にとり×ゆっくり系11 ほぺミキ

               ほぺミキ





「~♪ ~♪」

楽しげな鼻声の聞こえる台所。
水色のエプロンをつけた小柄な少女が料理を作っていた。
軽快なリズムに乗せて、少女はボールに突っ込んだ泡だて器をかき混ぜる。
カチャカチャと小気味の良い音が、ボールの中から響いていた。
カチャカチャチャ。
泡だて器のリズムに合わせて、少女のツーテールがふるふると揺れる。
ボールの置かれた台の上には、そこかしこに生地が飛び散り、エプロンにも盛大に飛び散っていたが、
少女の表情は楽しげ。
心底料理を楽しんでいるようだった。
彼女の名前は河城にとり。
河童である。

「そろそろいいかな~?」

にとりは充分に混ざった生地を、四角い型の中に流し込んだ。
粘度の高い生地が、ゆっくりと型を満たす。
ボールの中身をすべて注ぐぎ終わると、にとりは次の準備に取り掛かった。
ちゃぶ台に置かれた包み紙を引き寄せ、中を覗き込む。

「待たせて悪かったね」
「ゆっくりしていたよ!!!」

紙袋の中から返事が聞こえた。
明らかに、人間の言葉だった。
ガサガサと紙袋の中に手を突っ込み、にとりは球形生物の一匹を掴み取る。
にとりの手の中には、人間の頭部を縮小したような生物が収まっていた。
その生き物は、手のひらの上で体を奮わせると、全身を使って笑顔を浮かべた。

「ゆっくりしていってね!!!」
「良い声だね」
「ゆぅーん」

丸い生き物は、ほめられたことが嬉しかったのか、伏せ目がちに顔を赤らめた。
にとりが手にしている生物は、ゆっくり種と呼ばれる生き物の、幼生だった。

「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね!!」

紙袋の中から、声が聞こえる。
にとりの左手に抱えられた紙袋の中で、他のゆっくりたちが飛び跳ねているようだった。

「ごめんごめん、みんな出してあげるよ」
「ゆっくりしていってね!!!」

にとりはちゃぶ台の上に、ゆっくりたちを出してやった。
ちゃぶ台に転がり落ちる、色とりどりのゆっくりたち。
種類が違うのか、どのゆっくりも似ていなかった。
つば広の三角帽子を被った、金髪のゆっくり種、ゆっくり魔理沙。
これまた金髪でカチューシャを乗せたゆっくりアリス。
にとりが手に持っているのは、赤いリボンをつけたゆっくり霊夢だ。
にとりは手に持っていたゆっくり霊夢を、ちゃぶ台の上に乗せてやった。
3匹仲良く並んだゆっくりたちは、頬を擦りあわしてお互いを確認すると、瞳をキラキラさせながら一列に並んだ。

「ゆっくりしていってね!!!」

タイミングを計ったかように、三匹が同時に発声した。
声量の違いはあるが、どのゆっくりたちも伝える内容は同じである。
うまく言葉が合わさったことが嬉しいのか、三匹はやり遂げたような表情で、満足げににとりを見つめていた。

「うん。それじゃ、料理に取り掛かろうか」
「ゆっくりしていってね!!!」

にとりはそう言うと、ちゃぶ台の上にガラスでできた円筒状の器具を乗せた。
基底には三種類のスイッチが並び、その上に波打った円柱ガラスが載っている。
蓋の乗ったガラス容器の底部には、金属でできた三角形の四枚刃が、花のように咲いていた。
つまり、ミキサーである。
にとりはミキサーのガラス越しに、ゆっくりたちを見つめた。
ゆっくりたちの体がゆがんで見えて面白い。

「さ、どの子から、ゆっくりしたいかな?」
「ゆっくり、ゆっくり!!!」

にとりの言葉にゆっくりたちが飛び跳ねて己をアピールする。
ゆっくりするという言葉は、ゆっくり種にとって大切なものらしかった。
生まれた瞬間から親から隔離されて育てられた3匹は、にとりの言葉に絶大な信頼を置いている。
にとりを両親と勘違いしているのかもしれない。
にとりを見上げながら懸命に飛び跳ねていたゆっくりたちだったが、あまりに熱心に飛び跳ねたのか、
ゆっくり霊夢が顔面から、ちゃぶ台に突っ伏してしまった。
ぺとりと落ちたゆっくり霊夢に、にとりは餅を連想した。

