勇者部への依頼はWeb受付がメインだけど、時々投書や依頼書の形で来ることもある。
それなりに盛況なそれらの中に、その可愛らしい便箋は紛れ込んでいた。
「これ、風先輩宛てですね」
「もしかしてラブレター?」
「な!?こ、困るわねー、こういう使い方されちゃうとなー」
口ではそう言いつつ、便箋を手に取る風先輩の動きは妙にぎくしゃくとしていた。可愛い人だなあ。
ふと樹ちゃんの方を見ると、ものすごく真剣な顔で風先輩の方を見詰めていた。
何故だろう、嫉妬をしているとかライバルを警戒しているという感じの表情じゃない。
すごく緊張しているのが見るだけで伝わって来る。よく見れば便箋は薄い緑でどこか樹ちゃんを想わせる色合いだった。
「(あ、もしかしてあの手紙って)」
察した私が何かフォローを入れなきゃと思ったのとほぼ同時に、風先輩が樹ちゃんの視線に気付く。
いきなり反らすのも変なのでそのまま固まってしまう樹ちゃん。見つめ合う姉妹。
やがて風先輩は、何故か顔を青ざめさせると私の傍に近寄って来た。
「ど、どうしよう、友奈。樹が怒ってるんだけど」
「え」
「やっぱり勝手にこういう手紙貰ったからかな?それとも喜んでるように見えたから?
いや確かに嬉しかったのは本当だけどあたしは樹一筋で」
「風先輩、風先輩ちょっと落ちつきましょう」
風先輩と樹ちゃん、双方の気持ちに勇者部の面々は全員気付いている。互い以外は。
樹ちゃんが突然私に相談を始めた先輩の様子におろおろしている。何だかマズイ流れだ。
「風先輩、その手紙なんですけど」
「そ、そうだ!送ってくれた相手には悪いけど、もうこの手紙はこの場で景気よく破いちゃって」
「本当に悪いですから!絶対ダメですからね!」
「だって、顔も知らない相手よりも樹に嫌われる方が嫌だから!手紙の主には接触があったら土下座して謝るわ!」
「その漢女気を別の方向に発揮して下さい!」
どうしよう、もう樹ちゃんが書いた手紙だと明かしてしまった方がいいだろうか?
けれど樹ちゃんもわざわざ名前も書かずに出しているということはみんなに隠したいのかも知れない。
勇者部への投書で出すという時点で相当リスクが高いことは指摘したいけど、今はそれどころじゃない。
「落ちついて下さい、風先輩。その手紙はちゃんと読むべきです。樹ちゃんだって真摯に対応すれば大丈夫!」
「そ、そうね、解ったわ。流石は友奈、相談して良かった」
そう言うと先輩は、私が止める間も無く便箋から中身を取り出した。
確かに真摯に対応しようとは言ったけど、その方向が樹ちゃんに向いている。いや、この場合向いてないんだけど。
「風先輩、ちょっとストーッ…!」
「樹、大丈夫よ!この場で読んで答を決めちゃうからね!ええと、なになに。
『突然こんな手紙を送ってしまってごめんなさい。実の姉妹なのに驚いたと思います』…ん?」
樹ちゃんが真っ赤になってこてんと机に突っ伏す。風先輩の青かった顔が一気に赤みを取り戻す。
というか人の前で手紙を読むとか樹ちゃんが相手じゃなくても公開処刑だと思う。本当に動転していたんだろうけど。
「友奈ちゃん。友奈ちゃんはよくやったわ」
東郷さんの慰めが何だかとても侘しかった。
追記:樹ちゃんは1日口を聞いてくれなかったそうですが、翌日にはラブラブで登校していました。
最終更新:2015年02月25日 10:43