ゆっくりいじめ系1187 ジュースを片手に森で踊ろう

『愛する両親を失った王子様は、舞踏会を開きました』


太陽の光が一帯を焼き尽くすみたいにむやみに降り注いでいた。
そんな夏の日のこと、俺は足を怪我して動けないで居るゆっくりまりさを見つけた。
「ゆ…ぁんこさんでちゃだめだよぉ…ゆっ、ゆぅ…!」
まりさはおなじみに挨拶もせずに足元から流れ出る餡子を見て震えていた。
アスファルトの上で昼寝でもしたのだろう。
すぐ近くに地面にへばりついた饅頭皮のかけらが落ちていた。
まりさは餡子が流れ出ていく恐怖に涙を零してもがいていた。
目から零れ落ちた餡子が夏の日差しで焼けるアスファルトに吸い込まれて小さな湯気を立てた。
僕は嘆息して財布から百円玉と十円玉を取り出すと近くにあった自販機に入れる。
ボタンを押すとガチャンと音を立てて濃縮還元オレンジジュースが出てくる。
僕は汗まみれの手でソレを手に取った。
缶の冷たさに思わず目を細めて蓋を開けると、まりさに頭からドバドバとかけてやった。
理屈は良く分からないのだが、甘いジュースはゆっくりの傷を癒す。
「ゆ!?」
冷たいからか、目にジュースが入ったからか
まりさは両目をきゅっと瞑った。
そして気持ちよかったのか、体を弛緩させだらりとした。
少しいびつな楕円だった体が、皿の上の餅みたいに変形した。
体中がジュースを被って太陽の光を照り返した。
そのまま垂れていったジュースはじゅっという音を立ててアスファルトに吸い込まれた。
「あ、ありがとうおにいさん…ゆっくりしていってね!」
やっと生きた心地がしたのかまりさは顔を上げて控えめな笑顔で俺に語りかけた。

『愛する両親を失った王子様は、母の面影を求めて国中の娘達を集めて舞踏会を開きました』



燦燦と降り注ぐ太陽がまぶしかった。
あの夏の日に僕はまりさと出逢ったんだ。
まりさは怪我をしていたから
僕はなけなしのお小遣いを使って何本もジュースを買って頭からかけてあげた。
まりさは気持ちよさそうにしながら僕にお礼を言った。

それから僕とまりさはよく遊ぶようになった。

この時はあんなことになるとは思いもしなかった。

『母のために父を殺し愛する両親を失った王子様は、母の面影を求めて舞踏会を開きました』

俺はまりさを抱えて空き地の草原の上に置いてやった。
ここならばまた地面にくっついてしまう心配は無い。
「おにいさんありがとう!ゆっくりしていってね!」
草原の中からまりさは俺に向かって満面の笑顔を浮かべた。
お礼をきちんと言える礼儀正しさに感心しながら
俺はもう一本ジュースを買って頭からかけてやった。
「ゆっ!ちべたくてきもちいい!」
「もうアスファルトの上で寝たりするなよ」
俺はぶるぶると体を震わせるまりさを尻目に立ち去った。

『父王は敵と内通した母を惨たらしく拷問して殺してしまいました』


僕とまりさは親友だったんだ。
なのに

『母の仇を討つために応じ様は父を殺しました』

夏の暑さが大分収まってきたある日のこと
俺はまたあのまりさにこの前の草原で出逢った。
この前の時のお礼か、まりさは頬が膨らむくらい口の中一杯に含んでいた木の実を吐き出して
媚びる様な上目遣いで俺のことを上目遣いに見た。
俺は気持ちだけで充分嬉しいといって遠慮すると、まりさはどうしてもお礼がしたいと言った。
俺はそれじゃあ何か頼みたいことがあったらその時に仮を返してもらうと言って
それからまた二人で会う約束をした。
まりさはそれで納得したのか
「ゆっくりまってるよ!」
と言って楽しげに黒いとんがり帽子を左右に振った。
その姿はまるで帽子が魔法をうけて踊っているみたいに見えた。