「ゆう!」
「ゆゆっ!?」

他の2匹はゆっくり霊夢を心配して、慌てて寄り添う。
涙目になったゆっくり霊夢の片方の頬をゆっくりアリスが舌で舐める。
反対側の頬にはゆっくり魔理沙が体を摺り寄せていた。

「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね!!」

2匹の言葉に、ゆっくり霊夢の顔にも笑顔が戻る。
若干赤くなった顔面に、笑顔を浮かべて一言。

「・・・・・・ゆっくりしていってね」
「ゆゆー!!!」

ゆっくり霊夢の笑顔に、残りの2匹も喜びの表情を浮かべ、いつまでもゆっくりゆっくりと言い合っていた。

「元気すぎるのも、ダメだよね」

にとりは苦笑しながら、ゆっくり霊夢の頬を突っついた。
驚くほど柔らかい頬が、ぷにぷにとにとりの指を弾く。

「ゆふぅ」

ゆっくり霊夢はくすぐったいのか、にとりの指に体を擦り付けながら、頬を赤らめていた。

「オマエは元気が有り余ってるみたいだから、一番にしてあげるね」
「ゆっくり!」

にとりはゆっくり霊夢を掴みあげると、ミキサーの上に持っていった。
ちゃぶ台の上では、他の2匹が羨ましそうに、ゆっくり霊夢を見つめている。
にとりは無造作に、ゆっくり霊夢をミキサーの中に入れた。
ガラスの側面をコロコロと滑り降りていったゆっくり霊夢は、待ち構えていた刃に体が突き刺さった。
柔らかい幼生の表皮を、刃は意図も簡単に貫く。
ゆっくり霊夢の深い部分にまで、刃は食い込んでいた。

「ゆぐっ!」

にとりは素早く蓋を閉めた。
ミキサーの中では、ゆっくり霊夢が苦悶の叫びを上げていたが、完全に密封されたミキサーからは、
くぐもった声しか聞こえなかった。
にとり自作のミキサーは、蓋のスキマがゴムで覆われた一品だった。
外にいる2匹は、一瞬怪訝な表情を浮かべたが、以前と変わらぬよう、羨ましそうに見つめている。
ミキサーの中でビクビクとのたうち回るゆっくり霊夢の姿が、楽しく遊んでいるように見えるのだろう。
早く自分の番が来ないかと思っているのかもしれない。
にとりはガラス容器越しに、中にいるゆっくり霊夢を眺めた。
大きく口を開けて涙を流している表情が、ガラスに屈折して、なお面白かった。
にとりはガラス容器に耳をくっ付けると、弱と書かれたスイッチを押し込む。
ゆっくり霊夢の体に刺さった5枚の刃が、静かに回転し始めた。

「・・・・・・!!」

体が切り刻まれていくゆっくり霊夢は叫び声をあげている。
にとりだけに聞こえる、断末魔の叫びである。
にとりは最後の一片まで、ゆっくり霊夢の断末魔を堪能した。
やがてゆっくり霊夢は、体が液体状になるまで細切れにされ、黒々とした液体になった。

「よし」

にとりは満足そうな表情で体を起こした。
ちゃぶ台の上に残った、ゆっくりアリスとゆっくり魔理沙は、不思議そうな表情で、にとりとミキサーを交互に見つめていた。
2匹にも、ミキサーの中にいたゆっくり霊夢が消えてしまったことが不思議でならなかった。
だが、ミキサーの回転は幼い2匹にとってあまりにも早すぎ、目の前に満たされた黒い液体と、丸くてゆっくりしたゆっくり霊夢の姿が結びつかなかった。
いつの間にか消えうせてしまったのだと、考えていたのだ。

「ゆっくりしていってね?」

ゆっくり魔理沙が疑問系の言葉を発する。
なぜ仲間が消えたのか、不思議で堪らないといった声だった。
にとりはゆっくりたちを無視し、ガラス容器を取り外すと、生地のところに持っていった。
新たにボールを取り出すと、元ゆっくり霊夢だった液体を流し込んだ。
次はゆっくり魔理沙にしたほうが洗うの楽だね、などと呟いている。

若干不安げな表情を浮かべ始めた2匹のところに、にとりは戻ってきた。
笑顔を浮かべ、ゆっくり魔理沙を掴みあげる。
にとりの手のひらに収まったゆっくり魔理沙は、何か言いたげに、もじもじと体を揺らしていた。

