近隣の家屋から飛びぬけて大きな倉庫がある。
建坪自体はそこらへんの民家と変わらないが、高さは2倍ほどもある。
これはゆっくり小屋と呼ばれる、娯楽施設だ。
「おう、ゆっくりしていってね」
「おお田中さん。今日も一緒にゆっくりしましょうや」
ゆっくり小屋で俺を迎えてくれたのは、近所に住む加藤さんと佐藤さんだ。
すでに顔も紅潮し、ゆっくりしていたのが見て取れる。
「おい、量を増やせ。言われる前に働けクズが」
佐藤さんは、近くにあった木製バットで部屋の中心にある巨大な饅頭を叩いた。
「ぼ、ぼべんなざいぃいい!!いまずぐよういじまずぅう!!」
それは、俗にドスまりさと呼ばれるゆっくりだ。
部屋の中心にドスまりさが、鎖で縛られアチコチに鉄の棒が突き刺された状態で固定されている。
それを囲むように木製の椅子やらテーブルがある小屋。
サウナの部屋に似ている。
佐藤さんにブッ叩かれたドスまりさは、縛られた体を小刻みに揺らした。
周囲の人間やら何やらを強制的にゆっくりさせる、ドスの特殊能力らしい。
すぐに、俺の思考もゆっくりとしてきた。
「やっぱ仕事のあとはビールとゆっくりに限るねえ」
そういいながら、加藤さんが俺の持ってきたコップにビールを注いでくれた。
「どうもどうも」
注がれた泡たっぷりのビールをぐいっと飲む。
きゅー。
やはり、仕事の後をきゅっと締めてくれるビールはたまらない。
そしてこのゆっくり感。
つらい仕事の後には、このゆっくりと過ごせる時間が最高だ。
つまでも、何もしなくてもいいと許容されているような気分。
永遠に続く平穏、それを確信させてくれる空気。
俺は垂れたヨダレをぬぐった。
「ゆー・・・やっぱり仕事のあとのゆっくりはたまらんねえ・・・」
このドスまりさ。
近所の森で捕まえられたらしい。
そのまま生ゴミとして処理されるはずだったのだが、ある人がその特殊能力に気がついて監禁したのだという。
群れの仲間たちは人間の畑を襲ったりしない真面目なゆっくりばかりだったとか。
それを全部人質に取りながら、ドスを身体的、精神的に拘束しているのだ。
「ゆぼ・・・おべがいじまず・・・まりざはみんなのゆっぐりなんだよぉお・・・」
それでも時折、命乞いをする。
無駄だと分かっていながら。
加藤さんは手にもった槍で、ドスの頬を突いた。
ドスの分厚い皮は、腕を突っ込んだところで餡子にまで届かない。
それどころか圧力で腕がもげる。
なので長い槍で餡子をつついて自身の立場を理解させてあげるのだ。
「ゆっ!俺達がゆっくりしてるんだよ!ドスは黙って俺達をゆっくりさせろ!」
「そうだよ!もっとゆっくりさせろ!」
俺も、佐藤さんも槍でドスの頬を突いた。
それに刺激を受けたのか、いっきにゆっくり感が俺の脳を襲う。
ああ、いいゆっくりだ――。
数時間、ゆっくりしたあとに小屋を出た。
するとそこに2匹のゆっくりがいた。
まりさ種とれいむ種。スタンダードな組み合わせだ。
「おにいさん!おねがいだからドスをかえしてね!」
「ドスのゆっくりはみんなのゆっくりなんだよ!」
なんだコイツらは。
俺からゆっくりを奪おうだなんて、ふてえ野郎だ。
「うるさいよ!!ドスは俺達のものだよ!ゆっくり理解してね!!」
俺は2匹を物言わぬ餡子にして、家に帰った。
終わり。
最終更新:2009年01月23日 14:51