのかもしれない

同級生の友奈も、鷲尾時代の記憶を取り戻した東郷も、夏凜も

後輩の樹も、先輩の風も

みんないい人だと言うのは事実で、仲良くしてくれると言うのも事実で

今、自分が幸せであるということも。事実だった

「だけど……っ」

唇を強く噛んで言葉を止める

言ってはいけない、望んではいけない

そうなれなかったからこそ得られた未来で

そうなったことを望むなんて、死者への冒涜に通ずることだと

少女は抑え込む

「ミノ……さんっ」

言葉の代わりに涙があふれる

あれだけ流しても、まだ。まだ。枯れることを知らない涙

それはきっと、親友が流せなかった分を流そうとしているからだ

「……大好きだよ~」

一緒にいてくれたら、もっと楽しかっただろう。もっと嬉しかっただろう。もっと幸せだっただろう

飲み込んだ言葉は心にあふれて、涙を注ぎ足す

その表情は、幸せそうではなくて

だからなのか、それは訪れた

『園子』

「!」

誰かの声が聞こえたような気がして、少女は振り向く

その瞬間、さぁーっと少女の頬を風が撫でて、涙を攫う

「……………」

それは冷たいはずなのに温かく

誰かに触れられたかのように、優しい感触で

呆気にとられた少女は撫でられた頬に手を当てがって、もう一度。親友に振り向く

その瞳に、涙はなく

「ありがと~ミノさん」

その表情は、明るく

「大好きだよ~」

その笑みは―――幸せそうだった


終わり


園子と銀……それは。永遠に続く恋物語

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最終更新:2015年02月08日 23:33