5・571-625√

―――ベッドの上で、裸の東郷さんが微笑んでいる。
その表情は恥ずかしげではあるけれど拒絶の色は無くて、胸と大切な所を隠した手も簡単に除けられそうで。
私は息を荒くしながら東郷さんの、親友の上に圧し掛かる。自分でも驚くほど頭の中が熱くなっている。
 けれど、友達同士でこういうことをしてもいいんだろうか。
 頭の片隅で小さくそんな考えが点滅する。

『いいのよ、友奈ちゃん』

 エコーがかかったような東郷さんの声。
 でもそれは全然不快じゃ無くて、心地よく心の中に染み込んでくる。

『だって友奈ちゃんは、私のことが好きなんだもの』

 漫画やアニメに出て来る「キレる」という表現。
 あれは怒り以外でも引き起こされるのだと私は知った。
 理性の糸や感情の声を全て振り払って、私は東郷さんの柔らかい肌に―――。


 ―――そこで目が覚めた。
 時計を見ればまだ3時半、東郷さんが起こしてくれるまでまだかなりの時間がある。

「また見ちゃった…」

 ここ数日、私はずっと東郷さんとエッチなことをする…というか、しようとする夢を見ている。
 その唇を奪ってしまいたい。その胸を両手揉みしだきたい。大切な所を独占し尽したい。
 今までだって東郷さんの裸を見る機会は何度かあって、その度に綺麗とは思っていた。
 けれどこんな激しい、食欲にも似たような渇望を覚えるは初めてで。

「東郷さん、ごめん…ごめんなさい…」

 親友を穢してしまったような罪悪感に苛まされながら、私は股間に伸ばしかけていた手を必死で止める。
 東郷さんの夢を見た後、そこを触るとすごくビリビリしてフワフワした気持ちになる。
 けどダメだ、これ以上東郷さんを穢すようなことをするのは、絶対に―――。

『穢すだなんて酷いわ。私は友奈ちゃんが私を想って慰めてくれると、嬉しいのに』

 頭の中の夢の残滓が、都合のいい東郷さんがそんな言葉を囁く。
 ダメ、ダメ、しちゃダメ、こんなことダメ、ダメだよ、東郷さんに悪い、東郷さん、東郷さん…!

 ―――結局その日も東郷さんが“起こして”くれるまで、彼女の名を呼びながら4回もしていた。


「友奈、調子悪そうね…」
「そういう風先輩こそ…」

 勇者部の部室で、私たち2人はぐったりと椅子に寄りかかっていた。
 何しろここ数日寝不足で、しかもその原因(いや、原因はこっちにあるんだけど)と朝から顔を合わせることになる。
 相手への罪悪感、そして夢を見る度に高まる好意、その裏に貼り付く“夢の中のようなことがしたい”という欲望。
 それを気付かれない様に必死に振る舞っていると、放課後にはもうぐったりしてしまうのだった。

「風先輩は、その…やっぱり、同じ夢を?」
「うん…」

 私たちが同じ様な夢を見ていると知ったのは3日前のことだ。
 あまりにも憔悴の激しい私を風先輩が気にかけてくれて、少し2人だけで話をすることにした。
 私の方も風先輩が調子悪そうにしているのには気を配っていたので実際良い機会だった。
 そして、私たちは互いの不調の原因が毎晩の夢にあるという事実を確認し合ったのだ。
 私は東郷さんに、風先輩は樹ちゃんに、エッチなことをしようとする夢。

「そりゃ樹は宇宙一可愛いけどさ…実の妹とあんなこと…」
「わ、私だって、その、あんな欲望丸出しで東郷さんに接したいだなんて…」

 私は内心“宇宙一可愛いのは東郷さんだけど”と思いながら同意する。
 確かに私は東郷さんに他の誰に向けるより強い好意を抱いているし、風先輩は樹ちゃんを溺愛している。
 でも、ここ数日で急に相手への気持ちが欲望まみれになってしまうなんてあるだろうか。
 まさか勇者システムの後遺症とか…等とあらぬ考えが浮かんで、事情はボカして夏凛ちゃんに確認までしてしまう始末。

「少なくとも私はあれから特に変化ないわね。
一方通行とは言え一応大赦に聞いてみるから、詳しい症状を話してみなさいよ」

勿論、丁重にお断りすることしかできなかった。

「でもさ、友奈…あたし、そろそろ限界なんだよね」
「限界って…まさか?」
「うん、今日も着替えてる樹の後ろから抱きつきそうになってさ…冗談にしてごまかしたけど」

 冗談にして、という言葉にドキリとする。
 実は私も朝に、後ろから東郷さんに抱きつこうと…いや、本当は胸を触ってしまおうと考えていたのだ。
 冗談だって言えばきっと東郷さんは赦してくれる。それに東郷さんが嫌がる訳ないし。
 現実の東郷さんと夢の東郷さんをごっちゃにして、そっと東郷さんの背中に忍びよって。

