ここに一つのゆっくり一家がいる。
家族を形成しているのは、お母さん霊夢にお母さん魔理沙。
そして、生まれたばかりの子供達。
「ゆ~~っきゅりしちぇいっちぇね!!」
「おか~しゃんも、ゆっきゅりしちぇね!!」
春を待って結婚した二匹にとって、初めての子供である赤ちゃん達は、二匹から見て申し分ないほどにゆっくりとした赤ちゃんであった。
「そ~ろそ~ろ♪」
成体ゆっくりと違い、赤ちゃんゆっくりの起床時間は遅い。
したがって、赤ちゃんが起きる時間までは、他の家族は静かに過ごさなければならない。
「あかちゃんたちがねてるから、しずかにしてようね!!」
「そうだね!! だったら、そのあいだにひろばでゆっくりたいそ~をしてこようね!!」
そっと入り口の柵を外し、器用に組み立てなおす。
岩肌が猛々しい所に、まるでアップリケのようにつけられた緑色の欺瞞の跡を満足げに眺め。
二匹は近くに住んでいるゆっくり達が集まる広場へと足を運んだ。
「す~~や♪ す~~や♪」
再び静寂に包まれた巣の内部。
十数匹の赤ちゃんたちの寝息がはっきりと聞こえるだけのその内部だが、それでも、騒々しいそれは、ここがゆっくりの巣であることを認識させるには十分であった。
「ゆく……。れ~みゅひとりでおきちゃよ~~♪」
「すっきり~~♪」
一匹の霊夢が目覚めたことによって、他のゆっくり達も次々と起き出す。
機械仕掛けの人形のように、ピョンと大きく飛び跳ねる。
「ゆゆ!! おねーーちゃんたちのばかーー!!!」
そんな微笑ましい光景を切り裂いたのは、一匹の赤ちゃん霊夢の怒号であった。
何事かと一斉に振り向いた赤ちゃん達は、物凄い形相で睨み付ける姉妹の姿に釘付けになる。
~~~~~
「ゆいっち~~~~に~~~~さん!! し~~し~~~♪」
「し~~し~~♪ すっきり~~~♪」
広場では、他のゆっくりも集まり、一匹のゆっくりの掛け声で体操と称するものが行われていた。
「むっきゅ~~♪ これで、そのひはとってもゆっくりとすごせるようになるのよ!!」
大きく弾み、左右を向き、また跳ねる。
そんな運動が数十セット続いた朝の体操は、多量の騒音と、大きな自己満足を残して終わるを迎えた。
~~~~~
舞台は一家の巣の中。
いまだわめき散らす霊夢に、お姉さんでもある魔理沙が声をかけた。
「ゆゆ? なにをおこっちぇるの? ゆっくりせつめ~してね!!」
「ゆっぐりじね!!!」
「ゆぐば!!!」
返答代わりの体当たり。
同じ体格とは言えども、肌の柔らかい赤ちゃんにとっては、食らえば重症になりえる。
「ゆゆ!! くろいのがでちぇるーーー!!!」
現に、攻撃を受けた魔理沙は、自分の体から噴出した大量の餡子に目を奪われ、思考を完全に停止させていた。
「ゆゆ!! なにちちぇるの!!」
「おねーーちゃんにゆっくりあやまっちぇね!!」
「うるちゃいよ!! ゆっくりあやまるのはそっちでちょ!!」
多勢に無勢の状態でも、その霊夢の気迫は凄まじく、姉妹達の怒りを忘れてさせてしまった。
「ゆ? どういうこと? ゆっきゅりせつめいしちぇね!!」
好奇心が入り混じった目をしている姉妹達をよそに、霊夢はしっかりとした口調で言葉を綴る。
「だっちぇ!! おねーーちゃんたちが、おやちゅぜんぶたべちゃったんだよ!!」
それは意外な一言だった。
基本的に食べ物は親が準備してくれる子供達にとって、おやつも同様である。
つまり、その場所には親がいるはずで、当然、霊夢のような自体を避けることが出来る。
それに、おやつなんてものは食べていない。
基本的には、散歩のついでに偶然見つけた、ものがそれになるからだ。
今だ巣の中が活動の場になっている、姉妹達にはよほどの事態ではないとおやつ等はありつけないのである。
「なにいっちぇるの? おやつなんてたべちぇないよ!!」
「そうだよ!! ゆっくりかんちがいだよ!!」
当然の理屈をぶつける。
しかし、当の霊夢はまったく聞く耳を持たない。
「うそつかないでね!! れ~みゅだって、あのいちごさんたべたかっちゃんだよ!! おしゃんぽしてつかれてたのに!!」
もはや姉妹の頭では理解する事が出来なくなっていた。
さんぽ、いちご。
いった事もないし、イチゴは昨日は食べていない。
そのはずだが、目の前の霊夢の怒りは本物であり、その事が姉妹を余計に混乱させていた。
「ゆゆゆ? わかりゃないよ!!」
「ゆっきゅりかんがえちぇね!!」
結果的に、その煮え切らない態度が最悪の結末を引き当ててしまう。
「もういいよ!! ゆっきゅりあやまっちぇもくりゃないんだね!! ゆっきゅりしね!!」
猛然と、混乱している姉妹に向かって突進してゆく霊夢。
食べ物の恨みは恐ろしい、瞬く間に巣の内部は、衝突音が響き渡る、騒々しいリングへと変貌してしまった。
あくまで子供の喧嘩である。
しかし、威力が多きければ喧嘩の範疇に収まらない。
「ゆぎゅ!! おかーーしゃん!!」
「まりさもいちごさんたべたかったーー!!」
「ゆっくりしね!! ゆっくりしね!!」
混乱に乗じた奇襲により、既に大半の赤ちゃんは餡子を垂れ流し、虫の息になっている。
「ゆっきゅり!! おねーーちゃんのばきゃーー!!」
「まりしゃはわるくないよーー!! ばきゃーー!!」
その霊夢も、抵抗する他の姉妹の攻撃によってボロボロになっている。
否。
この巣の中で、ボロボロになっていないゆっくりは一匹たりともいなかった。
一匹の霊夢がされた意地悪の為に。
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「まりさ!! きょうも、ゆっくりできるね!!」
「そうだね!! ありすはとかいはだから、たっくさんゆっくりできることをしってるんだね!!」
「そうだね!! でも、れいむはとってもゆっくりできるよ!!」
「ゆゆ? どうして?」
「だって、まりさとけっこんできたし、かわいいこどもがたっくさんいるからね!!」
「ゆへへ♪ てれるね!! それじゃあ、ゆっくりかえろうね!!」
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二匹が巣に帰る間。
生きているゆっくりは一匹たりともいないその巣は、ゆっくりの巣だとは思えない程静かだった。
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「むきゅ~~♪ こどものうちは、ゆめとげんじつのくべつがつかないことが、あるのよ」
「さっすがまりさのおくさんだね!! ぱちゅり~~はものしりだね!!!!」
「むきゅ!! ねみゅれにゃいーー!!」
「む……ゆげ!!!! もっどゆっきゅりねしゃせでーー!!」
「ぱちゅりーのあがちゃんがーーー!!! どうしておおごえだすのぉ~~~~!!!!!!!!」
最終更新:2011年11月27日 23:19