6・243

―――すーすーという寝息が聞こえて、私はPCから顔を上げる。
 見れば友奈ちゃんが、折紙の途中で机に伏せるようにして眠っていた。
 慣れない車椅子生活で疲れているのだろう。
 加えて、実動班として動けない間はせめて裏方の仕事がしたいと友奈ちゃんは言い出した。
 そこで昨日は遅くまで2人でパソコンの操作の勉強をしていたので、それもあると思う。

「お疲れ様、友奈ちゃん」

 みんな勇者部の活動で出払っているので、今は部室には私たち2人しかない。
 友奈ちゃんの寝息と時計が針を刻む音、私がキーを叩く音が不思議なメロディを形造る。
 最近寒くなって来たので風邪を引いてしまうといけないと思い当たり、何かかける物を探して立ち上がった時。

「東郷さん…」

 目を覚ましたのかと思ったけれど、友奈ちゃんは相変わらず目を閉じて伏せたままだ。
 寝言だろうか。自分の名前がそこで出て来ると何だかとても気恥かしい気持ちになる。

「東郷さん…ぼた餅…」
「夢の中でまで食べてくれているのかな。嬉しいけど、おかしい」

 耐えきれずにくすくすと笑うと、勇者部の共用のウィンドブレーカーが見つかった。
 友奈ちゃんを起こさない様に、そっとその肩にかける。友奈ちゃんがにへっ、と笑った気がした。

「あったかいよぉ…東郷さん…」
「どういたしまして。ふふっ、本当は起きていたりして」

 ―――私は、友奈ちゃんが好きだ。
 その気持ちは多分友情の範疇から少し外れていて、人によっては重たいと思う物で。
 けれど、こういう場面で何かをしようという気持ちは不思議と沸いて来ない。
 そのっちから借りた漫画などでは、こういう時にこっそりキスをしたりしていたのだけど。

「友奈ちゃんと、キスね」

 それはとても魅力的だけど、寝ている友奈ちゃんを見ていると何だかそれだけで満たされてしまって。
 もし私たちが両想いになったとしても、なかなかそこまで進まないんじゃないかという予感がある。
 友奈ちゃんの方は、私とキスやそれ以外のこともしたいと思ってくれたりするのだろうか。

「ねえ、どうなのかな友奈ちゃん。友奈ちゃんは私の好きに、いつか応えてくれる?」

 寝ている人に話しかけるのはあまりよくないと言うけど、私は自然とそう口に出していた。

「…………///」
「あれ、友奈ちゃん?えっと、まさか」

 寝息が止まっているのに気付いたのは、友奈ちゃんの耳がみるみる赤く染まっていくのを見てからで。

「ま、前向きに、善処します///」

 私も友奈ちゃんのように真っ赤になって、机に突っ伏したのは言うまでも無い―――。

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最終更新:2015年02月09日 17:13