「ゆ、友奈ちゃん、くすぐったいわ」

 ―――首筋に息が当たって、東郷さんがくすくすと笑う。それで正気に戻った。
 本当に危なかった。最悪、自分の家に連れ込んでしまおうとまで考えていた自分に愕然とした。
 慌ててふざけたことにしたけど、あの時の私は完全に本気だった。
 人の嫌がることはしない、相手の気持ちを常に考えて行動する。
 そう決めている私が、自分の欲望を優先しようとしたことに凄く動揺した。

「あたし、どうなっちゃうんだろう…樹を…傷つけたくない…よ…」
「私だって…大好きな…東郷、さ…に…嫌われ…たく、な…」

 疲れが頂点に達したようで、私たちは向かい合ったままとろとろと目を閉じて行く。
 そう言えば昨日も…ううん、ここ数日ずっとこの時間に眠くなるな、と消えそうな意識の中で思った。


 ―――友奈ちゃんと風先輩は、穏やかに寝息を立てている。
 私と樹ちゃんはそっと部室の中に入ると時計を確認する。
 夏凛ちゃんが剣道部の助っ人から帰って来るまで後20分ほど、十分な時間があった。

「お姉ちゃん、すごく可愛い…」

 風先輩のふわふわした髪を、樹ちゃんがうっとりと撫でる。
 私も友奈ちゃんの頭を優しく撫でてみる。うつぶせに寝ちゃって、苦しくないのだろうか。
この程度では目覚めないのを確認する為もあったけど、純粋に彼女に触れたいのもあった。

「それじゃあ樹ちゃん、そろそろ」
「はい、東郷先輩」

 頷きあって私たちは、それぞれの思い人の耳元にそっと唇を寄せた。


最初はちょっとした冗談のつもりだった。
 樹ちゃんが友達からもらったと行って持って来た一冊の本、簡単な催眠術の手引書。
 全然かからないのでもう飽きた、と友人は言っていたとい。
 だから私たちも軽いジョークのつもりで、疲れて眠っていた友奈ちゃんと風先輩に試してみたのだ。
 結果的に、効果は抜群だった…たった数日で、目に見えて2人の私たちへの態度が変わって来たのだ。

「でも、お姉ちゃんあんまり眠れてないみたいで可哀想です」
「そうね、友奈ちゃんが体を壊してしまったら元も子も無いわ…今日でおしまいにしましょう」

 それは、今日中に私たちの想いを達成してしまおうという確認。
 そして私たちは、そっとここ数日繰り返して来た通りに言葉を投げかけ…。

「―――なるほどねー、催眠術か」
「!?」

 風先輩がいきなり言葉を発して、樹ちゃんが飛び上がる。その手が逃げられない様にギュッと握られた。

「東郷さん。私も、時には怒るんだよ?」
「ゆ、友奈ちゃん!?」

 友奈ちゃんの目もぱっちりと開いている。どうして、今日に限って!?

「友奈が、流石に毎日毎日同じ時間に眠くなるのはおかしいって気付いたのよ。
 それで眠りかけた時に、思いっきり頭を机にぶつけて眠気覚まししたワケ」
「風先輩はその音で起きたから、痛い思いしたの私だけなんだよね…」

 そう言って真っ赤になったおでこを見せる友奈ちゃん、うつぶせに寝ていたのはこれを隠す為だったのだ。

「さあて、どうしてくれよう…偉大なる勇者部部長様に害なすとは不届き千万…」

 風先輩は劇で鍛えた低音は、勇者というより矢張り魔王のそれだと思う。
 友奈ちゃんもプクーと膨れて可愛い…いや、とっても怒っている様子だ。

「それで申し開きはあるかね、お2人さん!」
「場合によっては―――すごく一杯くすぐるよ!」

 友奈ちゃんがわきわきと手を動かす。私たちは慌てて平謝りした。

「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん!催眠術なんてかけてごめんなさい!」
「私もごめんなさい!だって友奈ちゃんの本音が聞きたかったから!」

