「なんだ、珍しいな」
「そう? 私だって、本くらい読むわよ」
魔理沙が図書館に忍び込むと、先客がいた。アリスだ。
言葉を返したのだから気付いたのだろうが、それにも関らず、こちらを見もせず本に集中している。
――相当面白い本なんだろうな、後で借りよう。
そんな事を考えつつ、本を漁る。
「えーと……この辺だったかな」
先ほどまでは、アリスが本をめくるひそやかな音だけが響いていた図書館に、がさがさと本を探す無粋な音が混じってしまった。
だが、アリスは意にも介さずにページをめくっていた。よほど面白い本なのだろう。
「よ……っと」
布を取り出したかと思うと、広げて中にいくつかの本を置いていく魔理沙。
面白い本を見つけたらしく、ニヤニヤと笑っている。
「ちょっと」
振り向くと、眉をひそめたアリスの顔。
いつもの本以外に2~3冊程度持っている。借りるつもりなのだろう。
「勝手に持って行くつもり? ちゃんと手続きをした方が良いんじゃないの?」
「気にするな。死ぬまで借りていくだけだよ」
さすがにそんな身勝手な事はいけない、と注意しようとしたアリスは、軽く目を見開いてそのまま黙ってしまった。
「……何だ? どうかしたのか?」
「うしろ」
細い指を魔理沙の後ろに向かって差す。小悪魔が笑顔で立っていた。
「……よぅ」
軽く手を挙げる魔理沙。口の端が少し引きつっている。
「お貸しするのは良いのですが、キチンと手続きを済ませてからにして下さいね」
笑顔のままえりくびを掴んで、猫の子でも捕まえる様に魔理沙を連れて行く小悪魔。
その様子を見て、アリスは安心した様にほっと息をついた。
今の小悪魔は、ちょっと怖い。
「さてと、どこにいるかなー」
あれから数ヶ月後、魔理沙はゆっくりを探していた。
「困った奴らだな。普段はいらんほど出てくるのに、こういう時ばかり出て来ないとは……と、いた!」
勝手な事を呟きつつ、辺りを見回す魔理沙。
その言葉を聞いていたワケでもないだろうが、一匹のゆっくりまりさがぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「ゆっくり~ゆっくり~ゆぐっ!?」
「捕まえたぜ!」
クッションを抱きかかえる様な体勢で、魔理沙はがっちりとゆっくりを捕まえた。
「ゆ!? ゆっくりできないよ?」
ゆっくりまりさは、何が起こったのかわからないといった風情で辺りをきょろきょろ見渡している。
魔理沙は気にせず、そのまま自分の家に向かった。
「……またですか」
「…………」
魔理沙がゆっくりを自分の家に連れ帰ってから数日。
またもや魔理沙がこっそり本を盗もうとしているところを、小悪魔が目撃した。
しまおうとしていた本を持ったまま、魔理沙に近づく小悪魔。
魔理沙は観念したのか、そのままの姿勢で固まっている。
そんな魔理沙に、小悪魔はほんの少し違和感を覚えた。
「借りるなとは申しません。せめて、貸し出しのサインはしていって下さい」
「…………」
無言。
「魔理沙さん? お聞きになっていますか?」
若干心配になりつつも、問いかける小悪魔。
――あれ? 何かおかしいな。
近づくにつれて、違和感が膨れ上がっていく。
魔理沙は何も答えない。
無視されているのだろうか、と思った小悪魔の額に、バッテンマークが浮かぶ。
「魔理沙さん、いい加減に――」
「……ゆっ」
振り向いた『まりさ』は、下膨れの顔。いわゆる『ゆっくりまりさ』だった。
「うひゃあぁ!!!」
「ゆっげぶぅぅぅ!!!」
驚いた拍子に、持っていた本を叩きつけてしまう小悪魔。
『まりさ』は、何か言おうと口を中途半端に開けたまま、アンコを辺りに飛び散らせた。
そばで様子を伺っていた魔理沙は、あまりにも見事に引っかかった小悪魔の慌てふためく姿を見て、腹を抱えて笑い転げた。
「大成功! ……くー、おっかしいったらないぜー!」
あの『まりさ』は、先日捕まえたゆっくりまりさである。
ゆっくりの下あごの皮を引き伸ばして、中に他のゆっくりのアンコを入れて体を作り上げただけという、シンプルかつ強引なシロモノだが、それなりに生きている事はできる。
魔理沙はそれを利用して、小悪魔にドッキリを仕掛けたのだ。
「さーて……じゃあ、借りさせてもらおうかな」
まだ呆然としている小悪魔に見つからない様、慎重に移動する魔理沙。
今日は、ジャマが入らない分、大量の本を持っていけそうだ。
「これとこれと……お、これも良いなぁ」
本を物色する魔理沙。
小悪魔はまだ立ち直っていないだろうと、遠慮なしにがさがさ音を立てている。
「お、こんなのがあったのか……これも持って行く事にしてっと、今日は大漁だな~♪」
「……そうですか。それは良かったですね」
鼻歌が出るほど機嫌の良い魔理沙の後ろに、音もなく現れた人影。
声をかけられた瞬間、魔理沙の動きが止まった。
「楽しそうですね、魔理沙さん。……ところで、何かおっしゃりたい事はございませんか?」
平坦な声。
魔理沙の背中に、冷や汗が流れ出ていった。
今の小悪魔は、かなり怖い。
「……あー、悪かった」
「許しません!」
言葉と同時に放たれた小悪魔の弾を、必死に避ける魔理沙。
全力を出しているのだろうか、Lunaレベルの激しい弾幕を浴びて、ほうほうの体で逃げていった。
「おじゃましましたー!」
「待ちなさーい!!!」
全速力で逃げる魔理沙と、追う小悪魔。
そんな楽しい風景を、悪い冗談の様にアンコまみれのにごった瞳が眺めていた。
出来る限り東方キャラのみで書いてみました。
ゆっくり楽しんでね!
また、自分がこれまで書いたネタを並べてみました。
このネタについては、ご自由にお使い下さい。
ゆっくり虐待していってね!
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最終更新:2008年09月14日 10:43