俺もそれを見て愉快な気分になりながら帰っていった。


『愛する両親を失った王子様は、母の面影を求めて国中の娘を集めて舞踏会を開きました』

それから半年ほどが経って、僕はまりさがまた怪我をしているのを見つけた。
野良猫にやられて命からがら逃げてきたんだってさ。
僕はまたなけなしのお小遣いを使ってたっぷりとジュースをかけてあげた。
まりさだって喜んでいた。
僕もこれで二、三日すればまりさが元気になって跳ねている姿を見せてくれると信じていたんだ。
あんなことになるなんて思いもしなかったんだ。

『愛する両親を失った王子様は、母の面影を求めて国中の娘を集めましたが肝心の母の顔が思い出せません』

「ゆっくりしていってね!」
「ああ、今日はたっぷりゆっくりしていくよ」
その日俺はまりさの居るあの草原に行って二人で遊ぶ約束をしていた。
「ゆ~!おにいさん!ゆっくりついてきてね!」
そう言って飛び跳ね回りながらまりさは足の傷が治って完全復帰したことを披露してくれた。
俺はポケットに手を突っ込みながらふらふらと着いていくと
空き地の隅にあるたんぽぽの群生しているところまでまりさはつれてきてくれた。
「ゆっ、おにいさんにあげるね!ちょっとにがいけどとってもゆっくりしたおはなさんだよ!」
俺はたんぽぽを一本食い千切って差し出してきたまりさを見て苦笑した。
食べるわけにも行かないが、無下に断ってしまうのも悪いので
俺はまりさからたんぽぽを受け取るとカンザシみたいにまりさの髪に挿してやった。
綺麗だよとまりさに言うとまりさはぽっと顔を赤らめて俯いた。

「似てる気がするなぁ、あのまりさに」
「ゆ?」
俺はまりさのかわいらしい姿を見てそんなことを呻いた。

『王子様は娘達が母と似ているのかがわかりません』

わざとじゃない。
僕はそんなことになるとは思っていなかったのに。
僕はまりさが好きだったんだ。
あんなことになると分かっていたなら絶対にしない。
本当だよ。
どうしてそんな目で僕を見るんだまりさ。

『王子様は母の昔の顔が思い出せませんでした』

月の綺麗な晩だ。
秋の虫の声が耳に心地よい。
俺はまりさと一緒に森の中に来ていた。
誘ったのは俺だ。
俺はまりさのことが好きになり始めていた。
無論、恋とかそういうのとは違うが
真夜中のデートと言っても違いない。
「ゆ~、ちょっとこわいけど
とってもすてきなところだねおにいさん」
まりさはうっとりと夜空を見上げた。
夜の森の空気がひんやりと俺達を撫でた。
俺は適当によさそうな場所を見つけるとよっこらせと越を下ろして
たっぷりジュース缶の入ったビニール袋を置いた。

そして一本手にとった。
缶は痛いくらいに冷たかった。
蓋を開けると俺はバシャバシャとまりさの頭からジュースをかけた。
「ゆゆ!?おにいさん!ちょっとつめたいからいまじゅーすさんはかけなくてもいいよ!」
「僕がまりさと初めて会ったのは、夏の日のことだったんだ
こんな風に、怪我をしてたまりさに頭からジュースをかけてあげた」
「もちろんしってるよ!あのときはありがとうね
でもまりさいまけがしてないよ!」
「そしてここが僕のまりさの住んでいた場所だ」
そう言って俺は木の洞をさらに掘ったゆっくりの巣穴だった場所を指差した。
「ゆ…?おにいさんなにいってるの?
まりさははらっぱにすんでるんだよ?
このもりはまりさのおうちじゃないんだよ?」
まりさは怪訝気な顔で首を傾げた。

まりさのことを好きだと言ったがそれはきっと面影を感じているからだろう。
まりさは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
俺にはそれが僕のまりさの笑顔なのかがわからない。
俺は僕のまりさの笑顔を思い出すことが出来ない。

『王子様の頭に浮かぶ母の顔は、父に惨たらしく拷問されたあの目を背けたくなるような顔でした』

ジュースをたっぷりとかけてあげた後
僕はまりさのことを森の中に放してあげた。
まりさは巣まで僕を連れて行くとまりさはまた僕にお礼を言った。
僕は、また傷が痛んだときのために蓋を開けたジュースの缶を渡して
何かあったら使うようにと言っておいた。