 2人の顔が“ん?”としかめられた。何か変なことを言っただろうか。

「本音…え、本音?エッチな夢を見せる催眠術じゃないの?」
「ええ!?そ、そんな恥ずかしいの、やる訳ないよ!」
「えぇと、心の奥底に隠している気持ちに素直になるという催眠術だったのだけど。
 掛け始めてから私たちへの態度が好意的に変化して来たから喜んでいて…」
「心の奥底に…?」

 ギギィ、となんだかカラクリ人形を思わせる動きで2人が顔を合わせる。
 やがて2人の顔が真っ赤にそまって、パクパクと口を開いて―――静かに頷き合った。

「そ、それじゃあこれで、今日は帰るわ。夏凛によろしく」

 何故かお説教も罰もなく、風先輩が樹ちゃんの手を引いて部室を出て行く。
 友奈ちゃんは無言、本当に怒らせてしまっただろうか、もしも本気で嫌われたら生きていけない…!

「東郷さん」
「は、はい!」
「―――今日は放課後、私の部屋に来れるよね?」

 有無を言わさない口調に私は何度も頷く。
夕日の逆光でよく見えないけど、怒っているはずの友奈ちゃんは笑っている様に見えた。

―――それはまだ、お父さんとお母さんが亡くなる前の記憶。
 幼い私はお姉ちゃんに手を引かれて夕闇の迫る街を歩いていた
 いつもはお姉ちゃんと一緒ならそれだけで気持ちがはずむのに、その時は酷く不安で、泣きだしそうで。
 多分、お姉ちゃんが怒っていたのが原因だったと思う。
 どうしてあの時お姉ちゃんは怒っていたのか…それが思い出せない。

 今も私は、お姉ちゃんに手を引かれながら夕闇の迫る街を歩いている。
 違うのは私が中学生に成長していることと、お姉ちゃんが怒っている理由がハッキリ解っていること。
 お姉ちゃんの気持ちが知りたくて、私の気持ちが届くのかを確かめたくて。
 友達から貰った催眠術の手引書を使って、お姉ちゃんに迷惑をかけてしまった。
 もしも嫌われてしまったら、“樹なんてもういらない”と言われてしまったら。

「…ひっく…ひぅ…うぅ…」
「泣いたって、赦してあげないからね」

 勝手にこみあげて来る涙に、お姉ちゃんの声が降り注ぐ。
 てっきりそれは氷のように冷たい拒絶の色が混じっていると思ったのだけど、違った。
 むしろ逆だった、何だかよく解らない“熱”のようなものが混じっている。

「そうよ、樹が悪いんだから…あたしだって我慢して来たんだ…お姉ちゃんだから、家族だから…」
「おねえ、ちゃん?」
「もう、我慢はやめるわ」

 はっきり聞こえたのはその言葉だけで、私の中に不安だけでない何かが沸き上が
ってくる。
 階段をほとんど駆け上がる様に登って。片手で酷くやりにくそうに鍵を外して。
 私の手を握ったままで扉を開いて、鍵をかける間も惜しむようにそのまま小走りに。
 気付けば私はお姉ちゃんの部屋に連れ込まれていた。

「お姉ちゃん…?」
「樹、あたしの本当の気持ちが知りたいんだって?」

 薄暗い部屋の中ではお姉ちゃんの顔がよく見えない、けれどその声は…笑っているように聞こえた。
 少しずつ慣れていく目が、思ったよりもずっと近くにあったお姉ちゃんの唇を捉える。
 はあ、と熱い息がそこから吐き出されて、白い歯が薄闇の中で矢鱈とはっきり見えた。
 “完全なる闇の中では牙の輝きすら希望に見える”。
 そう詠まれたのは今はもう無い北欧の古い詩だっただろうか。

「教えてあげるわ―――樹が知りたかったものが何なのか」
「んっ!?…んん、ん~っ!?///」


 肩を強い力で掴まれるのとほとんど同時に、お姉ちゃんの唇が私のそれと重ねられる。
 キスされている。唾液がこくんこくんと交換される。お姉ちゃんの舌が、逃げようとする私の舌を捕える。
 私はそのすべてを、何処か夢心地で見詰めている。
 本当は私は、まだ小さな子供のままであの夕焼けの中をさ迷っているんじゃないだろうか。
 だって絶対に怒られる、もしかしたら嫌われると覚悟していたのに…どうしてこんなに素敵なことになっているんだろう。

