【ゆっくりサファリパーク】
夏の暑い日差しの下、僕とれいむはサファリパークへとやって来た。
ここでは虎やライオン、象やキリン等の野生の動物達がのびのびと過ごしている。
そしてめでたい事に、最近ではゆっくり達もその仲間入りをはたした。
ゆっくりとは本来、野生に生きる生物だ。
都会で生活している野良ゆっくりでは、本当のゆっくりの姿を見る事は出来ない。
僕は飼いゆっくりであるれいむに見せてあげたかった。
ゆっくり達が大自然の中で、ゆっくりと暮らしている姿を。
「大人1枚、ゆっくり1枚お願いします」
「ゆっくりは無料です。でもサファリ内に捨てないでくださいね」
失礼な事を言う受付だ。僕が可愛いれいむを捨てるわけないじゃないか。
れいむが腕の中から心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫だよ、れいむ。僕はそんな酷い事しないよ」
「そ、そうだよね! れいむ、ゆっくりしんぱいしちゃったよ!」
安心させるようれいむの頬を撫でながら、チケットの半券を受け取り、入場ゲートをくぐる。
目の前には数台のサファリカーと、広大な森が広がっていた。
暇そうにしてたサファリカーの運転手がこちらへと駆け寄ってくる。
「お客さん、さっそく行きますか?」
「うん、よろしく頼むよ」
「ゆっくりしていってね!」
本当にゆっくりされると困るのだが、運転手はれいむをスルーしたらしく、運転席へと乗り込んだ。
その後を追い、れいむを膝の上に乗せ、乗車席へと腰を下ろす。
「楽しみだね、れいむ! いっぱい仲間に会えるといいね!」
「うん、かわいいあかちゃんがみれるといいね!」
れいむの嬉しそうな顔をみて、僕はここに来て正解だったと確信した。
運転手がエンジンをかけ、車を発進させる。
さぁ、野生の世界へ出発だ!
覆い茂る木々を抜け、車は人工のサバンナへと到着した。
目の前には広大な大自然。れいむもゆっゆっと大はしゃぎ。
潅木が散らばり、遠くにはのんびりしてるキリンの姿も見える。
「見てごらん、れいむ。キリンさんだよ!」
「ゆゆっ! すごくゆっくりしてるね!」
「キリンさんはね、あの長い首で高い場所の葉っぱを食べる事が出来るんだよ」
「きりんさん、すごーい! まいにち、おそらをとんでるみたいだね!」
などとハートフルな会話をしていると、近くの草むらから二つの影が飛び出した。
おお、野生のゆっくりだ!
「ゆっくりしていってね!」
れいむが野生のゆっくり達に元気な挨拶をする。
おや? 向こうも、こちらに気が付いたみたいだ。
「「ゆっくりしていってね!」」
サバンナに、ゆっくり達の唱和が吸い込まれていく。
野生のゆっくりの数は二匹。両方ともまりさ種のようだ。
真っ黒な帽子が緑の中にゆっくりと映えている。
「運転手さん、ちょっと止めてもらっても良いかな?」
「ええ、いいですよ。でも、こいつらに餌はやらないでくださいね」
「ああ、わかっているよ」
大自然で生きるゆっくりに餌をやると、自分で餌を取る事を忘れてしまう。
それではこのサファリパークの意味がない。
それに僕が止めてもらったのは、なにもゆっくりに餌をやるためじゃない。
れいむに野生のゆっくり達と、ゆっくり交流してもらうためだ。
僕は窓から少しだけれいむを出してあげた。
「ゆっ! れいむがいるんだぜ!」
「すごくゆっくりした、びれいむなんだぜ!」
「ゆゅ~ん、はずかしいよぉ」
おお、どうやら野生のゆっくりの目には、れいむは美しく見えるらしい。
なかなか見る目のあるゆっくりだ。
「君達、もっと近くに来てもいいよ」
飼いゆっくりを褒められて嬉しくなり、僕は思わずまりさ達を呼び寄せた。
ゆっゆっと跳ねながら、車の近くまでやって来るまりさ達。
「き、きれいなんだぜ…」
「ま、まりさのおよめさんになってほしいんだぜ…」
「そんなこといわれても、れいむこまっちゃうよぉ」
顔を真っ赤にしたゆっくりが三匹。なんと微笑ましい光景なんだろう。
運転手は欠伸をしている。お仕事ご苦労様です。
「れ、れいむ! まりさは、かりがとくいなんだぜ!」
「ま、まりさのほうが、とくいなんだぜ! れいむをせかいいち、ゆっくりさせてやるんだぜ!」
「ゆっ…ごめんね、まりさ…れいむはおにいさんとくらしてるの。おにいさんじゃなきゃだめなの」
れいむが申し訳なさそうにポツリと呟く。
その言葉に僕の心は有頂天だ。れいむかわいいよれいむ。
「そんなワケだからごめんね。まりさ達は野生でゆっくりしてね」
まりさ達には残念だけど、僕はれいむをここに置いていく気はない。
僕の可愛い飼いゆっくりなのだ。それに、受付の人にも言われたしね!