二三日したらまた会って遊ぼうと笑顔で話し合った。
次の日も、その次の日も雨で
会いに行くのは三日後になった。
僕は駆け足でまりさの巣へと向かったんだ。
そして、まりさの巣の前に立って、そして、そして。

『王子様は名案を思いつきました』

俺は次々とジュースの缶を開けてまりさに頭からかけていった。
「ゆ!?なにするの?つめたいよ!おにいさんやめ!がはっ!やめて!ごほっ!!」
まりさは抗議しようとして見上げて口を開いて
冷たいジュースが思い切りのどの奥に流れ込んで咳き込んだ。
俺はそれでも気にせずに次々とジュースをかけていく。
体温を奪われ、必要以上の水分を吸収してしまいまりさはぶるぶると体を震わせて
亀の様に小さく丸まったまま咳き込み続けた。
ジュースは、ゆっくりの傷を癒す効果はあるがそうはいっても水分だ。
過剰に摂取すれば饅頭のゆっくりにとってはやはり毒だ。

咳が収まるとまりさは怯えきって逃げ出そうと跳ねたが人間の足にゆっくりで逃げ切れるわけが無い。
それに走れば走るほど夜風がびしょ濡れのまりさの体温を奪う。
まりさの動きはどんどんと鈍くなっていった。


最初のころはたまに逃げ出そうとしていたが、今では凍え切り、ただただ震えるだけだ。
「どぉっ、ちてこんなことぉ…する、のぉ…!?」
まりさはブルブルと唇を震わせながら怯えた瞳で俺を見上げた。
「まりさが本当に僕のまりさなのか確かめたいんだ」
俺は淡々とまりさにそう告げる。
その間もまりさの頭にジュースをかけ続けた。
「わ゛がらないよおおお…!!どぼっぢでぇ…!!」
訳が分からずまりさはかぶりをふった。
「もうすぐだよ」
蒼白な顔のまりさに俺はそう言う。
まりさは呆然と俺のことを見つめた。
「もうすぐ舞踏会の時間だ」
まりさは凍えてろくに動かない体であとずさった。
ジュースで出来た水溜りに波紋が出来る。
「ゆっ、ゆっ…!?」
耳障りな羽音が一斉にこちらに向かってくるのに気が付いたのか、まりさは辺りを見回した。

俺はそれを聴いて口元を綻ばした。

『そして家来達にむかって王子様は命令しました』


何度呼びかけても返事が無いから僕は屈みこんでまりさの巣を覗き込んだんだ。
最初は暗くって良く分からなかった。
だから巣穴にもっと頭を突っ込んでよく見ようとした。
そしたら暗闇の中から何かが飛び出してきて僕の顔に突っ込んできて僕は尻餅をついた。
怯えて目を瞑った僕は、長い時間をかけて恐る恐る瞼をあげた。
目を瞑っていて暗さになれたせいか、今度は巣穴の中が良く見えた。

暗い巣穴の中には確かにまりさが居た。
そのすぐ傍には倒れて横になったジュースの缶。
中からはむせ返るような甘ったるい臭いがしてきて僕は思わず吐きそうになって口に手を当てた。
何かあったのかと思って僕はさらに目を凝らして巣穴の中を覗き込んだ。
そして僕はさっきの軽い吐き気なんかとは比べ物にならない本当の吐き気を催した。

虫が
まりさに虫が
わらわらわらわらいっぱい群がっていた
饅頭の皮が露出している部分はほとんど全部虫で覆われている。
その虫に覆われた姿を僕がまりさと認識できたのは
丸い球体にあの特徴的な黒いとんがり帽子が乗っていたからに過ぎない。