「んっ…おねえ、ちゃ…っ、ふ…」
「い、樹?…んっ、ちゅ、ちゅ…くちゅ…」

 つま先立ちしてお姉ちゃんの頭を抱いたら、少しだけ驚いたみたいだった。
 お姉ちゃんがどういうつもりでキスしてくれたかは解らないけど、このチャンスを逃したく無かった。
 お姉ちゃんが好き。ずっとずっと、お姉ちゃんのことが好きだった
 家族のそれだけじゃないと気付いたのは、タロットカードを始めてから。
 時々される恋愛相談を聞く内に、私は自分が女の子としてお姉ちゃんを好きだと自覚した。

「ちょっ、ちょっと待って樹、あんたどうしてそんなノリノリで…はぷっ…!」
「お姉ちゃん…ちゅ…お姉ちゃん…ずっと、こうしたかったからだよ…!」

 少しだけ頭を引こうとするお姉ちゃんを無理やり引き寄せて、もう1度キスする。
 お姉ちゃんの料理が美味しい理由が解った気がする…お姉ちゃん自身がこんなに美味しいからだ。
 もしかしたら、この後ものすごく怒られて、二度と顔も真直ぐみて貰えなくなるかもしれない。
 でも、このキスの記憶があればきっと大丈夫、お姉ちゃんが赦してくれるまで私はお姉ちゃんを好きでいられる。

「樹…こ、この…悪い子だ!樹!」

 目が慣れて来たお陰でお姉ちゃんが真っ赤になっているのが解る。
 綺麗。可愛い。素敵。東郷先輩くらい語彙が豊富ならもっと色々讃えられるのに。
 お姉ちゃんの顔に見とれていた私は、あっさりとお姉ちゃんのベッドに向かって投げだされる。
 多分見とれていなくても抵抗しなかっただろうけど。

「やっぱり素直になる催眠術なんて嘘なんでしょ?エッチな催眠術をかけたんだ、きっと」
「お姉ちゃん、それは…」
「あんなキス何処で覚えたのよ、やらしい樹!いいわ、お望み通りにしてあげる!」


 お姉ちゃんが上から押さえつけるように私に圧し掛かって。
 服を脱ぐことに気付いたようで、一旦退いていそいそと制服のボタンを外す。
 お姉ちゃんのあまりの可愛さに過呼吸になりかけながら、私も制服を脱いでベッドに横たわった。

「い、今からする何するか、解ってるんでしょうね…?樹のせいなんだから」
「うん、私のせいだね」
「逃げられると思わないことね!まあ、いやらしい樹は今だって逃げられたのに大人しく…」
「だから、お姉ちゃん…」

 私はそっと下着をずらして、胸と大切な所をお姉ちゃんに見せる。
 本当にお姉ちゃんが言う様に、いやらしい女の子になってしまったような仕草。
 もしかしたらお姉ちゃんこそ催眠術を使って私を操っているのかも知れない。
 それでもいい、こんなに幸せになれるなら幾らでもお姉ちゃんに操られたい。

「―――お仕置き、して?」

 お姉ちゃんの表情が一瞬呆気に取られて、すぐに獣のように荒ぶる。
 ああ、食べられちゃうんだなと、喜びに塗れた意識の片隅で思った。


 樹の薄い胸に噛み付くように唇を寄せながら、女の子の部分を指で弄る。
 くち…と水音がする。もう濡れている。いつから感じていたんだろう。
 私に見せた時?押し倒した時?キスをした時?それとも私の隣でいつも発情してたの?
 カッと頭が熱くなる
 私の知らない樹が居たかも知れない事実に、怒りにも似た情欲が滾る。

「こんなにぐしょぐしょに濡らして…樹、自分でしたりしてるでしょ?」
「う、うん…お姉ちゃんのこと、想って…ひ、ぁ!…ま、毎晩、1人でしてたの…」
「本当にいやらしいわね!あたしにそれを隠して!あたしだけ全部曝け出せって!?
 そんなの赦さない!樹も全部あたしに見せて!全部よ!全部あたしのだ!」

 樹のを少し乱暴に指でかき回すと、僅かに樹の嬌声に痛みが混じった。
 痛いのだって気持ちいいに決まってる。だって樹はいやらしいんだから。
 あたしは構わず、もっと激しく樹のそこを攻め立てながら、口で胸の先の蕾を齧る。

「ひ、きひっ…!お姉ちゃん…お姉ちゃん痛い…痛くて気持ちいいよ…!」

 ほらね、やっぱり。樹はあたしに痛くされるのが好きなんだ
 ふと、意識が幼い日に飛ぶ。それは夕焼けの中を樹と一緒に歩いた記憶
 近所の子たちと遊んでいた樹を夕御飯の時間に迎えに行った時、あの子は友達に頬からキスされた。
 それは覚えたての行為を試しているだけの、遊びのようなものだったのだと思う。
 さようならのキス。樹はされただけで、照れて返すことはしなかった。