「運転手さん、行って下さい」
「はいよ」
「まつんだぜ! れいむをおいていくんだぜ!」
「ゆっくりどうしが、いちばんゆっくりなんだぜ!」
そんなまりさ達の声をスルーし、アクセルを思いっきり踏み抜く運転手。
サファリカーの秘めた野獣が本性を現す。
研ぎ澄まされた牙、黒く分厚いタイヤが地面を噛み締め抉る。
「「ゆぎゃああああああああぁあああ!!」」
運転手があちゃーと声を漏らした。
れいむがショックで口から餡子を漏らしている。
車の側を跳ねてたまりさ達は、タイヤの下で引き餡子になっていた。
地面に刻まれた真っ黒な染み。残された帽子がまるで墓標のようだ。
これは車に近づけさせた僕の責任だろう。反省反省。
「すみません、運転手さん」
「あー、まぁ仕方ないよ。ゆっくりには、よくある事だから」
やはり自然に生きるというのは大変な事なのだなぁ。
れいむの口元についた餡子をハンカチで拭いながら、僕は心からそう思った。
「ところで運転手さん。まりさ達は、あのままで良いんですか?」
「大丈夫ですよ。他の動物か虫が掃除してくれます」
「なら安心ですね」
サファリカーは再び前進を始めた。
車に揺られながら、まだ泣いてるれいむに、野生の過酷さを教えてあげる。
最初はなかなか理解してくれないれいむだったが、ゆったりと歩いている象を見せたら機嫌が直ったみたいだ。良かった良かった。
「象さんはね、あの長い鼻で高い場所の葉っぱを食べる事が出来るんだよ」
「ぞうさん、すごーい! まいにち、おそらをとんでるみたいだね!」
「いや、上に行くのは鼻だけなんだけどね」
「ゆっ! ゆっくりりかいしたよ!」
などとハートフルな会話をしていると、近くの丘の上に揺れる二つの影が見えた。
おお、野生のゆっくりだ!
しかし、あの様子は普段と違う…そうか!
「運転手さん、ゆっくりの近くに止めてください。静かにゆっくりお願いします」
「はいよ」
ゆっくり達に気づかれないよう、こっそりと車を近づけ停止させる。
野生の動物ならこの時点で気づくだろうが、ゆっくりが相手ならこれで大丈夫だ。
それに僕の想像通りなら、エンジンを切らなくても気づかないだろう。
ひょっとすると、気をつけなくても気づかないかも知れない。
「ほら、れいむ。向こうを見てごらん」
「ゆっくりし──」
僕の指差す方にゆっくりを見つけ、早速、挨拶をしようとするれいむ。
だが野生のゆっくり達の様子に気づくと、慌ててその声を飲み込んだ。
「ゆっふぅうう! まりさぁ、かわいいよぉお、まりさぁあああ!」
「ありすうぅぅう、もっとまりさのまむまむを、つきあげるんだぜええぇええ!」
「んほぉお! うれしいこといってくれるわね! たっぷり、すっきりさせてあげるわぁあ!」
ご覧のように、ありす種とまりさ種がお楽しみの真っ最中だ。
過酷な大地の上では、子孫を残していく事が何よりも大事なのであろう。
こんな真昼間っからお盛んに腰を揺らしている。
二匹のゆっくりの身体は得体の知れない汁にまみれ、身をくねらせる度に、クッチュクッチュと音をたてた。
ありすの長い舌が、ピンクに染まったまりさの頬をベロベロと舐めまわす。
まりさはゆっゆっと切なげな声をあげると、今度は唾液で溢れたありすの舌へ、自分の舌を絡め始めた。
「んっちゅ、ちゅぱっ…! す、すごいわ、まりさぁあ! こんなとかいはなてく、どこでおぼえたのおぉお!?」
「じゅるっ、ちゅぽっ…! あ、ありすのために、れんしゅうしてたんだぜぇええ!」
「うれしいぃぃい! ありすのあいをうけとってぇえええ!」
「んっほ! んっほおおぉおおお!!」
ありすのぺにぺには、まりさへの思いで、はち切れんばかりに怒張している。
もう我慢ならんとばかりに、サバンナのように熱く湿ったまむまむが突き上げられる。
二匹の足元には、黒と黄色のマーブル模様の湖が出来上がっていた。
カスタードと餡子の混ざった咽返る匂いが、今にも風に運ばれこちらへと伝わってきそうだ。
「ハハハ、見てごらん、れいむ。あのありすのぺにぺに、すごく大きいね」
「もぉ、おにいさんのえっちぃ。それに、おにいさんのが、おおきいよぉ」