「ん、どうしたのさ」
「ゆー、ゆうー、ゆっくりしていってね?」

おそらく、ゆっくり霊夢はどうしたのかと聞いているのだろう。
なんとなく意味のわかったにとりは、ゆっくり魔理沙に笑顔を見せた。
白い歯が眩しい、極上の笑顔である。

「とてもゆっくりしたところに行ったんだよ!」
「ゆっくりしていってね!!!」

にとりの笑顔に、ゆっくり魔理沙も笑みを返した。
不安感が消え去ったのか、ゆっくり魔理沙は自分から、ミキサーの中に飛び込んだ。
だが、ゆっくり魔理沙は見てしまった。
顔面から落ちたゆっくり魔理沙は、下で待ち構えている金属の刃を。

「ゆっ!?」

体を捻って避けようにも時間はなく、重力に逆らう力もゆっくり魔理沙にはなかった。
スローモーションで接近してくるミキサーの刃。
顔面から落ちたゆっくり魔理沙は、両目に刃が突き刺さった。

「ゆぎゃあああ──・・・・・・」

にとりは素早く蓋を閉めたが、ゆっくり魔理沙の叫び声は、今度は確実にゆっくりアリスにも伝わった。
幼いゆっくりアリスとて、苦痛の叫びは知っている。
とてもゆっくりしていない場所に、仲間たちは入ったのだと、理解してしまった。

「ゆっくりしていってね!! ゆっくりしていってね!!!」

必死にゆっくりを促すゆっくりアリス。
ぴょんぴょんと飛び跳ね、ミキサーの中にいるゆっくり魔理沙に呼びかけていた。
にとりはゆっくりアリスを無視して、ミキサーのスイッチを押した。
羽音のような金属音が響き、ゆっくり魔理沙は粉々になる。
ゆっくりアリスは半分泣きながら、ゆっくり魔理沙に呼びかけ続けていた。
涙で底部を滑らせながら、呼びかけ続けている。
にとりは、同じようにゆっくり魔理沙だったものを持って行き、新たなボールに移した。
もうすぐ下ごしらえも終わりである。
意気消沈したゆっくりアリスの元に、にとりは笑顔で戻ってきた。

「お待たせ」
「ゆっくりしていってね・・・・・・」

ゆっくりアリスは泣きながら、戻ってこない仲間を探していた。
疲れ始めているのか、跳躍が低くなっている。

「ん~、そんなにゆっくりしたくない?」
「ゆっくり・・・・・・」
「ここに入れば、また一緒になれるよ」
「ゆっくり!?」
「うん。ホントだよ。オマエの仲間たちも、ゆっくり待ってるんだよ。
凄くゆっくりした場所に、行ったのかもしれないんだよ?」
「ゆっくり・・・・・・ゆっくりしていってね!!」

にとりの説明は、ある意味では正しいといえる。
3匹仲良く、天国もしくは地獄でゆっくりしろと言っているのだ。
幼いゆっくりアリスの精神は、目の前の希望にすがり付いた。
にとりの手にされるがままに、ミキサーの縁に持っていかれる。

「でもさ」
「ゆゆ?」

にとりは最後に、ゆっくりアリスに言った。

「そんなわけないじゃん」
「ゆっくりぃーーーー!!!」

感情の爆発した表情のゆっくりアリスが、ミキサーの中に消えていった。
中から小さな叫び声が聞こえ、その後大きな悲鳴が続く。
にとりは静かに蓋を閉めると、スイッチを入れた。

焼きあがった生地の上に、ゆっくりたちのペーストを載せ、さらに生地を載せていく。
三層になった黒と白のストライプが、円形に巻かれて行った。
氷室でしばらく冷やして完成。
にとりが作ったのは、ゆっくりを甘味料としたロールケーキだった。
にとりは完成したロールケーキを眺めながら、にこりと笑った。
これを宴会にもっていけば、人間たちと仲良くなれるだろうか。
楽しく作って、友好の架け橋にもなるロールケーキ。
趣味と実益を兼ねた、素晴らしい料理。
僅かな不安と期待を持って、にとりは家を後にした。
ゆっくりたちの髪飾りも髪の毛も一緒くたに混ざったロールケーキが好評だったかどうかは、
別の話である。






                                おわり



あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ほっぺたからミキサーまでと、テンプレに書いてあったので・・・・・・。

このSSは、* さくしゃ あて シリーズ! * です。

壁のなかに(略

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最終更新:2008年12月07日 14:02
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