けれど、あたしはそれを見て生まれて初めて樹に対して激昂した。
怒鳴り散らして、実際には叩かなかったけど手を振り上げる真似までした。
 そして、絶対にもう二度と誰ともそんなことをしないと約束させて、手を繋いで帰った。
 あんなに怒鳴ったのに、樹はギュッとあたしの手を握って頼って来る。
 そうよ、樹はあたしから離れていかない…いかせない。あの時にそう決めた。

 胸から顔を上げて、何度も、何度も頬にキスをする。
 まるで消毒をするように。いいや、違う。逆にあたしの毒をそこに染み込ませるように。
 女の子の部分を触ったままで樹の体を裏返して、首筋にも、背中にも、まんべんなくキスの雨を降らす。
 全部あたしのものになれ。あたしの知らない部分なんて樹から無くなってしまえ。
 責め立てているのはあたしのはずなのに、気付けば何かに追われるように必死になっていた。

「樹!何処にも行かせない!ずっとずっと、あたしと居よう!あたししか見えないようにしてあげる!」
「おねえ、ひゃ…ふ、ふふ…」

 樹が笑う。初めて見る顔。女の子の顔。妖艶な雌の顔。そうやってあたしを誘うのね。

「―――最初から、お姉ちゃんしか見えないよ」

 くちり!と何かに“届いた”感触がした。ああ、それは。樹の、初めての。

 毒を盛られたのはやっぱりあたしの方だったのか。そんな思考を下らないと振り払う。
 どっちでもいい。樹はもうあたしのもの。あたしもきっと、樹のもの。
 動物のようにシーツを染めた赤に興奮して、あたしは更に樹を激しく責め立てた。

「東郷先輩から聞いたの。バーテックスとの最後の戦いの時に、友奈先輩に叩かれたって。
 それを聞いた時ね、私、ちょっとだけ羨ましかったんだ」

 腕枕に頬をすりつけながら、割とショッキングな告白をする樹。
 それはあれだろうか、SM的な嗜好の話だろうか。
 正直さっきは完全に正気を失っていたから出来たけど、冷静な時に樹にそういうことする自信はない。

「そうじゃなくて!私、お姉ちゃんに最後の怒られたのって何時だろうなって思って。
 迷惑もかけたし心配もかけた。お姉ちゃんに世話してもらわないと生きていけない。
 でも、お姉ちゃんはそれを全然不満にせずに優しくて…それが、ちょっと辛かった」
「樹…」
「だからね、さっきみたいに激しくいじめられるの…ちょっと嫌いじゃないよ」

 2回戦のお誘いだろうか、この妹嫁は。
 実際は足腰も立たない位に疲労しているのだ、休ませなくてはいけない。
 けれどあたしとしてはもっともっと、樹をあたしの色に染めたくて、それを必死に我慢する。

「あんまり可愛いこと言うと、また襲うわよ。まだまだしたいことあるし」
「それはお姉ちゃんの本音?」
「樹のせいでダダ漏れですからね」

 樹がくすくすと楽しげに笑う。そして、あたしの顔を真直ぐ見詰めて言った。

「愛してるよ、お姉ちゃん」

 絶対に誘っていると思うので、お姉ちゃんは悪くない。
 そう心の中で言い訳して、あたしは明日は樹は休ませようと冷静に考えながらその小さな体に覆いかぶさった。


おまけ

 ―――パンッ!という乾いた音が勇者部の部室に鳴り響く。
 友奈は満足げに笑っているけど、夏凛の方はちんぷんかんぷんだろう。
 催眠術を解除する方法、だったっけ。かけた人以外がやっても効果はあるのだろうか。

「(うん、あたしも問題なく樹が好きね。超エッチなことしたい)」

 何しろ私たちは家族で、姉妹だ。もっともっと、その殻を破る時間をかけなければいけない。樹がそう言っていたから間違いない。
 次は樹に攻めて貰うのもいいかな、とふと思う。あたしも初めてを樹に捧げたいし。
 色々と楽しみはあるけれど、今は3人体制で勇者部の活動をかなさなければ。

 ―――ふと、友奈の鞄から覗いている催眠術の手引書に目が行った。
 そう言えば、この本の作者って誰だろう。名のある催眠術師とかだろうか。
 樹が主に持ち歩いていたみたいだし、東郷も意外と見てないかも知れない。

【作者:乃木園子】

 あたしは友奈がやったように思いっきり机に頭を打ち付けた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年02月09日 16:42