つぶらな瞳を収めていた眼窩からは薄暗い巣穴の中で気持ち悪いくらい真っ白な蛆虫がうごめいて
押し合い圧し合い時折まるで涙のように目の淵から地面へと零れ落ちていく。

肌のように見えていた場所は蛾や、蜂が覆っている。
鋭い羽音を立てながら無心にまりさの体を齧っている。

僕は鋭い悲鳴をあげた。
蛾や蜂はその声に驚いて飛びのき、まりさの肌が見えた。
端整ななめらかさな肌をしていたまりさは全身くまなく虫達に齧られてでこぼこの地肌を晒していた。
所々黒い何かが見えて最初はそれがすべて餡子がこぼれだしているんだと思ったが違った。
その黒い黒いブツブツは、蟻だ。
黒い黒い蟻の大群だ。
いっぱいの黒い点がまりさの顔の上をざわざわと蠢き続ける。
まるでテレビの砂嵐みたいだ。
ざわざわざわざわざーざーざーざー。

腕を抱きながらガタガタと震える僕はまりさ以外のある箇所に虫達が群がっていた。
そう、僕がまりさにあげたジュースの缶に一杯一杯一杯。
僕のあげた、ああまさか
違うんだ、僕はそんなつもりじゃなかったんだ。

本当だよ。
どうしてそんな目で僕を見るんだまりさ。

どうして、僕は、違う、わざとじゃない。

僕はうずくまり激しく嘔吐した。








『この娘達を母と同じように拷問せよ、拷問された後の顔なら思い出せる』








まりさは必死にジュースの甘い香りに惹かれてやってきた虫達から逃れようともがいていた。
だが体が必要以上に水分を吸収しすぎて思うように体が動かずに
ジュースの水溜りでばしゃばしゃと水しぶきをあげて
はたから見るとはしゃいでいるようにしか見えない。
俺はそれを見て本当に微笑ましく思った。

「おにぃっ…やめぇっ…!たずげ…っにぃざぁん…!だずっげで…!」
まりさは憐れっぽく縋るような瞳で俺に助けを求めた。
ジュースを頭からかけると、一時的に虫は退いた。
「ちがっ!ぢがうのぉ!ぞれじゃないのぉ!もうやだぁ!じゅーすざんい゛ら゛ない゛!
じゅーすざんはい゛ら゛な゛いのおおおおおおおおお!!」
まりさのふやけきった全身の皮が、絶叫のせいでブルブルと揺れる。
やがて、また甘い香りに誘われて虫達が集まり始める。
「どぼぢでっ、どぼぢでえええ!!」
虫達にたかられ、齧られながらまりさはもがこうとした。
だがもう足がふやけきって跳ねることも出来ないのか
その場から動かずにわずかに黒いとんがり帽子が揺れるだけだ。

水しぶきをあげ、周りに妖精のように虫を飛び交わせながらするそれは
まるでふわりふわりと踊っているみたいだった。
俺は素敵なその光景に微笑みを浮かべた。


俺を見つめながら憐れに潤んだ瞳も、やがて真っ白な蛆虫に取って代わるだろう。

俺は僕のまりさの笑顔が思い出せない
子どもの頃一番の友達だったあのまりさの笑顔が思い出せない。

思い出そうとすると、あの虫に喰われたまりさの顔が代りに出てくる。
そして僕に対して呪いの言葉を吐きかける。
でも俺はどんなことをしてでもまりさの笑顔がもう一度見たかった。
だからまりさとそっくりな笑顔のゆっくりまりさを探し始めた。
手がかりはある。
まりさの笑顔は記憶の中からぼやけて消えてしまったが
あの虫に食われたまりさの顔は脳裏に焼きついて離れたことは無い。
だから素敵な笑顔のまりさを虫に食わせよう。
ジュースを片手にまりさのことを食べた虫達に尋ねよう。
このまりさは僕のまりさと本当に同じ顔だったのか?
もうすぐわかる。
虫に食われたまりさの顔を見ればきっとわかる。
そうすれば僕のまりさの笑顔を安心して思い出せる。
このまりさの笑顔は覚えているから。

俺は今度こそこのまりさが僕のまりさであってくれ、とジュースをお供え物にして美しい満月に祈った。
祈りが聞き届けられたか否かは、夜が明ける頃にはわかるだろう。
それまでは、このまりさの踊りを楽しもう。
俺は地面に腰かけて、ジュースを一口飲んだ。


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最終更新:2008年10月18日 03:57
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