「こいつめぇ~」
「ゆぅ~ん」
運転手がケダモノを見るような目で僕達を見つめている。お仕事ご苦労様です。
「しゅご! しゅごい! ありすのぺにぺに、まりさのまむまむのおくに、あたってりゅうぅうう!」
「まりさ、にんっしんしちゃうの? ありすのぺにぺにで、にんっしんしちゃうのおぉおお!?」
「しゅっきりくる! しゅっきりきちゃうんだぜぇええ!」
「んほっ! んほっ! まってて、まりしゃ! ありしゅもしゅっきり! しゅっきりくるぅぅうう!!」
「「んっほおおおお!! すっき──」」
「「ゆ゛き゛ゃ゛あ゛あ゛あああああああああぁああ!!」」
「パオ~ン!」
運転手があちゃーと声を漏らした。
れいむがショックで口から餡子を漏らしている。
いつの間にか近くに来ていた象が、うっかり二匹のゆっくりを踏み潰していた。
何事も無かったかのように、のっしのっしと歩み去っていく象。
その足の裏には、悲痛な叫びを残したデスマスクが張り付いてた。
「いやぁ、驚きました。象って、こんな近くまで来るんですね~」
「まぁ、そこそこ人間馴れしてますからね。あまり馴れると困るんですが」
「ゆっ…ゆっ…ゆっ…」
れいむは自然の非情さに耐えられなかったのか、ガクガクと身を震わせている。
やっぱりれいむは飼いゆっくりだ。しっかり僕が守ってあげよう。
「それじゃ車進めて下さい」
「わかりました。今度は向こうの湖まで行ってみましょう」
サファリカーは再び前進を始めた。
人工物であろう湖が、サバンナの真ん中に広がっている。
きっと野生の動物達が、ここに水を飲みに集まったりするのだろう。
今、この水場を独占してるのは…おっ、ゆっくりだ!
「ごきゅごきゅ、おみじゅしゃん、しゅごくおいちぃね!」
「きゃっきゃっ、ちゅめた~い」
「あかちゃんたち、こっちきてね。おかあさんが、きれいきれいしてあげるね」
「「ゆゆっ! おかぁしゃん、ありがちょう!」」
どうやられいむ種の家族が水浴びをしてるようだ。
親れいむの周りを、赤れいむが楽しそうに跳ねている。
赤れいむは十匹近くいるだろうか? 結構な大家族のようだ。
そういえば、れいむが赤ちゃんを見たがっていたな。
「ほら見てごらん、れいむ。赤ちゃん達が楽しそうに水浴びしてるよ!」
「ゆっ…?」
まだ腕の中でガクガク震えていたれいむを持ち上げ、窓から家族の団欒が見えるようにしてあげる。
「ゆゆっ! ほんとうだ、あかちゃんがいるね!」
「そうだね、れいむと同じれいむが沢山いるね」
「ゆゆ~ん、みんなすごくゆっくりしてるよ~」
どうやら目当ての赤ちゃんが見れて嬉しかったらしい。
れいむの機嫌は、あっという間に直ってしまった。
「ゆっ、ゆ~♪ れいむのかわいいあかちゃん~♪ ぺ~ろぺ~ろ、いつもきれい~♪」
「ゆっゆっ! おかぁしゃん、くしゅぐっちゃいよぉ!」
「おねえしゃんばきゃりじゅる~い!」
「きょんどは、れいみゅをぺ~ろぺ~ろしちぇね!」
「みんなじゅんばんをまもってね! みんなでゆっくりしようね!」
「「ゆゆ~ん♪」」
赤れいむ達を順番に舐めてグルーミングする親れいむ。
この厳しい環境の中で、あれだけの家族を維持するのはさぞ大変だろう。
親れいむの苦労を思うと胸が痛くなりそうだ。
「ゆ~ん、あかちゃんすごくかわいいよぉ~」
「本当だね。あんな赤ちゃん達が家にいたら楽しいだろうね」
「おにいさん…れいむも、おにいさんとのあかちゃんほしいなっ」
「ハハハ、こいつめぇ~」
衝撃発言に嬉しさを隠し切れない僕は、思わず頬を赤らめてしまう。
運転手は遥か遠くのキリンの群れを見ていた。お仕事ご苦労様です。
「ゆゆっ! そろそろ、じかんだよ! ゆっくりしないで、おうちにかえろうね!」
「ゆっ!? どうちちぇ?」
「もっちょおみじゅさんであしょびちゃいにょに…」
「ゆっきゅりちようね?」
「だめだよ! あかちゃんたち、よくきいてね? ここには、もうすぐ──」
「ゆぎゃあああああああ!!」
突然響き渡る赤れいむの叫び声。
僕とれいむのハニームーンを邪魔するなんて、いったい何事なのだろう?
