鷲尾家で次の学園祭に出す催しとして演劇の練習をする事になった須美と銀。
「銀、顔が近いわ」
「キスシーンなんだから仕方ないだろ…赤くなるな、こっちまで恥ずかしい」
銀が須美を抱き寄せ顔を近づける。
少し顔を動かせば唇が触れてしまう僅かな距離。
「ねえ、どうして王子役に立候補したの?」
「別に、何となく須美が他の誰かとフリでもこういう事するのが嫌だっただけだ」
推薦で須美がお姫様役に決まった時、銀が真っ先に王子役に立候補した。
「銀、もう少し離れて」
「なんか、そんなに嫌か? 結構傷つくんだけど」
「違うわ、銀だから恥ずかしいの。他の誰かだったらこんなに緊張しない」
「なんだよそれ。あたしだって須美相手じゃなきゃこんな事しねーよ」
腰に回した腕に僅かに力こもり、さっきより強く身体を抱き寄せる。
胸からお互いの鼓動が相手に伝わってくる。
「…銀、近い」
「うるさい…静かにしてろ」
キスの経験なんて無いのに、何となくこうするものだと分かり、お互い瞳をゆっくり閉じた。
「………」
「……」
ほんの僅かな時間、確かに触れあった唇の感触。
「…今のは事故?」
「どうかな?」
「分からないから、もう一回して…銀」
夕日が射し込む須美の部屋の中、日が暮れるまで劇の"練習"は続いた。
最終更新:2015年05月17日 12:34