「ゆ゛か゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、れ゛い゛ふ゛の゛あ゛か゛ち゛ゃ゛ん゛か゛あ゛ぁ゛あああ゛!!」
運転手があちゃーと声を漏らした。
れいむがショックで口から餡子を漏らしている。
いつの間にか湖から上陸したワニが、赤れいむを次々と丸のみにしている。
リボンも残さずワニの腹の中へ収まっていく赤れいむ達。
「あかちゃんたち、おかあさんのおくちにはいってね! ワニさんのおくちじゃなくて、おかあさんのおくちにはいってね!」
「ゆっきゅりしないで、いしょぐよ!」
「おかぁしゃん、たちゅけてぇ!」
今度は母れいむの中に次々と赤れいむが収まっていく。
足の遅い赤れいむを収納して、一気に逃げるつもりなのだろう。
ワニはああ見えてかなり素早い。正直、あまり良い策とは思えないのだが…
子れいむの収納を終えた母れいむが、ワニに背を向け走り出す。
そのスピードはお世辞にも速いとは言えない。
このままだと追いつかれてしまうだろう。
しかし、母れいむの思いが通じたのか、ワニはこれ以上追って来なかった。
いや、正確には、最初に現れたワニは追って来なかった。
大きなワニの後ろから、小さなワニが三匹上陸してくる。
あのワニの子供達なのだろうか?
母れいむ目掛けて前進を始める子ワニ達。
小さな尾をくねらせて、恐ろしいスピードで追撃を開始する。
「でょぼぢでぶぇでるのぉおおお!?」
あーあ、後ろなんか見なきゃ良いのに。
子ワニ達はその圧倒的なスピードで、母れいむのすぐ後方へと付いてた。
「ゆっべっぎゃあぁああああああ!!」
一匹の子ワニの小さな口が、まず母れいむの足を食いちぎった。
最初に相手の動きを止める。子ワニの将来が楽しみだ。
動けなくなった母れいむの頬を、額を、真っ黒な髪を、子ワニ達がゆっくりと捕食していく。
母ワニと思われる大きなワニは、その様子を見ながら、大きな口を開け日光浴を楽しんでいた。
口と言えば、口の中に入った赤れいむ達はどうしたんだろう?
疑問に思い母れいむの口を注視してみる。
絶叫で大きく開かれた口の中では、絶叫のマトリョーシカが完成していた。
きっと叫んだ時に潰してしまったのだろう。ご愁傷様です。
数分後、湖にはワニの親子の団欒する姿だけが残された。
大自然の水場は公共物だ。誰が独占するわけでもない。
そう言えば母れいむには、ワニが来るのを理解していた素振りが見えた。
あれはどういう事なんだろう? しかし、その疑問に答えてくれる相手は腹の中だ。
今更どうしようもない。
「いやぁ、ワニって饅頭食べるんですね。驚きました」
「饅頭を食べるのかは解りませんが、見ての通りゆっくりは食べるみたいですね」
「不思議ですね」
「全くですね」
自然は神秘に満ち溢れている。僕は込み上げる感動に打ち震えた。
れいむは運転席のシートの下に潜りこみ、ガクガクと震えていた。
その後、クマの一振りで木っ端微塵になるゆっくりや、ヘビに丸のみされ腹から声を出してるゆっくり、子ライオンの狩りの練習相手にされるゆっくり等を見ながら、ゆっくりと出口へと辿りついた。
西に沈みかけた太陽が、真っ赤な光で僕等を照らす。
実に有意義な一日だった。僕は運転手とガッチリ握手する。
「今日は、ありがとうございました」
「いえいえ、またいらっしゃってくださいね」
「だってさ! また来ようね、れいむ!」
ビクっと身を震わせたれいむを腕に抱え、僕達はサファリパークを後にした。
おわり
最終更新:2008年10月27日 01:41